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2022年読書評13 ニャン氏・嵐の湯・七十五羽の烏

「ニャン氏の憂鬱」
松尾由美 再読。

ニャン氏というのは実業家の猫のことで、日常の謎を解く探偵役をする。
短編集で6話くらい入っています。これが三作目。

「憂鬱」というのは英語のブルースを和訳したもので、主人公の男性がバンドマンであり話が音楽に由来していることからこのタイトルになっているものと思います。

今回は再読でしたが、楽しめました。読み飛ばしていたネコ語を丁寧に読んでみてもおかしいし、地の文の描写もユーモアがあり、猫好きには笑える小説になっています。

以前も書きましたがこの作家が不思議なもので、私はほぼ全作読みましたが初期の作品より近年の作の方が出来がいいのです。
わたくし的にはデビュー当時の「バルーンタウン」シリーズは読んでいてわけがわからず、~というのもこの作家の特徴でもあるのですが、枕が長いのです。つまり、本題に入るまでが。
それに中期の「モーリス」も中盤の謎解きから読みづらくなります。
おそらく、この現象は作家としての力量がデビュー当時は弱かったものが徐々に培われて行ったからなのでしょう。

逆にやはり私見ですが宮部みゆきなどはデビューから面白い作品を量産して来ましたが、2000年か2010年あたりから、出来が悪くなっているように感じます。

出来が悪い小説というのは読んでいてわけが分からないものです。それは読者の読書力のせいではなく、作家の筆運びに問題があると確信します。

小説でなくても、画家や映画監督、音楽でもあるでしょう? 作り手が年を取ると明らかに力量が落ちると。それです。

しかし松尾由美は不思議と力量が上がっているのです。
スパイク、おせっかい、ニャン氏シリーズ、新作の嵐の湯、などなどお勧めがあります。

「嵐の湯へようこそ」
松尾由美 再読

これはちょっと前に読んだものですが。
この作家の本はミステリとSFを融合したような不思議なものが多く、そして女性作家らしくやわらかいものが多いです。

本作は:
親がいなくて姉妹二人で生活している姉妹。姉は25くらいのOLで妹は19だけれど社会不適合。
ある日、弁護士が、叔父が遺産として銭湯を残したと言う。彼女らはそれを継ぐことにしたのだが、客のお年寄りたちから持ち込まれる日常の謎を解く、
そんなミステリ小説。
しかしその従業員たちには秘密があり、亡くなった叔父の死にも謎がある。

サラッと読めて、読みやすいです。

文庫は角川ですが、紙質が昭和の時代にはわら半紙のようなものが使われ、当時の友人は「この紙の臭いが好きだ」と言っていました。
しかし3,40年前の文庫を開くと、もう変色していて読みづらいものになっています。
そして令和の時代。角川の文庫は相変わらず、荒い紙質のものを使っています。そのため本自体が軽く、他の文庫とは違った風合いとなっています。

私は大手の出版社が全て好きではありません。
この失われた30年、新しい作家はないがしろにされました。出版社らが不景気を理由に門戸を閉じたからです。
だらかあまり日本の小説界は大漁とはなっていないというのが私の見解なのです。

昔のSF界は良い作家が多く、推理界もそうでした。
近年は少ないような気がします。
しかし、私は才能は多々埋もれているのだと思うのです。

もう1つ、昨今、値上げが取り沙汰されていますが、本は高いと思います。
文庫などという本来手軽に読むべきものが、高過ぎて手軽に読めなくなっています。

そういう意味でも大手出版社の印象が良くありません。

「七十五羽の烏」
都筑道夫 再読

これは1971,2年の作品ですが、私が最初に読んだのは1985年頃。その後、2000年頃か、都筑作品を全て読みなおした時に読み、現時点でもう一回。

これは本格推理小説で、つまり、犯人やトリックを当てるという小説なのです。私はミステリファンですが、どちらかというと本格はあまり好きではありません。
というわけでこの作品もあまり評価していないのですが。

気になった点:

烏=カラスの絵が出て来て、登場人物は「ブラックバーズ」と言います。マザーグースにも出てくると。しかし「カラス」はクロウではないのか。そしてブラックバードはツグミではないのか。

細部にこだわり、英語にも精通している都筑先生がミスするとは思えないので、マザーグースに出てくる黒い鳥を引き合いに出すため、そのように敢えて読んだのかも知れません。
あるいはカラスのことをブラックバードと呼ぶ場合もあるのかも知れません。あるいはその絵が抽象的で、必ずしもカラスではないのかも知れません。

その辺が、小説よりも謎でした。もしかしたら彼はその点をエッセーなどで書いているのかも知れませんが。

物語は:

怠け者の若者、物部太郎。彼は親の金で働かずに暮らしたい。しかし親の面目上、働くふりをしたい。そこで相談したのが片岡直次郎事務所。彼は「心霊探偵」事務所を開くといいと提案。どうせ客は来ないから、働くふりが出来ると、片岡自身も事務所の役員に収まる。

すると客が来る。叔父が滝夜叉姫の霊に殺されそうだという。金も払うという。
しかたなく出陣する太郎と直次郎。
現場では実際に、殺人事件が起こる。解く気もないのだが、しかたなく太郎は事件を追求することになる。

というもの。

キャラクターは面白く、小説としても読みにくいものではないと思います。
当時は本格推理小説がもてはやされていた時期であり、これも横溝の作品の雰囲気があります。



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