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佐々木実著『竹中平蔵-市場と権力』(講談社文庫)読む



最近の自分の活動について、今までを整理しつつ、そのきっかけとなった事が何だったか思い出している。
その過程で、2000年代前半の郵政民営化に端を発して当時の小泉首相が盛んに「構造改革」を連呼していたことを思い出す。
その小泉さんのイデオローグとなったのが竹中平蔵である。本書は竹中平蔵の「評伝」だ。評伝はその人物について評価を加えつつ書かれた伝記のことである。
著者の佐々木実は、竹中に厳しい評価を加えている。
竹中は経済学者として小渕内閣以降、自身や彼と意見を同じくする人物を政府のタスクフォースや総理直轄の諮問会議に送り込み、そこでの意見を政府の見解とさせることで様々な分野の規制緩和を果たす。そして、その規制緩和された市場で仲間の経営する会社にビジネスチャンスを与え、彼らは巨万の富を得ている。
一方で、バブル崩壊で多額の不良債権を抱えたりそな銀行を政府資金の投入により政府の監督下に置き、経営者を入換え、自分の仲間とすげ替えている。同行はその後自民党のメインバンクとしての役割を担っている。
そして、郵政3事業民営化である。特に貯金・保険事業で国民から預かっている350兆円ものお金を郵便事業と分離させつつ、民間に売却する計画。その正当性を広くPRするために、電通などの広告代理店にPR活動を発注して、マスコミで一大キャンペーンを打った。それがマスコミでの郵政選挙の加熱報道だ。リークされた広告代理店の資料には「B層を狙え」とある。「B層」というのは、主婦、子供、シルバー層を核とするクラスターのことである。政治の具体的なことは分からないが、小泉さんのキャラクターを支持する層とある。
郵政民営化法案は国民の圧倒的な支持を受けて、可決成立。そしてその後アメリカの金融機関・保険会社が黒船のように日本に入ってくることとなる。
そしてこれらの意思決定の過程が議事録として残されていない。佐々木実のインタビュー申し入れにも竹中自身は応じていない。
本書は副題に「「改革」に憑かれた経済学者の肖像」とある。なぜ竹中自身がこういう政策を良いと考え、またビジネスの道具として経済学を利用したのか、一体どういう国を作りたいのか、誰のために、何のためにやるのか。彼の本心は聞き取れないまま終わる。
ただ、残された結果としては、彼らの施策により、それまで以上に国民の格差が拡大し、アメリカからの要望に一層応える国になり、労働者の一部は、派遣切りがある不安定な働き方を選ばざるを得なくなる。それにより、結婚・出産の見通しが立たず、少子化に拍車をかけたと言われる。
たった一人の人間が、どんな政策を推進するかで、国民の生活水準が変わり、みんなの未来に対するマインドが変わり、出生率やGDP、将来に対する希望に関するあらゆる統計の数字が劇的に悪くなる。そういう事をこの30年間で続けてきてしまったのだ。
この事が自分の中でとても引っかかっていて、何か対抗する方法はないかとずっと思ってきた。本書は、そういうことを思い出し、再認識させてくれた。

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