よあけるな

魔女になりたかった26歳。平凡な会社員。

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最近の記事

月と凪

胸が苦しい。 息が、肺が、いつもより少し締め付けられる感じがする。 感受性の、受信アンテナが普段よりも過敏になっているせいで、少しのことで動揺してしまう。 凪。感情の理想は凪。 穏やかでいたい。感情を波立てたくない。のに。 満月のころはいつもこうだ。 聴こえない声は、飛んでくる刃物のように。 自身の心の声は冷たい。 自分を痛めつけて、どんどん暗い道にハマっていく。 楽器を弾くのが好きだ。 でも今は好きじゃない。 「楽器を弾きに行く」と言って忙しくすると、寂しがる人が居る

    • 罪と甘さ

      久々に恋をした。 同じ大学の、同じサークルの、可愛い後輩に恋をした。 まさか、と思った。 今までずっと、「弟のような後輩」としか見ていなかったから。 君だって、私のことを「姉のような先輩」として見ていただろう。 大学卒業後、君とは疎遠になるだろうと思っていた。 けど君は、「先輩、ご飯行きましょう!」と何度も誘ってくれた。 最初は焼肉。 君が「車を出す」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。 焼肉を頬張る君の笑顔。 少しドキドキしたのは間違いだと思いたかった。

      • 姉と毒林檎

        鏡よ鏡。 この世で1番可愛いのは誰? 私の鏡はいつだって、 「あなたの弟よ。」 と応える。 弟は可愛い。 いや、私は可愛いなんてこれっぽっちも思ってない。 あくまで両親にとっては、弟は最高に可愛いらしい。 週末。 今日は中学が休みなので、私は1人で留守番をする。 学習机に向かう。課題を片付ける。 さらに、数学の勉強も済ませる。 数学は苦手だ。 授業中に「難しいな」と感じた日は、必ず帰宅してから復習するようにしている。 こういった努力もあり、テストでは学年150人中、毎回

        • ラピスラズリ

          舞台には、魔法がかかっている。 いや、「魔法がかかる瞬間」がある。 アスリートは、集中力を最大限に発揮した結果、「ゾーン」に入ることができるらしい。 では、私が今いるここはどこなのだろう。 舞台をぼんやりと照らすライト。 先ほどまでは、やわらかなオレンジ色だった。 奥にはお客さんがいる。 光崎大学マンドリン倶楽部の定期演奏会。 部員29名。 うち、5名が本日引退する。 私の1つ上の先輩たちだ。 木でできた、大小の雫が並ぶ、マンドリンオーケストラ。 ピックを持

          魔法アプリ

          昼休み後半。 千夏は別授業のため、8号館へ移動してしまい、空きコマの私は1人になった。 食堂は蒸し暑いので、近くのコメダへ移動し、着席するなり葵のアイスを頼む。 グラスの水滴。 玉のような、ガラスのような透明なそれに見惚れていた。 そして、小豆とアイスコーヒーと氷の溶け合い、混ざり合うのを眺めた。 外の蝉の声に耳を傾けたりもした。 誠に風流である。 否、大変暇なのである。 明後日までに終わらせなきゃな課題があるのはわかっているのだが、手をつける気にならない。 「効率

          魔法アプリ

          ハートの欠片

          私はチョコレートが好きだ。 だから、普段食べるお菓子も、アイスも、もちろん誕生日ケーキもチョコレート一択だ。 なんでチョコレートが好きかって? まあ、上手くは言えないのだけど。 目の前のハート型のケーキ。 味はもちろんチョコレート。 グレーブラウンのフリルのようなホイップクリームに、苺の赤が花飾りのように美しく生える。 いただきます、と手をつけようとした時。 「あ、このケーキも美味しいよ!よかったら交換しない?」 差し出されたのは、同じくハート型のケーキ。 けど

          ハートの欠片

          遅咲きの緋

          1月に生まれたから、「睦月」と名付けられた。 なんて単純な。と、今でも彼女は思う。 睦月は、幼いながら、自分が周りより劣っていることに勘づいていた。 身体は小さく、体力も無かった。 小1の頃。 初めてのマラソン大会では、女子80人中71位。 足が遅かった睦月は、足が速い子を心底羨ましいと思っていた。 さらに、睦月の通う小学校では、足が速くて目がぱっちりしている子がモテた。 そのことが睦月のコンプレックスを一層強くさせた。 睦月は、細くて切れ長の目をよくからかわれてい

          共感地獄

          わかる、わかる。 ほんとつらいよね〜。 大丈夫。何でも相談して? いつでも話して良いよ!! 今度ご飯行こ!! うん、わかる。 つらいよね、そういう時。わかるよ。 何でも相談して! 力になれる事があったら言ってね!! ペチャクチャペチャクチャ。 運ばれてくるデザート。 とめどないおしゃべり。 共感。励まし。 スイーツは、甘い毒のように身体を侵食し。 吐き出される悩みは、心と脳を、彼女と同じ色に染め上げる。 時間と金は消費され。 共感すればするほど

          青系魔法少女になりたかった💎(?)

