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『最近聴いてる音楽の話』 - #3月

暖かい風、見上げれば桜だか梅だかのピンクの花が咲いてる。これは春だ。これは間違いなく3月だ。
今年はどうやら例年にも増して花粉が飛び交っているらしい話をよく聞く。僕はかつて中学生時代に「花粉症辛い」といっている友達がなぜか大人みたいでカッコよく見えて、花粉症になろうと思ってなった経験がある。当時好きだった女の子が花粉症で、それに共感したかったというのもある。そんなことでもいいから話せる共通の話題が欲しかったのだ。とにかくその年、僕はちゃんと花粉症になったのだ。鼻水は出る、目は痒い、箱ティッシュを抱えて毎日通学した。テスト中には鼻水が垂れすぎて、下を向くことができなかったので時間内にテストを終わらせることができなかったこともあった。その経験があまりに辛く、もう花粉症を辞めにしようと自分自身に花粉症ではないと暗示をかけた。すると翌年から花粉症の症状は出ずにこの歳まできてしまった。花粉症が治癒した男として誰か僕の身体を研究してくれないだろうか。

そんな花粉症治癒マンが今月リリースされた楽曲の中から特に好きだったものを紹介していきます。

SONG

The Chemical Brothers "No Reason"

安心と信頼のThe Chemical Brothersの新曲がドロップされた。この前の"The Darkness That You Fear"がリリースされたのが2021年。もうそれから約2年も経っていることにシンプルに驚いた。

The Chemical Brothersの楽曲はひとつのキャッチーなアイデアをこれでもかというほど増幅させて巨大化させていくところに最高のロマンを感じる。そして1曲を極端にアンセム化させることなく程よいバランスで構築していくテクニックには伊達に30年のキャリアを積んでないなといつも感謝の気持ちでいっぱい。思えば2019年のフジロックで見た彼らのライブは、自分の音楽の感覚を新しく引き出してくれるようなライブだった。アルバムのリリースと来日は来年のフジロックのタイミングですかね…?待ってます。


AmPm "Sweet Escape(feat.RAENE)"

"Sweet Escape"は日本の覆面ユニットAmPmが、UKで活動するシンガーRAENEをフィーチャーした楽曲。AmPmはこれまでにも国内外問わず様々なアーティストとの共作を繰り返していて、日本よりも世界での知名度の方が高いほど。2stepのビートに乗ったRAENEの伸びやかなボーカルが最高に気持ちいい。結局のところ2stepが好きなんだよねっていう話です。


92914 "Summer"

92914と書いて「クイクイルサ」と読む。本当かよ。韓国のメロウな二人組。もう"Summer"なんていうタイトルの曲が出るのかと、つい夏の日差しのことを思い出しながら聴いていた。彼らの楽曲には2017年頃の少しだけ懐かしくもある"チル感"がしっかりある。ギターのサウンドが柔らかく夜の浜辺のようにしっとりと穏やかで、決してエモーショナルにならずしっかりとメロウな展開が好み。夏、楽しみ。そういうこと。


Alice Auer "Unknown (feat.Conor Albert)"

Conor Albertの作品への参加で注目されているロンドンのシンガーソングライターAlice Auer。今度はConor AlbertがAlice Auerの作品に参加する形となった。ジャズやネオソウルからの影響を受けた彼女の柔らかくて心地いいボーカルを、グロッケンなどが入った優しくかわいい音色のバックの演奏が包み込む。Conorのギターもいつもより増し増しに穏やかで、隅々までが柔らかい楽曲の世界観に春をすごく感じた。


羊文学 "永遠のブルー"

羊文学というバンドは海外のインディーロックシーンとの音楽性の親和性から音楽的な評価を多く受けるバンドで、国内のシーンの中でも音楽的にビッグになってもらいたいバンドだと思っている。でも彼らはそういった期待の声に乗せられるわけではなく、いつも自分たちなりの確かなメッセージを発信している。

