来世はカブトムシ

(2023年8月12日の記事)

「最近は何をやってるんですか?」

これは本当によく聞かれる質問で、4ヶ月に一回くらいのスパンで新しい別の事を始めている。キャラでやっている訳じゃないが、キャラになりつつもあるのでこの際、次から次に新しいことを始めないといけない症候群を患っている人間だ、と思ってもらっても大丈夫かもしれない。かもしれない?

正直なところ、全く難しいことをしてるわけじゃない。いえばマイブームといったところなので、症候群は大袈裟なのだが、お客様から見た僕は、「最近は何ですか?また別のことですか?」と気にして心配してくれる。来店というよりお見舞いに近いのかもしれない。

さて、今回の話は20年の歳月を経て、またひとつの物語りとなってくれそうなのである。くれそうというのも、これを書いている今7月28日はまだこの話は完結していなくて、きたる8月5日で完結する予定である。

ムシキングが20周年を迎えたらしい。その当時のブーム時はもう既に子どもではなかったので、ど真ん中を体感したわけじゃないが、20年前の夏といえば奇しくも、僕が地域の夏祭りで「カブトムシの店ビートルズ」を出店した年なのである。

あれから20年。縁とは不思議なもので、今年の夏、また僕はカブトムシの店ビートルズを復活させることになったのである。

夏の時期になれば、何かしら僕の口からカブトムシの話は出るのだが、いよいよ、昨年産卵したカブトムシの幼虫が、50匹ほど成虫になる予定だった。いつもならお客様のお子さんにとプレゼントしていたが、さすがに50匹は捌けない、どうしたものかと考えていた時に、友達からLINEがきた。「コロナ明け4年ぶりの夏祭り、出店者募集。やらへんの?」

おお!何というタイミングの良さ。後先考えず、すぐに飛びついた。これでこの大量のカブトムシを捌くことができる、その上さらに子どもたちを笑顔にしてあげることができる。よっしゃよっしゃ。

飛びついたはいいが、募集要項をきちんと読むと、団体の募集であり、個人での出店は募集していなかった。そうなのだ、あくまでも地域の夏祭り。営利目的での出店ではなく、採算ど返しで祭りを盛り上げてくれることが出店者に求められる第一条件。焼きそば200円、かき氷100円の世界線。

そりゃそうだ。が、僕は怯まない、いつものこと。とりあえず行ってみる。

運良く僕の休日と募集開始日が同じだったのもあり、コミセンの受付まで行き、あれこれ情熱を伝えた。20年前にも出店させてもらったなど、子どもが喜ぶ、必ず損はないと。さすがにちょっと心が揺らいだ感があったので、ここで畳み掛ければと、M1決勝ラスト1分並みに無呼吸で気持ちを伝えた。話の通じる方だったのが幸いして、とりあえずこの案件を主催者である館長と話し合い返事をすると約束してくれた。

そして、次の日には館長直々から連絡を頂き、出店が決定した。

それが、6月終わり頃の話。

実をいうと、この出店が決まった時点では、まだカブトムシは羽化してなく、成虫は手元に0匹で最悪商品がない可能というのもあったのだが、7月の初め頃に続々とその50匹が羽化して、立派な姿を現してくれたのだ。

出店するなら、これじゃ物足りないと、夜な夜なカブトムシ採りに出かけては数を増やしていった。これが失態というか、初めての出来事なのだが、数が増え過ぎることによって、夜通しエサの取り合いで、体力を消耗していたらしく、それはみるみるうちにわかり、明らかに弱ってきていた。

このままではまずい。祭りまで持たない。とはいえ最善を尽くしている。これ以上手はない。そして、あろう事か祭りまで後二週間というタイミングでパタパタと星になっていくのである。悪いことをしている。交尾をすると寿命が短くなるからと、オスメスは別々のケースに入れており、子孫を残すという生き物最大の目的まで取り上げて、星にさしているなんて。

きっと僕の来世はカブトムシだ。

すまないと思いつつも、問題は次から次へとやってくる。室温。いよいよ夏本番、まさかカブトムシがいるからと、その部屋にエアコンを入れるほどセレブではないので、窓全開が限界。日中の部屋の温度は34度、外気温と同じ。直射日光がないだけマシなのだが。夏の虫とはいえ、さすがに暑過ぎるとダメだ。

