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階の七 「レサットとオズ・レノール」

肉肉しく絡み合う触腕が壁沿いを這う
チーズケーキが食べたくて食べたくて
彼女は今日も髪よりも長く手を伸ばす

あの蕩けるようなチーズの舌触り
思い出すだけの今日に耐えかねて
明日も髪よりも多くの手を伸ばす

あの焦げた焼き目の歯と舌触りと
口内で崩れて混ざる甘味と苦味を
反芻する夢を昨日も忘れてしまう

されど毎日毎日毎日の現実のなか
明かりなき部屋で指が触れるのは
いつもたったひとつの肉の塊だけ

チーズケーキのように甘くはない
満ちているくせ満たしてはくれず
蕩けているくせ蕩けさせてくれぬ

触れるたび熱を奪われるような接触
獅子の国章をずたずたに引き裂いた
布切れをかけてやったあいつの形は

ベッドに三本脚で立ち尽くす
支えることも写すこともなく 
見ることも覚えることもなく

いつも明かりのない部屋で
いつもこの腕が触れるのは
いつもひとつの肉の塊だけ

触れたことにも気づかない
触れられたことも解らない
こころは互いに交わらない

絡み合えるのは手と手だけ
日毎に日毎に彼女は今日も
チーズケーキが食べたくて

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