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音楽の話をしようよ#5 SUPERCAR 『スリーアウトチェンジ』─────"夢中になれたらそれですべて。"



『ギターが印象的なアルバム』と訊かれたらどんなアルバムを挙げるのだろうか。音楽の歴史を振り返ってみてもギターという楽器を切り離すことは結局できない。僕もギターをこれまで10年以上やっているのでそれなりにギタリストには注目して音楽を聴いてきた自負はあるつもりだ。Jimi HendrixやJeff Beck、Tom MorelloやJohn MayerにCory Wongなど…これまでの音楽の歴史上にも様々なギタリストやギターヒーローが現れた。巧みな速弾きやカッティングなど、様々な奏法を駆使したギターが映えるようなアルバムは山ほどある。

それでも僕は『ギターが印象的なアルバム』はSUPERCAR『スリーアウトチェンジ』と答える。ギターで曲作りをしてきて"音楽を作る"ということに関して間違いなく一番影響を受けたアルバムだからだ。


SUPERCAR
は1997年に青森で結成された4人組バンド。10代という若さでリリースされた1stアルバムがこの『スリーアウトチェンジ』だ。ナカコーことボーカルギターの中村弘二が主に作曲を担当し、現在は『関ジャム』などのテレビ番組でも目にすることが多くなったギターのいしわたり淳治が作詞を担当。この2人が中心となって作られたシンプルでありながら10代特有の戸惑いや青臭さを薄めることなく凝縮されたサウンドは、後の日本のバンドらに大きな影響を与えたのは間違いのない事実。僕も影響されすぎて自分の出したいギターの音を見失うほど夢中になった1人なのだ。

ナカコーの弾く歪んだノイズギターと男女混声の気だるげなボーカル、そこを切り裂くような軽くてキラキラした、いしわたり淳治の弾くギターリフが特徴で、初期のSUPERCARサウンドとはこれのことを指す。とにかくその音に憧れて「SUPERCARみたいなギターの音が出したい!」その一心でバンドをやっていた。
それは僕が10代の頃にナカコーに「昔のSUPERCARが好きなら自分でやればいい」と発破をかけられたことが大きい。その言葉を間に受けてバンドを続けた。後にいしわたり淳治の前で演奏する機会が訪れたのだけど、「勢いがあって良い」と言われたこと以外は覚えていない。バンドを評価するときの「勢いがあって良い」は大抵は演奏が下手であるか、雑であることのどちらかなのだ。恋人の写真を見せた時に「優しそうな人だね」と返される時と同じような微妙な気持ちになるのだ。今考えてみても、勢いなんて音楽に必要なのだろうかとすら思う。勢いがあって何が良いんだ?


音楽的な話でいえば、この時期のSUPERCARのギターサウンドは特別なことなどしていない。至ってシンプルで、真似て作ろうと思えば簡単に再現できるはず。楽曲のクオリティや技術の観点から見ても何も特別なことはない。計算し尽くされた展開や、無駄な転調もない。シンプルなコード進行、ペンタスケールのシンプルな繰り返しのギターリフのみ、それでもどうしようもないほど人の心に残り続ける。

このアルバムに収録されているSUPERCARの音は出音以上の何かが存在しているとしか言いようがない。きっと迷いや不安、葛藤など若さからくるものがギュッと詰まっているからなのだろう。それ以外に解明できることがあるだろうか。こういうものはどれだけ努力して、計算しても作ることはできない。それを人は"センス"と呼ぶけど、それはセンスのない人間の理由づけに過ぎないのではないだろうか。だから単純にすごいよね、という話になる。
『スリーアウトチェンジ』は、ナカコーの作り出す無機質でありながらもエモーショナルなサウンドやメロディと、いしわたり淳治の書く思春期特有の葛藤の詩が上手く混ざり合った最初で最後のアルバムだったのかもしれない。


アルバム収録曲では"I need the sun"が特に好きで、10代の頃から常に自分の心を引っ張ってくれる楽曲だった。いしわたり淳治はこのアルバム中に何度も"夢中でいて"とメッセージを綴っている。それは自分自身がバンドを続けて大人になっていくことに向けて自分のために歌っているようにも聞こえる。"単純でいい、それですべては素晴らしいのに。"、このフレーズは『スリーアウトチェンジ』のアルバムを象徴したメッセージになっているように思う。本当にこの言葉をが原点だなと大人になった今でも感じるメッセージだ。

何だっていい、夢中になれたらそれですべて。
だいたいでいい、未来が見えたら始めるのさ。
安心していい、舞台は今からつくればいい。
単純でいい、それですべては素晴らしいのに。

SUPERCAR "I need the sun"


そういえば『スリーアウトチェンジ』 のCDの歌詞カードにはギターのコードが記載されていて、10代の頃はよく弾き語りに使わせてもらっていた。とてもありがたいし嬉しいよね、あれ。

このアルバムが冗長に感じるような時代はどうか来ないでよねと願ってる。ちなみにナカコーはマイブラよりもJesus and Mary Chainが好きらしい



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