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2023年3月8日

4日付の日本経済新聞に掲載された記事「海渡る『出稼ぎ日本人』さよなら、安いニッポン」を読んで、時代の変化を改めて感じた。「景気低迷が続き、賃金が上がらない日本を見限り、高額報酬を求めて海を渡る日本人が後を絶たない」のだそうだ。日本経済の地盤沈下は労働市場にも悪影響が及んでいる。

筆者も海を渡った日本人の1人だが、「出稼ぎ」という言葉は当てはまらない。どうしてドイツに移住したのかとかつて問われた際、「この国は住みやすいからです。日本の方が高い給料を取れると思います」と答えた記憶がある。「失われた10年」という言葉が生まれる前の話だ。

近年の海外移住組もお金がすべてではないだろうが、収入格差が日本脱出の大きな理由の1つになっているのは間違いないようだ。日経の記事では第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミストが、「優秀な人材が海外に流出し、外国人労働者も集まらない傾向が強まっている。つなぎ留めには賃上げや生産性の向上が欠かせない」と指摘している。世界一と皮肉られる日本企業の内部留保をそろそろ有効に活用すべき時期が到来しているとも言える。それには人事に限らず抜本的な改革が必要になるだろうが。

時代の変化ということでは官僚を目指す東大生が大幅に減っていることも気がかりだ。優秀な人材は出身大学に関係なく存在するが、東大には頭の回転がすこぶる速かったり、負けず嫌いで努力する人が多い。
子供のころテレビで、開成中学を目指し塾に通う小学生たちが校門前で「開成合格!」と繰り返し叫ぶニュースを見たことがある。その1人にインタビュアーが「どうして開成中学に入りたいのですか」と質問すると、「東大に進んで将来は大蔵省(現財務省)で働きたい」というような答えをしていた。国の政策策定に関与するという野心を持っているようだった。

東大生の官僚離れは森友・加計問題で「政治主導」の実態が鮮明になったことが大きな原因だろうが、官庁のハードな仕事に見合わない給与の低さも問題だ。優秀な人材が自然と集まるよう改革することは政治が取り組まなければならない課題である。

日本の制度疲労が言われて久しい。最近はさすがに危機感が強まり、「日本はこんなにスゴイ!」といった現実逃避の言説を見かけることが以前に比べ少なくなってきたように思う。文字通り背水の陣であり、後はやるだけである。

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