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仕事に役立つSF思考② フィクションとロジック 「星を継ぐもの」

早川書房の「世界のリーダーはSFを読んでいる」にあやかって、「日本企業のミドルリーダーもSFを読んでいる」というシリーズで、仕事に役だったSF的な考え方(SF思考)を紹介しています

第2弾は「フィクションとロジック」で、紹介するのは「星を継ぐもの」(J.P.ホーガン、東京創元社、1980年)です。ハードSFとかミステリー系SFと呼ばれる分野の名作なので、知っている人も多いと思います。

月面調査員が月面で宇宙服を着た死体を発見した。その死体は5万年前のものだった。なぜ、5万年前に人類が月面に到達していたのか?

科学者の主人公がこの謎を解いていく話です。途中で大きな前提が明かされて、そこから最初の謎に至る様々な伏線が繋がっていきます。最後の結論は、「なるほどそう来たか!」という逆転発想で、ある種のカタルシスが味わえます。

仕事ではここまでのロジックと伏線を張り巡らせることは少ないです。でも、この作品で学んだフィクションとロジックの構成(SF思考)は、仕事のプレゼン資料を作るのに非常に役立ちました

とはいえ、ディスカッション中心のプレゼンでは使えません。このSF思考が役立つのは、方針・計画の説明や研修講義など、一定時間の説明が必要なプレゼンです。

具体的にどういう点が役立つのかを紹介します。

当たり前だけど「起承転結」のシナリオ

「星を継ぐもの」には、起承転結のシナリオが骨太に存在しています。

  •  :月面で5万年前の人類の死体が発見される

  •  :現代科学を使って謎に迫るが、袋小路に入る

  •  :新たなイベントが発生して、袋小路が突破される

  •  :色々な伏線を一気に収束させて謎が解ける

起承転結は普通のシナリオ構成だろ、と思われるかもしれません。確かに定石です。でも、この作品はその定石をSF思考で磨き抜いています。

「起」で示されるフィクションの謎に対して、「承」はあくまで科学的にアプローチします。そして、「転」は更なるフィクションですが、「結」ではそのフィクションも内包して、科学的な合理性をもって謎を解くのです。

「起」と「転」のフィクションに対して、「承」と「結」が科学的アプローチ(ロジック)に徹しているので、起承転結のメリハリが骨太になるのです。

さて、会社でプレゼンする際は、実際の経営データや実現可能な方策を盛り込む必要があります。仕事の基本は「ロジック」です。

一方、行動に移してもらうには、インパクトも必要です。そうしないと、新たな情報や気づきは、日常業務に忙殺されて忘れられてしまいます。

でも、経営データや実現可能な方策は無味乾燥になりがちで、インパクトを与えにくいのです。なんとか記憶に残るプレゼンをしようと試行錯誤していたときに、行き着いたのがこの構成でした。つまり、起承転結にフィクションを交えることです。

試しに、突拍子もない「起」と「転」を入れたところ、メリハリが付いて、聞き手の評判が良くなりました。この作品で学んだSF思考が役に立ったのです。では、「起」はどのようなものがウケたのかは、次で説明します。

冒頭にフィクションの「謎かけ」を持ってくる

プレゼンの最初を質問で始めるのは、アイスブレイキングの王道です。そこに、SFのフィクション的な要素を入れた「謎かけ」の質問を入れるということを、私はよくやるようになりました。

例えば、役員会議でBCP(事業継続計画)の説明をする際に、災害時やパンデミックの対応を淡々と説明しても、聞き手は飽きます。そもそも、役員の頭の中は、担当領域の足下の課題をどうするかで一杯です。

そんなテーマを説明する時に、「自部門のBCPをご存じですか?」と質問で始めても、インパクトは弱いです。聞き手は手元の資料(ノートPC画面)を見ていて、顔は上がってません。

そんな時は、SF思考です。突拍子もない想定(フィクション)を入れた質問で始めます。例えば、「皆さん、今、震度6の地震が皆さんの勤務地で発生しました。責任者のあなたはこの会議で東京にいます。電話はパンクして通じません。最初に何をしますか? 次に何をしますか? 皆さん、すぐに思い浮かびますか?」という感じです。

まず、これで聞き手の顔を説明者の方に向けることに成功します。

伏線を配置して、ロジカルに話を繋ぐ

そして、最後まで興味を引き続けて、実行に移せるようにしてもらうプレゼンには、もう一つ工夫必要です。それが「伏線」です。

例えば、先のBCPの事例の最後に伝えたいことの一つが、「公衆網がつながらない場合は、衛星電話と自営無線で他拠点に支援を求めること」、「その操作訓練を毎年拠点ごとに行うこと」でした。

この場合、最初のフィクションの「電話はパンクして通じません」が、衛星電話と自営無線に繋ぐ伏線です。さらに「転」のところで、「BCPで計画を作りました。災害が起こりました。ところが、端末の場所と使い方がわからないと、連絡が取れません。自分の拠点のどこにあるかご存知ですか? 自営無線を使ったことありますか?」と繋いで、操作訓練実施という結論に着地させました。

BCPは普段は優先度が低いのですが、持続的な経営には必要です。それに興味を持ってもらい、行動に結びつけるためには、SF思考でフィクションとロジックをプレゼンに織り込むことが有意義でした。

まとめ

「経営はロジカル」と言う人がいます。ロジカルだからこそ、経営学という学術分野が存在するのだと思います。

でも、ロジックだけでは、社員や関係者の関心は引けません。そんな時、フィクションを適度に織り交ぜて興味を引きながら、伏線を配置して、ロジカルに結論に繋ぐというプレゼンが効果的でした。

私はこの手法をSFを読んで身につけました。言い換えると、SF思考がプレゼンに役立ったのです。

今回は「星を継ぐもの」を紹介しましたが、それ以外にも多くのSF作品が、フィクションとロジックを上手く組み合わせています。そんな作品を読んで、フィクションとロジックの塩梅を掴むと、皆さんのプレゼンにも役立つと思います。

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