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「書く人」から「つくる人」へ。古賀史健さんのライター講座で学んだこと。


3月11日(木)20:00から、YouTubeで『「書く人」から「つくる人」へ。古賀史健さんによるライター講座』と題して、「嫌われる勇気」の共著者である古賀史健さんの講座がライブ配信されました。

「ライターとは何か?」という問いかけから始まり、最後の質疑応答まで、古賀さんが終始ゆっくり丁寧に解説くださったのがとても印象的でした。

「ちょっと、レジュメ確認しますね」と、たまに照れ笑いでカンペを見に行く古賀さんの姿がちょっと面白くて、親近感を勝手に感じつつ、107分のセッションを最後まで楽しく視聴させて頂きました。

講義をしてくださった古賀さんへの感謝の思いを込めて、今回は学んだことを自分なりにまとめて、配信を見れなかった人とも、見れた人ともシェアできたらと思います。

拙い文章ですが、どうぞご容赦ください。

(話された順番での記載になっていないところもあります)


ずるい話だけど、コンテンツを作るのがライターだ。

小説を書くのが、小説家。

エッセイを書くのが、エッセイスト。

そうやって書く人にはいつも名前が付いていて「何を書いているのか」が明確だけど、

「書く人」という意味の「ライター」は、どこかざっくりしていて定義が曖昧だと思います。

そこで講座はまず、「ライターとは何を書く人なのか?」というライターの定義を定めるところから始まりました。

ライターの定義として古賀さんは、こう言いました。

「ずるい話だけど、コンテンツを作るのがライターだと思います」

コンテンツって全部じゃんか!という突っ込みをさせない「ずるい話だけど」の枕詞に、まさに「ずるいなあ」と思いながら、話は「コンテンツとは何か」に進んでいきます。


じゃあ、コンテンツって何だろう?

古賀さんは「コンテンツを作るのがライターである」と、ライターの定義をした上で、「じゃあコンテンツとは何か?」という、コンテンツの定義に迫っていきます。

コンテンツという言葉を古賀さんは、「"読者のため" に書かれたものはすべてコンテンツ」であり、「お客さんを楽しませるエンターテインメントの要素が含まれているものがコンテンツ」である、と明確に分かりやすく定義されていました。

そして、このように続けられています。

「文章を書くだけのライターから、コンテンツを作るライターになる。その間には必ず『編集者』が存在しています」と。

そしてここから、「編集者」とは何かという話が展開されていきます。


「人、テーマ、スタイル」を考えるのが編集者。

書くことは誰しも日々、何らかの形でやっています。

友達とのラインや、仕事でのメールのやり取り。文章を書くことは誰にでもできます。

でも、「ただ書くこと」と、読み手を楽しませるエンターテインメントとして「コンテンツを作ること」には、大きなギャップが存在します。

そのギャップを埋めるのが「編集者」です。

編集が介在するからこそ、お客さんを楽しませるコンテンツができる。そして、全てのライターは編集者としての役割も担う必要がある、と古賀さんは語られました。

さらに、具体的に編集者が編集の仕事をするときに考えるべきこととして挙げられたのが「人、テーマ、スタイルの3つ」

「人、テーマ、スタイル」とはつまり、「誰が何をどうやって伝えるのか」を考えること。これが編集者の大切な仕事だそうです。

古賀さんは、この3つの視点を、三角形の図を使って一つずつ丁寧に説明されます。

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①「人」

まず、三角形の頂点の「人」。

これは、「誰が書いた文章であるか」ということです。

例えば、ミシェル・オバマさんとオバマ元大統領の回想録の本は、その出版契約料だけでなんと6000万ドル。日本円で約65億円だったそうです。

それだけのお金を出してでも「オバマさん」「ミシェル夫人」が書く本を出版したいと思うのは、もちろんそれが他ならぬオバマさんとミシェル夫人が書く文章だからです。

この二人の本であるというだけで、読みたいと思う読者が世界中にたくさんいるからです。


②「テーマ」

そして、次に左角にある「テーマ」

これは、「誰が何をどう語るのか」の「何を」の部分にあたるもの。いま読者が読みたいと思っているテーマは何だろう、という視点です。

最近で言えば、「コロナ」というテーマで出版された本が書店に多く並んでいます。


「人」と「テーマ」の距離

「人」と「テーマ」を考えるときに大事になるのが、「人」と「テーマ」の結びつき、つまりその「直線距離の長さ」だと言います。

例えば「コロナ」をテーマにした本を出版するとき。コロナを語るにふさわしい、感染症分科会の尾見会長のような人に書いてもらえば、その本には信頼性も生まれて、読者に支持されるでしょう。

