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要素を兼ね備える

物語・技術・感動・キャラクター。
小説や映画を、評価するといったら大袈裟だけれど、良い作品だなと思う基準はこんなところだと思う。

YouTubeで100万人登録の絵画チャンネルがあって、年輩の画家が、主に水彩画を描く様子をアップしている。
美術関係に疎い私が知らないだけで有名な人なのかもしれない。
日本語よりも英語のコメントが多くついているから世界中で見られているのだろう。
絵は言葉のちがいに関係なく世界中の人が楽しめるから登録者が伸びた側面もあるのかもしれないが、それにしても100万人はすごい。
絵をまったく描かない私は、動画の最初の段階ではどんな絵になるのか、まったく分からず、形も色合いも見えていない。
しかしある程度、紙に余白がなくなってきたところでとつぜん絵が浮かび上がり、そのうまさに愕然とする。
ご本人は当然、完成した絵を想定しているのだろうけれど、本当に筆でぐっちゃっと塗っているようにしか見えない。山とか川、田んぼ、海、静物などさまざまなモチーフの絵がアップされている。
すべてに共通するのは、対象物の細部をあえて省略し、ふんわりと描写しているにもかかわらず、それがゆえにむしろモチーフの存在感と抒情性が漂ってくる。

自分は、絵を描く過程そのものを「お話」として楽しんでいるのだなと思った。
ここでいうお話とは因果の連なりのことだ。
秋の山がきれいだから描いてみようと思い立ち、観察して構図を決め、形と色を配置する。
あっという間に画面が構成させていく技術に驚く。
おまけに、現実の景色ではなく、風景から受けた心の動きが紙上に表現されているので、出来上がった絵がエモい。
画家本人のナレーションが、対象のどこを良いと思ったか、どんな技術を使うと良いか、などの説明とともに、描く楽しさに溢れていて、おまけに穏やかだ。

エンターテイメント作品として必要な要素がすべてそろっている。
出来上がった絵そのものの価値とは別に、描いている過程そのものがエンターテイメントだ。
ここに書いたのと同様の考察はすでにさんざん他所でも書かれているだろう。
絵にかぎらず、表現物を作る過程そのものが表現物となるのは、動画時代の特徴の一つだと思う。
自身でもPodcastをやっていて、科学関係のことを話している。
それが表現物かどうか、よく分からない。
たぶんちがうと思う。
けれどそこに、物語と、何かしらの技術と、話し手のキャラクターと、エモさを載せることができたら、エンターテイメントにできるかもしれない。

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