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冬好き

四季の中で冬は特別に好き

関東生まれ育ちの私にとって
雪は特別で
雪が降り始めると
「お母さん雪積もる?ねぇ、積もる?」
「これは牡丹雪だから積もらないわねぇ」
「今夜は粉雪だから積もるかも知れないわね」

葉が色付いて落ち
木立ちに止まる鳥がよく見え
はぁっと吐く息の白さ
温かそうな湯気
長い夜
猫ちゃんと一緒のお布団
霜焼けでジンジンする手足
霜柱を踏む感触
水溜りに張った氷の光り
積もった雪の上をそっと歩く楽しみ
校庭の小さな山でそり遊び
全校授業休みでみんなで一日雪だるま作り
日が暮れる早さに家々の灯り
空に光るオリオン座
空気がきーんと澄んだ空の高さ
曇天の雲の低さ
冷たい空気と温かい自分との境界の明快さ

冬の現象全て好き


そして父と母が喧嘩しない
きっと寒さで喧嘩する体力も無かったのだろう

さらに冬は楽しい思い出でいっぱい

母が熱心なクリスチャンで
クリスマスとイースターは特別楽しみだった

最初の幼稚園がカトリックで
弟が生まれるから引っ越して
普通の幼稚園になったけれど
近所にプロテスタントの教会を母が見つけて
日曜学校に通う様になった

最初の幼稚園でも
クリスマスはみんなで飾り付けして
讃美歌を歌った

日曜学校で
聖書を学びながら
クリスマスが近付くと
生誕祭を子どもらで演じる
出たがりの私は六年間で
(余談、中学に上がって反抗して仏教に傾倒した)
羊飼いも大天使ガブリエルも演じた
衣装をみんなで工夫して
羊飼いは茶色の布を頭から被り杖を持ち
台詞はひとつ
ガブリエルは真っ白なレースのシーツを被り
スポットライトを浴びて片手を挙げ
マリアに長い台詞を言った

クリスマスのミサは特別で
ホイルで包まれた蝋燭をひとり一つ持ち
讃美歌を歌い
生誕劇を演じ
教会の婦人会で用意してくれた
手作りの巾着袋に入ったクリスマスプレゼントを渡された

揺らめく蝋燭
響き合う讃美歌
笑顔に溢れプレゼントまでもらえる


そして冬休みが来て
お正月の元旦だけは父に笑顔を向けられ順番に
年始の挨拶を言い合い一年の抱負を宣言し
細やかながらお節料理が並び
こたつで殻付きピーナッツと山盛りのみかん
新聞紙で折った殻入れ

長野から送られてくる
臼と杵で突いたのし餅と
たっぷり蜜入りの甘いりんご
お礼の電話をする
唯一父の長野弁が聞ける日

冬休みは短く
家族全員で映画を観に行き
帰りに父おすすめの店でチャーハンを食べる

無宗教の父は一度だけ
小さな私の願いを聞き入れ
クリスマスのミサに参加してくれた

全員の前で立ち上がり紹介され
照れる父の右手を両手で握り締めた
父は照れ隠しに
「これでいい?」
と私にだけ小声で言った
「うん」


春は萌え出る命に置いてかれる様で
夏は暑くて溶けそうで
空気がずっとざわざわしている

秋から冬にかけて
空気が眠りにつき
暖かくて優しく静かな長い夜


冬大好きな季節

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