ただそれだけでは、面白くない。

「コロナ&尾見会長」というリンクでは、あまりにも単純で、誰でも考え得るため意外性がないのです。

だからこそ、「人」と「テーマ」の距離を長くすることでいかに「意外性」を出すか。ここが編集者の腕の見せ所になるそうです。

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例えば、2003年に出版されベストセラーになった養老孟司の「バカの壁」という本。

実はタイトルからは想像しづらいですが、本書は「認知の限界」について書かれた本なのだそうです。

ただ、これがもしそのまま「認知の限界」というタイトルで出版されていたとしたら意外性もなく、読者の興味をそそることはできなかったはず。

養老さんとタイトルにギャップを作るように、あえて「バカ」という言葉を使ってタイトルを付けた。

この戦略が功を奏して、本書は大ヒットベストセラーになったのではないか。そう、古賀さんは解説されていました。

「テーマ」を横に横に転がして、辺を伸ばす。

それは、「コンテンツ」を編集するという行為ではなく、「人を編集する」行為だとも言われました。

「この人すごいな」「本にしたいな」という時、編集者はその感動をストレートに表現するのではなく、もっと大きな辺を作るために、考える。

どういうテーマを与えたらこの人はもっと輝くのだろうか、と悩む。

それが「人を編集する」ということなのだ、と話されていました。


③「スタイル」

そして最後の角、「スタイル」。

これは、「誰が何をどう語るのか」の「どう語るか」の部分に当たります。

語り口調にするのか、入門書スタイルにするのか、「マンガで分かる~」という漫画スタイルにするのか。

この人がこういうテーマについて書くとしたら、どういった伝え方をするのが一番伝わりやすく広く読者に受け入れられるのか、という視点です。


「人、テーマ、スタイル」が調和するベストセラー

1995年に出版されてベストセラーになった「ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで」という本があります。

これは、タイトルを見ただけで「誰が何をどう語るのか」が分かるように出来ています。

誰が:ホーキング博士が
何を:宇宙の始まり(ビッグバン)から終わり(ブラックホール)までを
どう語る:一般読者向けに「語る」

とても面白いと思ったのは、もともとの英題が「A Brief History of Time」という、ホーキング博士も、宇宙も、スタイルについても全く触れられていないタイトルだったという点です。

日本語版に翻訳される際に、タイトルをあえて戦略的に上述のように決めた点、本当に「すごいな」の一言に尽きると思いました。


「もしドラ」で考えてみよう

この三角形の考え方を使って「編集」という視点から、なぜあの "もしドラ" がベストセラーになったのかについて、考察が語られました。

"もしドラ" とは、2009年に出版された「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という、あの超有名な本です。

当時「ドラッカー」も「マネジメント」も全く関係ない高校生だった私でさえ本の存在は良く知っていたので、世代や関心を超えて広く読者に届いたのだということは肌感覚で覚えています。

この "もしドラ" 。もともと著者の岩崎夏海さんが「ドラッカーのマネジメント論」をたくさんの人に読んでもらいたいという思いが発端となって企画されたのだそうですが、

当時まだ名前の知られていなかった岩崎さんという「人」が書いた、ドラッカーのマネジメント論という馴染みのない「テーマ」では、どうしても発展性がなかった。

だから、あえて野球部を舞台にした青春小説に仕立て、そこに川島みなみちゃんというキャラクターを登場させてドラッカーを語らせる。

そうすることで、「アニメ」という切り口からも、「青春小説」という切り口からも、さらには「ドラッカーのマネジメント論」という切り口からも広く読者取り込めるようにしたのではないか。

そうやって窓口を大きく開くことで、結果的に多くの読者に読まれる本になったのだろう。

そう、古賀さんは「後付けではあるけど・・」と一言加えながら、解説をされていました。


「嫌われる勇気」のヒットの理由

そして、この「三角形の考え方」を実際に使って編集されたのが、2014年出版の「嫌われる勇気」だそうです。

「嫌われる勇気」のテーマであるアドラー心理学は、当時日本ではまだ広く知られていませんでした。

もっと多くの人に知ってもらいたいと思った古賀さんは、アドラー心理学の入門書を執筆されていた岸見一郎さんにアプローチをして、出版を企画したそうです。

ただ、当時は岸見さんもそこまで有名でなく、アドラー心理学といのも日本ではマイナーだったため、企画書がなかなか通らなかった。

そこで古賀さんが考えたのが、著者の名前で売り出せないのであれば「鉄人と青年」という架空の人物を使って、そのキャラクターにアドラー心理学を語らせよう、というパッケージの転換でした。

そしてこの方向性の転換が功を奏し、本書はベストセラーになったのです。


編集の力が、なんとなく分かってきました・・!


