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休職期間満了日までに私傷病が治癒しない事が最初から確実である場合の取り扱い

私傷病(業務外の負傷や疾病)は、労働者の責任によるものです。
通勤災害も原則、この私傷病に含まれます。

私傷病を理由とした欠勤は、労働債務の不履行となります。
「使用者と労働者との間で取り決められた、労働契約に基づく労働者が使用者に労務を提供する義務」を労働者に帰責する事由により果たせない事になり、これが長期間に及ぶ場合には重大な契約違反という事になります。
つまり、私傷病による長期欠勤は普通解雇事由に該当します。

但し、日本は解雇規制が厳しく、私傷病による長期欠勤を理由に安易に解雇を行うと不当解雇と判断されるリスクが高いため、実務では普通解雇で対応するのではなく、就業規則等で独自に定めた休職規定に基づき休職制度で対応するケースがほとんどです。

休職は、私傷病で欠勤が1~2ヵ月間続いた場合に、勤続年数に応じた一定の休職期間を与え、休職期間満了時に治癒していれば復職を認め、治癒していなければ休職期間満了により労働契約を当然解消するという「法律に定めのない会社独自の任意制度制度」であり、解雇猶予規定と見ることもできます。
ここでの「治癒」は、労働者が労働契約の債務の本旨に従い正常に労務提供が可能な状態を意味します。

次に、休職させるかどうかは、理論上は「傷病が治癒して労務提供ができる状態に戻る蓋然性があるか」により判断し、休職期間内では治癒することが困難で、従来の労務提供を行うことが出来ない場合には解雇することになります。

従って、就業規則には「私傷病による欠勤が1ヶ月を超え、一定期間療養に専念して治ゆする見込みのもとに、なお療養を継続する必要があるため勤務できないと認められるとき。」等として定め、仮に重篤な負傷で休職制度を適用しても満了日までに回復しない事が最初から確実なのであれば休職制度そのものを一切適用せずに解雇するのが理論上の正しい取り扱いです。

ところが、実務では「休職期間中に治癒する蓋然性が高いかどうか」は考慮されずにそのまま休職制度を適用することがほとんどです。
休職期間満了日まで休職を適用して、直前のタイミングで復職できない事を主張した方が、リスクが少ないとの判断が働くからだと思われますし、現実にその方が無難でしょう。

ただ、例えば技術職として職務限定採用された者が腕の切断事故等で復職出来たとしても正常に業務に従事できる蓋然性が著しく低い場合等の特殊な事案にあっては、休職措置を取らずに最初から普通解雇する事も判断としてはあり得るでしょう。

  〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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