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「RAW」を今こそ見つめ直してみよう

・当たり前になりつつあるRAW現像

 皆さんこんばんは。
 今日は、今やだいぶ普通のものとして広範囲に浸透しているRAWの認識について、私が主としている風景写真をベースにじっくり見つめ直していこうと思います。
 ちなみにですが、今回の内容は、初心者よりも、RAW撮影や現像を普通に行っている中級者やそれ以上のレベルの方向けかもしれません。

ーフィルムからデジタルへー 
 フィルムからデジタルの時代へほぼ移行が完了したと言っても過言では無い現代、大判フィルムのような特殊なサイズを除いでは、中判デジタルセンサーもだいぶ成熟され、次は現像へと注目が集まっているように感じます。

 フィルムの現像は専門的な知識が必要な上、ムラなく現像するためにはとても高度な技術が必要でした、それ故に気軽に現像をするといった事自体が、そもそも選択肢に無かったと思います。
 しかし、1975年コダック社が1万画素のデジタルカメラを開発してから45年、現像は皆さんの手のひらサイズの機材で行う事が可能になりました。

 それだけRAW現像が身近になり、ある一定のレベル以上では当たり前というレベルまできていると思っています。

・そもそもRAWデータとは?


 RAWとは「生」「未加工」といった意味で、現在では「未現像」という意味も含まれているかと思います。
 少々強引ですが、フィルムでいうところの、ネガフィルムのようなものであると思っていただけると、わかりやすいのではないでしょうか。
 ポジ(リバーサル)フィルムがJPEG撮って出しに近い感覚かと思います。
 
 ちなみにですが、JPEGデータが8bitの256色に対し、RAWデータは12bitまたは14bitの4096色または16384色と、遥かに多くの諧調情報が記録されています。
 また、カメラメーカー各社でセンサーのRGB配列が違い、その違いが各社の個性を作り出している一つの要因でもあります。
 
 細かいことは、ネット上に情報が溢れていますので、検索して見ていただいた方が早いと思います。

・センサー開発技術の向上、現像技術の多様化によって、JPEG撮って出しより難しくなった?

 ここからは完全に私の主観なので、噛み砕きながら読んでいただきたい部分です。
 
 フィルム時代は、ネガフィルムでの撮影は現像する際に露出や色味はある程度融通が利き、ポジフィルムに比べ撮影が楽というのが一般的でした。
 ポジフィルムは露出のシビアさや、色味の補正ができない等の理由で、ほとんどがプロの世界で使われるもの、という認識です。

 これをデジタルに置き換えると、RAWデータでの撮影(以下RAW撮影)の方が楽で、JPEG撮って出し(以下JPEG撮影)は難しい、ということになるかと思います。

 しかし、デジタル現像の時代になり、現像の幅が圧倒的に広がり、それとともに表現の幅も、とてつもなく広がってきています。
 それに伴って、RAWデータにおいての撮影から作品を創り出す一連の流れは、JPEG撮影よりも難易度が上がっていると実感しています。

 それは何故かというと、最終的な完成イメージを想定しながら撮影をする必要があるからです。

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 風景写真は特にその傾向が顕著なように思えます。

 現場でヒストグラムを確認しつつ追い込んで、その場で作業の大部分が終了するJPEG撮影に比べ、自分が抱いているイメージに辿り着くよう、現場でJPEG撮影の内容+αを要求されるRAW撮影は非常に難易度が高くなっています。
 私の場合、+αの中には現像とレタッチに必要になる工程、それに伴った吐出の決定、ホワイトバランスの基準値の決定、フィルターの有無と種類の判断、ブラケット撮影の有無などが含まれます。

 RAW撮影において、背面液晶はヒストグラムを確認する事がメインになります。
 ですが、色のチェックやイメージの具体化のために綺麗に表示される背面液晶は必須です。
 というように、考えなければならない事が非常に多いのです。

 最近は、下の写真のような、過度な黒潰れや白飛び、色の飽和や極端な濃淡が無い写真を、強い逆光や日の出前や日没直後などの、撮影自体が難しい状況下で表現する写真が増えています。

画像1

画像2

 これはネットによって情報の国境が無くなり、海外のLandscapeジャンルの影響を受けている事が大きな要因であり、着実に増えてきています。
 こういった写真は従来のJPEG撮影の方法や現像では、非常に難しくなっています。

 これらの写真はフィルターワークを行い、ヒストグラムを細かく確認して黒潰れ白飛びを抑え、現像の際に細かく部分的に補正する必要があります。
 特に2枚目の左下の岩の部分の、黒潰れしそうなギリギリのラインでディティールを保つ事は、細かく追い込んだRAW撮影と現像が必須になります。

 また、フィルターワークを行わない場合は、ブラケット撮影が必要になる場合もあり、そのブラケット撮影も露出差や枚数、どの設定の露出を基準とするか…などといった事が必要になってきます。
 さらにフィルターワークを行った上で、ブラケット撮影も行うといった事もあります。
 