自分にとって信頼できる音楽家の定義のひとつに「若い子たちにどれだけ未来の可能性を提示しているか」というのがある。この"永遠のブルー"という曲は眩しいほどキャッチーに、若さゆえの葛藤や選択について歌っている。僕らが10代の頃にチャットモンチーやBaseBallBearがラジオの向こうから僕らに歌ってくれていたように、きっと羊文学はその役目を担っている。きっとちゃんと届いてるはず。初めて聴き終わった瞬間に、深夜部屋で一人音楽に縋っていたあの頃の自分の記憶とリンクした気持ちになった。いつまでもロックンロールは終わらない。


ALBUM

Rocketman / SUNSHOWER

Rocketman / SUNSHOWER

ある時に友達から教えてもらったタイの4人組バンド、Rocketman。その時には「それってふかわりょうじゃないの?」とリアクションしてしまったが、おそらく同じことを思う人も多いだろう。これが彼らの待望の1stフルアルバム。タイの緑黄色社会。

"アジアのバンドが熱い"、なんていうのはもう今では当たり前すぎる話だ。もう熱さとか新しさとかの次元ではなく単純にいい音楽が揃っている。そこには音楽的な豊かさがある。心地いいギターの音色と、それを支える穏やかなグルーヴ、高温多湿なタイの空気を纏い、吹き抜ける風のように穏やかな楽曲たち。一聴すれば心地よく、安心してしまう。これをいつも称する時に"Tahiti80のようなバンド"と呼ぶ。1stアルバムにしてその信頼を勝ち取るRocketman。年間ベストに選ぶ予感さえしてる。最近のお気に入りだ。特に最後の"Holding On(to me)"、"Sun"の流れはあまりに最高すぎて、本当に1stアルバムなのか疑いたくなるほど。夏が待ち遠しい気持ちになる。きっと今年も最高だよね。


優河 with 魔法バンド / 月食の夜は

優河 with 魔法バンド / 月食の夜は

NHKで放送中のドラマ『月食の夜は』の劇伴として制作されたアルバム。12曲のインストゥルメンタルの楽曲を13曲目に収録された"光のゆくえ"が包み込む。どこか寂しげなメロディなのに、必ず暖かさがある。夜なのに暖かい、そして孤独ではない。ギターやピアノが奏でる優しい旋律が心を包んで守ってくれるそんなお守りのようなアルバム。

去年リリースされたアルバム、『言葉のない夜に』は年間ベストアルバムにも選ぶくらいお気に入りのアルバムだった。いつも優河は夜を歌う。孤独でも暖かく、明日を迎えるための夜を歌っている。今年のフジロックでは優河と魔法バンドがどんな演奏をするのか今から楽しみだ。


Black Country, New Road / Live at Bush Hall

Black Country, New Road / Live at Bush Hall

このバンドはどうしてこんなにも特別なのだろうか。Black Country, New Roadというバンドは何よりも唯一無二なのだ。バンドが持つストーリー、関係性、パッション、音楽的な素養、そのどれもが彼ららしくて、彼らの音楽と向き合っている間は"音楽"というよりもバンドのことばかりを考えてしまう。

2ndアルバムが世界中で評価されたタイミングでのバンドメンバーの脱退、全曲新しく作り直して行ったライブ。彼らにとって間違いなく怒涛の1年だったであろう2022年。(フジロックでのパフォーマンスも素晴らしかったね。)その1年、いや彼らの人生をギュッと詰め込んだ2022年末にロンドンのブッシュ・ホールで行われた3公演のライブ、それを収録したものがこの『Live At Bush Hall』だ。

いわゆるライブ録音盤。うーん、今ではスタジオアルバムが一般的なアルバム作品として当たり前になっているけど、ライブで録音したものの方がずっと"音楽"なのではないかと、このアルバムを聴いていると思う。"Up Song"から始まる現状未発表の9曲を、再現性をとりあえず置いておいたエモーションの乗った演奏で収録されている。Black Country, New Roadというバンドが始めた再生の物語、この先どんな話を聞かせてくれるのか楽しみだよ。YouTubeでライブ映像がフルサイズで公開れているので、こちらもチェック推奨です。3日間のコンセプトの違ったステージが見られます。

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