もう一つ三角形を重ねて考える

ベースとなる三角形に加えて、ここからは、もう一つ三角形を重ねて「編集者が考えるべきこと」をさらに深く、分かりやすく教えてくれました。

今度の三角形で考えるべきことは、「情報の希少性」「課題の鏡面性」「構造の頑強性」です。

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情報の希少性:他の媒体で何度も語られていることを記事にしても意味がない。「ここでしか語られていないこと」を世に出すためには、取材をする相手が他の媒体で何を語っているかを知っておくなど、下調べ・事前の準備が必須。さらに、語られたことがその業界で「皆が言っていることなのか」それとも「その人の独自性あるコメント」なのかを知る、調べることも大事。
課題の鏡面性:人は自分に関連があることにしか興味がないので、いかに読者に「自分事」として読んでもらえるかが重要。例えば、12星座占いで自分や身近な人以外の星座の欄を読むことはまずなくて、それはコンテンツにおいても同じことが言える。読者は他人事であると思った瞬間、興味をなくすので、編集においては他人事をいかに自分事としてもらえるかという視点で、他人事と自分事の間に「ブリッジ」をかける意識を持つことが大切。
構造の頑強性:長い文章になればなるほど堅固な構造が必要。構造を作った上で、その中のデザイン(文章のリズムや装飾表現など)を考えていく。

この3つが全て揃ったときに初めて、読者を楽しませることのできるコンテンツを作ることができるそうです。


編集者に向いている人、向いていない人

編集者という仕事について最後に、「編集者に向いている人、向いていない人」についても触れられました。

終始おだやかに講義されていた古賀さんが、少し語気を強めて訴えられていたのが、

「人が好きじゃない人や、人に興味ない人は編集者に向いていない」という点。

ふだんは人のことがあまり好きじゃないと言う人でも、編集者の仕事になったら取材対象者にどんどん会いに行って、たくさん話を聞く。

そういう貪欲さを持っている人が、編集者に向いているそうです。


ライターとは、取材者である。

ここまで「編集」の仕事について語られてきましたが、ここからはライターの仕事について詳述くださっています。

「ライターの僕たちは」という主語を使って、古賀さんはまず、ライターとは何かについて語られます。

ライターの僕たちは、オバマ元大統領でもホーキング博士でもなければ、夏目漱石のような文才があるわけでもない。

僕たちは何もない、空っぽの人間だ。

だからこそライターは、取材をする。

空っぽの自分の中に、取材をすることで水を溜める。それをコンテンツとして世に出す。だから、ライターとは「取材者」なのです。

「こんなすごい人がいるんだよ」

「こんな素晴らしい考え方があるんだよ」

その感動を誰かに共有したいというのが、ライターの原動力であり目的なのです。


そしてさらに、取材をすることを「手紙を受け取る行為」、取材した内容を書くことを「返事を書く行為」とも言われました。

取材というのは、取材をした相手から手紙を受け取る行為であり、それを文章にするというのは、その教えてくれた相手に対して敬意を持ちながら返事を書く行為である。

つまり、

ライターは原稿を書いているのではなくて、返事を書いているのです。


そして、こうも言われました。

自分は空っぽの存在だから山ほど取材をする。そして丁寧で敬意のある取材をするならば、その返事は絶対に丁寧になるしその文章は丁寧になるのだ、と。


より良い「返事」を書くためには。

「どうしたら良い取材をして、良い記事を書くことができるか」について、古賀さんはこのように話されています。

ライターは、専門家やその道の権威の方を取材することもある。その時に大切なのは、難しい専門的な内容を、いかに一般読者向けに分かりやすく書くかということ。

つまり、「橋を架けること」です。

例えば、専門的なお話を伺ったとき。掛け算で苦労していた時の記憶が薄れてしまっている「専門家」の人たちと、掛け算で苦労していたときの記憶が鮮明な「読者」との懸け橋になる。