 さらにセンサー性能もカメラメーカーごとに大きく違うため、カメラメーカーごとに結果へのアプローチを緻密に変えていかなければなりません。

 以上がざっくりですが、JEPG撮影よりもRAW撮影の方が撮影が難しくなったと私が感じている理由です。


・JPEG撮影 vs RAW撮影ではない

 ここまで書いた内容だと、JPEG撮影 vs RAW撮影のような対立構造を作っているように感じるかと思いますが、そうではないのです。

 JPEG撮影とRAW撮影は切っても切れない深い絆で結ばれています。

 私の中では、これは絶対的な事柄です。

 JPEG撮影を蔑ろにすればRAW撮影の技術は磨かれないと思っていますし、その逆も然りです。
 カメラ内での現像が、現在PCを使い行っているRAW現像のクオリティになるまで、この関係は崩れないと思っています。

 RAW撮影での技術力が高まると、JPEG撮影をしなければならない時に、どの部分を妥協するかの取捨選択が、より高精度で行えると思います。

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・RAW現像に関する誤解

 RAW現像をすれば、失敗した写真が復活するとか、RAWで撮っておけば現像でどうにでもなる等、どこかドーピングめいた認識をちらほらと見かけます。
 それらをまとめて、RAW現像に対しネガティブなイメージを持つのは早計です。
 
 あくまでも、RAW現像とは手段であり、その手段を使う人間によって結果が多種多様になっているだけです。
 正直なところ失敗した写真は失敗した写真ですし、RAWで撮っておいてもどうにもならない場合もあります。
 何より、RAW現像はそんな万能薬では無いのです。

 RAW現像は、誰にでも平等に与えられる手段であり、活かすも殺すも使用者次第だと思っています。

 その上で心に留めておいて欲しい事が
【撮影と現像も絶妙なバランスの上に成り立っている】
という事です。

 例えば、60点のクオリティで撮影されたRAWデータは、現像で80点までは点数を上げられるとしても、それ以上になることは稀です。
 80点のクオリティで撮影されたRAWデータを90点にすることは可能ですし、時には100点を大きく超えていくかもしれません。
 しかし、RAW現像が適切でなかった場合、点数そのものをあげる事が難しくなるばかりか下げてしまう事もあります。

 このように撮影と現像、そのどちらにも偏ってはいけないと私は考えます。

 ただ、このパターンに当てはまらない事があるのも事実ですが、とても少ないように感じます。

・適切なRAW現像とは?

 この内容はとても抽象的で、十人十色ですが、私が考えている適切なRAW現像の要件を書きます。

 ざっくりまとめると、データがダメージによって破綻していない事に尽きると考えています。

 例えばですが、
・シャドーとハイライトのパラメータを極端に調整すると空と地上の境目に白い部分が発生し、地上からオーラが出ているかのように見える。

・シャドー部分を極端に持ち上げ過ぎて、シャドーノイズが補正できない量で発生している。

・シャープネス処理を加え過ぎて逆にディティールが潰れてしまっている。

・白飛び部分に向かってグラデーションになっているのではなく、ある地点から急に白飛びしている。

などが、例として挙げられます。
 
 もしダメージによって破綻してしまいそうなのであれば、その調整を行わない、もしくはリカヴァーの方法を考えたり、別のアプローチを考えるのが大切です。

 私も「神は細部に宿る」という言葉を胸に刻んで日々取り組んでいますが、まだまだです。

・JPEG撮影が必須な時もある。

 ここまで散々RAW撮影や現像に関して書きましたが、JPEG撮影が必須な場面があるということを忘れてはいけません。
 
 私自身の話をしますと、私が勤めていた写真館は、ブライダルの前撮り専門の写真館で、カメラマン一人が多くて年間300組ほど撮影をするような現場でした。
 午前と午後で2組撮影し、その合間にアルバムやプリント用のデータを仕上げる日もあるといった、なかなかに過密な現場だったように思えます。
 そのため、ゆっくり一枚一枚丁寧にRAW現像をしてデータを納品することはなく、ライティングでJPEG撮影のクオリティを上げ、最小限の補正作業でデータを納品していくといった業務内容でした。
 
 そのため、露出や色に対し相当シビアに見る事ができるようになり、RAW撮影にもそれは活かされました。
 逆にRAW撮影で得たイメージを具体化する経験は、ライティングなどのJPEG撮影のクオリティを上げる面で役に立ったのです。


 また、報道やスポーツ、即納案件、リアルタイムでモニターに表示するイベント等、JPEG撮影が必須で、更にクオリティも求められる現場もたくさんあります。


まとめ

・RAWデータとRAW現像は万能薬では無い
・JPEG撮影とRAW撮影は切っても切れない関係
・撮影と現像も絶妙なバランスの上に成り立っている
・ダメージでデータが破綻しない適切なRAW現像が大切

 
ネット上に情報が溢れ、How to本やムックも多数出版されている現在、他の人の作品との違いや、個性を出していく事が難しくなっていると思います。
 上手くいかなくてスランプになったり、マンネリ化している方もいるはずです。
 
 基本的に自分からそうしない限り、「写真はこうあるべきだ」などという縛りは一切ありません。
 クライアントがいるプロの現場ではそうはいかない事が多いですが、あくまでも自身の抱くイメージの表現方法の一つであり、ある意味で娯楽でもあります。
 
 ここまで偉そうに色々書いておいてあれですが、自由に楽しく取り組むのが一番の上達方法だと思います。
 今回私が書いた内容は、「こういう考え方もある」くらいに捉えて、断片的にふと思い出していただけると幸いです。
 もしスランプやマンネリを脱却できたらそれ以上に嬉しい事はありません。



 
 
 

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