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ドイツ企業の中国依存

2023年11月8日。
化学大手のBASFが固定資本投資を40億ユーロも削減するにもかかわらず、中国広東省に統合生産施設を建設する計画はGXとともに例外扱いすることを10月末の決算発表で明らかにした。100億ユーロの巨額投資を計画通りに実施するのである。

日本でもよく知られているように、ドイツ政府は7月に「中国戦略」を採択した。その柱は「デリスキング(リスク低減)」である。中国の経済戦略を「国外への自らの依存を低減すると同時に、国際的な生産チェーンの中国依存を高めることを目指している」と分析しており、過去四半世紀に渡って強めてきた同国への経済的な依存を引き下げていく意向だ。

だが、肝心の企業、特に世界的な大手企業はどこ吹く風といったスタンスを取っているように見える。VWは中国でのプロジェクトに絡んで申請した国外投資保険の延長をドイツ政府に却下されたにもかかわらず、同国事業を縮小する兆しはない。

では、企業は政府の懸念をまったく共有していないかというとそうではない。中国リスクはしっかり認識しているのである。ただ、市場とバリューチェーンの両面で巨人と化している中国抜きでは経営が成り立たないのである。

企業の動きを追っていると、これはデリスキング策だなと思われる措置に出くわすことがある。例えば自動車大手のBMWとメルセデスベンツのプレスリリースには最近、「ローカル・フォー・ローカル」という言葉が使われるようになっている。これは部品・部材を完成車工場のある地域で現地調達することを意味する。輸送距離を短くすることでコストとカーボンフットプリント引き下げることが狙いだと説明されている。地政学リスク低減の効果もあることは明らかだが、それについてはまったく言及がない。そんなことを明記ないし暗示すれば、中国に睨まれ事業に支障をきたしかねないから当然であろう。

ドイツ政府が企業に中国依存の軽減を求めるのは、地政学的な対立が経済に限らずドイツ全体の大きなリスク要因となっており、外交政策選択の余地が狭められる恐れがあるためだ。一方、企業はあくまで利益を追求する組織であることから、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と言わんばかりに中国事業を拡大する。リスクは自らの責任と計算で引き受けるから、活動の自由を不必要に制約する政策は取らないでほしいと考えているのだ。国と企業がデリスキング重視で一致しているにもかかわらず足並みがそろわないのはそのせいである。

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