日中、快適にエアコンが効いている所。自分の店、美容室に避難させた。一体全体、僕はなにをやっているんだ。夏バテでマボロシでも見ているのか。

そんな中、吉報が届いた。祭りまで残り一週間半前。一緒にやるメンバーが100匹以上は捕まえた、と。おおぉ!と、いうまでもなく雄叫びが出た。これで安心した、この夏祭りは頂いた、と確信した。

が、やはり、そうは上手くいかない。彼もまた室温と多頭飼いの難しさに悩まされ、直前に沢山のカブトムシを星にしていた。彼も来世はカブトムシだろう。もうこうなったらと、追加融資ならぬ、追加捕獲に行くしかない。

そして、そこでなんと、この夏一番の採れ高が出た。7月28日。祭りまで残り一週間。後はその野生の個体を丁寧に扱い当日を迎えるまでだ。

きたる8月5日。僕は仕事を休んでの参加。今年の夏を象徴する暑さが出迎えてくれた。

蒸しあげるような暑さの中で祭りの設営を完了さして、周りを見渡すと明らかに異質を放っていた。僕たちには祭りっぽさがない上に華もない。これでいいのだろうか?向かいのかき氷屋さんは、いかにも夏祭りらしく、「氷」の暖簾がひらひらしていて、それだけで涼しさと風情がある。うちの看板は「ビートルズ、カブトムシ、クワガタムシ、オスメスペア500円、オス300円、メス200円」の表示のみ。ストイック過ぎるか?と思いつつ、逆にこの異質の輝きがいいのだ、と自分達を納得さていた。そして、祭りが始まった。

始まると同時にぞくぞくと会場に人が流れ込んできた。が、うちの店には来ない。かき氷、焼きそば、射的などは、あっという間に長蛇の列である。そうこうしていると、ステージでは吹奏楽部の演奏が始まったり、イベントが盛り上がってきた。あー凄くいい、この感じ。これぞ日本の夏だ。

4年ぶりの開催でボルテージも高まっていたのだろう。小学校の校庭がうねり始めた。

マスク姿の方もチラホラいるが、9割は外している。これなんだよ。このあちらこちらから聞こえてくる、子どものきゃっきゃっと楽しむ声。ステージではベンチャーズを奏でるオジさんバンド。この日本津々浦々、どこにでもあるだろうローカルな光景こそがニッポンの夏なのだ。

と祭りを感じるのはいいが、肝心のカブトムシはまだ1匹も売れていない。

このままではいけないと思うが、やりようがない。100匹集めてきた友達が呼び込みを始めた。ちょっと見ていかないかとターゲット違いな高学年女子まで連れてくる。が、それが功を奏して、お客さんが来店し始めた。これは良い流れだ。と気が付けば人だかりができていた。そして、初めの1匹が売れた。

今回の目玉でもあるミヤマクワガタである。よくわかっているお客様だった。価格も安いと言ってもらい、そりゃそうですよ!地域の夏祭りを盛り上げてるためにやってるんですから!と、こちらも饒舌になる。

そこからが怒涛だった。気がつけば、たまたま通りかかった同級生にも店の手伝いをしてもらい、お客様を対応していく。

さてさて、実はこの話、始める前のエピソード0がある。

その100匹集めてきた友達は20年前に僕とビートルズをした相方なのだ。この20年という歳月を経て、どうやら僕たちは大人になっていた。中学、高校の同級生で、今も付き合いがある。それだけで幸せな話なのだが、なんの縁か、来世でカブトムシになるからだろうか、仲良くしている。

その彼の娘さんが小学6年生。5月に会った時に、僕が冗談半分で、カブトムシを夏祭りで売ろうと思うねんけど、店長をしてくれないか?と聞くと、ええで。と小6女子っぽいツンとした返事がきた。

そう、僕はこの子に小学校の思い出をプレゼントしてあげたかった。コロナで思うように学校行事も制限されていただろう。そう思うと、何か強烈な思い出があればと考えた。これがエピソード0。

まさかこの時点では本当に出店になるとは思っていなかったが、この会話があったからこそ火が灯ったのは間違いない。20年前は僕たちは学生だったが、そのバトンを渡したかったのかもしれない。おっとカッコつけたええ話になりそうなので、この辺で。

気がつけば祭り開始から2時間で、カブトムシは完売御礼。素晴らしい結果を叩き出した。

「最近は何やってるんですか?」カブトムシの店ビートルズもひと段落。さて、次は何を始めようか。


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