それが、ライターです。

それは、僕が空っぽの繊細無学な人間だからできることで、だからこそ大切なのは、取材の時に知ったかぶりをしないこと。

取材内容がたまたま良く知っているテーマだったとしても、そこでライターは取材相手とマニアックな議論を展開してはいけないんです。

そうしてしまえば、読者が置いてかれてしまうから。

また、文章を書くというのは「翻訳」することだとも思っています。

語られたものを書き言葉に翻訳する。難しい話を平易な言葉に翻訳する。頭のなかにあることを文章に翻訳する。

しゃべること自体、「わたし」を翻訳する行為であると思います。

そうやって、「自分は翻訳者である」という意識を常に根幹に置いておけば、取材をするときにも、それを文章にするときにもきっと役に立つと思います。


***質疑応答***

ここからは、参加者からの質問に対する古賀さんの回答をまとめました。(順不同。文字おこしではなく、内容を理解したままにまとめています)


ライターの使命

研究者や素晴らしい仕事をされている人の中には、されている仕事は素晴らしいのに、声が小さいがために過小評価されている人がいる。だから、その人の横に立ってマイクを渡してあげる。声が遠くまで届くように自分が拡声器になる。それがライターの役割だと思います。


テキストの優位性

映像や音といったエンターテインメントに対して、テキストはどのような優位性があるかという質問に対して、古賀さんはこのように答えられました。

映画や音楽といった体験型の「時間の芸術」は時間の産物であって、見ている側は自分で時間をコントロールすることができない。

一方、本は読者に優位性がある。何時間かけて読んでも、何日かけて読んでも良いし、途中で読むのをやめても良い。体験の主導権が読者にあるのが、テキストの特徴だと思います。


雑誌と書籍のライティングの違い

雑誌は鮮度が大事。1週間でコンテンツは無くなってしまうから、多少あおったとしても大げさなものを書けというのが雑誌。それに対して、書籍に求められるのは新鮮さではなく、普遍的で長く読まれるものを書くこと。

文章の書き方一つでも流行りすたりがあるから、例えば「(笑)」や記号とかは、いつ読んでも自然に読まれるような使い方をすることを心掛けていてる。


プロとアマの差

プロとアマの差は「編集者が付いているか、いないか」だと思います。私にとっては例えば、間に編集者が入っていないnoteは「お仕事」ではないと思って書いています。「原稿を書いてください」と依頼してくれる編集者がいることがプロであることの証でもある。

一方で、編集の技術を持っていない「編集者」と呼ばれる人たちも、特にデジタルの媒体にはあふれていて、これからはもっと編集者とライターの境界線が曖昧になっていくと思う。

10年後や20年後には、紙の出版の時代に編集者がやっていたことを、ライターが担って、ライティングも編集もできるコンテンツの作り手が支持されていくようになるのだと思います。


ライターの「個性」は文章に出して良いの?

同じ水道管を使っていても、書く人が違えば、「自分」というフィルターを通して出ていくコンテンツはどうしても自分らしさというものが出てしまう。「自分をだそう」「テクニックを効かそう」と、あえて文章に個性を出そうとする行為は、水に毒を盛る行為だと思ってほしい。そういう「自分を押し付ける」書き方には、無意識に読者も拒絶反応を示すものだから。


以上、『「書く人」から「つくる人」へ。古賀史健さんのライター講座』で学んだこと、感じたことでした!


***追記***

「ライターって何だろう」

noteを始めて、書くことが生活の一部となったここ数か月。この一言が頭に浮かんでは、解決することなく消えてく。そんな日々を過ごしていました。

「書くことで生きていけたら」

「書くことを仕事にするって、どういうことだろう」

「ライターって、それだけで生活していけるのかな」

考えては忘れて、また同じ考えに戻って。

そうやって、ぐるぐるにこんがらがっていた思考が、まるで優しく包まれ、ほぐされていくような感覚を抱きながら、古賀さんの講義を拝聴していました。

「ことば」で人と人を繋ぐ仕事がしたい――。

その思いで、通訳者を志した原点がある私にとって、書き手と読み手に「橋をかける」という古賀さんの言葉には特に共感と納得を感じました。

だから自分は物を書く仕事がしたいのか。そう、自分について一歩深く知るキッカケにもなりました。

noteという文章で人と繋がれる場って、やっぱり素敵だなあ。というのが飾らない素直な感想です。

こういうnoteの企画配信、これからも楽しみです。

ちなみに、動画がアーカイブとやらに残っているそうです。私はそのアーカイブがどこにあるのかが分からないのですが、アーカイブのありかをご存じの方は、ぜひ視聴してみてください(笑)

以上、Yocolomboでした!


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