          青系魔法少女になりたかった💎(?)

          繊細と繊細

          1ヶ月ぶりのデート。 初夏のじめじめとした空気と、刺さるような熱い日差しの中で君を待つのは幸せだ。どうかしている。 待ち遠しい待ち遠しい、夏が待ち遠しいと風が鳴るのを聞いていると、君は少し小さくなりながら「お待たせ」と言い、やってきた。 「そんなに待ってないよ」とは言うものの、かなりの時間突っ立っていたこと、君にはお見通しだろう。 ということを、僕はお見通しだ、というか、まあ、そんなことはどうでもいいのだ。 普段はパンツスタイルの多い君だが、今日は珍しくレース地のワンピー

          繊細と繊細

          今すぐ使いたい魔法第1位 痩せる魔法

          今すぐ使いたい魔法第1位 痩せる魔法

          青の花園

          お前の世界と俺の世界。 人間は誰しも、一人一人、自分の世界を持っている。 何が普通で、何が変なのかはわからない。 でも、俺の世界が「普通でない」ことは確かだ。 「友達たくさん出来ますように!」 「………」 「俺の名前の由来。友達!たくさん出来ますように!!」 「…………うるさい。」 大学の入学式。俺と長谷は、晴れて同じ大学に入ることができた。 長谷はともかく、俺はよく頑張った。 長谷はともかく。こいつは天才だからだ。 俺はとにかく勉強ができない。 勉強をしようと机に向か

          夜のままで

          僕には好きな人がいる。 2つ上の、大学の先輩だ。 先輩と僕が所属する文学同好会では、毎週火水金曜日、部室に集まり、雑談したり、読書会をしたり、小説を書いたり、お菓子を食べたり、雑談したり雑談したり雑談したりしている。 文学同好会と言うよりは、雑談同好会の方が正しいかもしれない。 (なんて言うと、部長に叱られるので言わない。) ある日の昼休み。次の授業の教室への移動途中。 校舎の前では、サークル部員たちが一生懸命ビラを配っている。 桜の花は散っていて、葉をつけ始めていた。

          アンチヒロイン

          邪悪な存在の私は、この純粋無垢な少女を救いたい。 助けたい。 目の前に立つ、紺色のセーラー服を着た少女。 肩上までの髪は黒く、艶はあるが無造作である。 細い目は少し暗く、顔は少し青白い。 美人ではないし、田舎の素朴な女の子、という印象だ。 名前は「香純」。「かすみ」と読む。 この子は優しい。 否、優しすぎる。 そんなんだから、舐められる。 クラスメイトに「不細工」と言われても、ヘラヘラと笑う。 「本当に不細工だなあんた。」 思わずそう言うと、目の前の少女は目を潤ま

          アンチヒロイン

          6帖の宇宙

          この春、私は一人暮らしを始めることになった。 1K6帖。 この部屋の支配者は私だ。 私は部屋を作る。 薄いグレーのラグに、まっさらな白地のローテーブル。グレーのゆったりとした座椅子。 白地のテレビ台の上に、小型のテレビ。 このテレビは社会を映し出すし、また、私の好きなアニメを映すこともできる。 もちろん、YouCubeやNetflexも。 リラックススペース(天国)ができたところで、次に背後のスペースを整える。 言うまでもなく、寝る場所は大事だ。 眠る環境によって、翌

          ダイエットは明日から

          ダイエットは明日から! そう言って、昨日の夜は、ファミレスでたらふく食べたのだった。 頼んだのは、チーズハンバーグセット。もちろん、ドリンクバー付き。 「お熱いのでお気をつけくださいませ。」 鉄板の上でグツグツと鳴るハンバーグ。 ナイフで割ると、肉汁が、じわり。 香り豊かなデミグラスソースと、柔らかいチーズが混ざり合う。 ハンバーグもライスも残さずに食べた。 満足したかに思えたが、やはり甘い物も欲しい。 芸術品のようなチョコレートパフェ。 宝石のようなラズベリーがアクセ

          ダイエットは明日から