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「人間が地球を温暖化させている」の真実(IPCC第6次評価報告書の要約メモ)

昨今の社会情勢はとかく悲観的に語られがちだが、スティーブン・ピンカーは『21世紀の啓蒙』にて、合計約1,000ページに跨る数百のデータを明示しながら、世界は決して暗黒にむかってなどいないことを、事実に基づき根気強く説いている。基本的に、世界は良くなっているのだ、と。しかし、そのなかで例外的に、著者が語気を強めて人類の未来に警鐘を鳴らす部分がある。

地球温暖化だ。

正直なところ、最近の(あくまで)一部の企業によるSDGsパフォーマンスをやや冷めた目で見ていた自分は、これまであまり興味をもってこなかった分野だった。しかし、ファクフトフルネスの権化みたいな著者が指摘しているのを目の当たりにしたことで、地球温暖化が差し迫った課題であることを、恥ずかしながら初めて、認識したのだった。

それでは実際に何がどうやばいのか。これを調査研究するのがIPCCという国際組織だ。IPCCは、世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により設立された政府間組織である。現在の最新の報告書である『第6次評価報告書』は、世界各国の第一線の研究者約800名が執筆に参加し、各国政府が総会にて承認採択され、世界中の政策決定者によって参照されている。政策的には中立だが、地球温暖化対策研究における世界の旗振り役なようだ。

※IPCCに関する説明は、環境省『IPCC 第6次評価報告書 統合報告書の概要』)より。非常に簡潔にまとまっており、このnoteよりわかりやすいのでまずはそちらを読むことをオススメする。

僕もIPCCの『第6次評価報告書』の内容を知りたいと思い、まずは「政策決定者向け要約」文科省、経産省、気象庁、環境省による暫定訳【2023年4月17日時点】)を読んでみたところ、結果的に地球温暖化はやはり喫緊の課題、というか逃れることはできない重要な問題であることが認識できた。

ただ、要約でも通読するのはなかなか骨が折れる。そこで今回は、地球温暖化に関する最新研究をざっくりインストールしたい人むけに、本当に断片的ではあるが、「要約の要約」を以下に残す。ぼくと同じように、これまでたいして興味がなかった人にこそ、役に立てば嬉しいと思う。

一言でいうと

温暖化は本当で、明らかに人間のせい。このままいくと、俺らが生きている間に地球まじやばいことになる。人間の行動は有効だが、いまのペースじゃ足りない。この10年間が勝負。工業部門でのCO2排出削減が重要。

現状

人間活動が主に温室効果ガス(Greenhouse Gas; GHG)の排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がない

  • 世界の平均気温は、過去100年で1度上昇しており、これは過去2000年間で最速ペース

  • 大気中のCO2濃度は過去200万年で最も高い

  • 人為起源GHG年間排出量は約30年前と比べて約50%増えており、その主な原因は工業化(化石燃料の燃焼や工業プロセス)由来のCO2である。一人あたりのCO2排出量には地域差があり、工業化の進んだ先進国に偏っている

  • 2019 年には、世界全体のGHG排出量の約79%がエネルギー、産業、運輸及び建築物、22%が農業、林業及びその他土地利用に由来

気候変動による悪影響は強まり続ける

  • 海面は過去100年で0.2m上昇しており、これはほぼ確実に人為起源である

  • 熱波、大雨、干ばつなどの極端現象が頻発するようになり、これは人為起源である可能性が高い

  • 気候変動、とくに極端な暑熱は、あらゆる生態系に、種の喪失や大量死といった重大で不可逆的なダメージを引き起こしている

  • 気候変動は、農業生産性の伸び率鈍化、漁業への悪影響、水不足など、食料及び水の安全保障の低下を招いている

  • 極端な暑熱により、人間の死亡や疾病、感染症の発生、メンタルヘルスの課題、強制移住などが起こっている。また都市では暑熱の強度が強まり、インフラへの損害や経済部門への悪影響が出ている

  • 開発途上の国や地域ほど、気候変動に対する脆弱性が大きい。つまり、先進国の工業化の被害を主に発展途上国が受けている

気候変動への適応*は進展し成果を出しているが、今のペースでは間に合わない

*筆者理解:「適応」は気候変動後の世界に人間活動を合わせていくこと、「緩和」は気候変動を抑える人間活動を行うこと

  • 気候変動の影響とリスクに対する一般市民や政治の認識の高まりの結果、少なくとも170 カ国及び多くの都市がその気候政策や計画策定プロセスに適応を含めている

  • 適応策が気候リスクを低減する有効性は、農業関連などの特定の文脈、部門、及び地域について文献で報告されている

  • しかし、観察される適応の対応のほとんどが断片的で、漸進的で、特定部門に限定され、地域をまたいで不均衡に分布している

  • 適応の主要なハードルは、資金・民間や市民の意識と行動とリテラシー・政治的結束などの不足である。特に資金についてはほとんどが公的資金であり、ほとんどが適応ではなく緩和に回されている

  • 資金不足は開発途上国において鮮明で、気候変動の悪影響が経済成長を妨げることでその傾向は一層強まるだろう

気候変動の緩和のための政策や法律は有効かつ拡充しているが、今のペースでは間に合わない

  • 多くの国で、政策がエネルギー効率を高め、森林減少率を低減し、技術の導入を加速し、排出の回避と、場合によっては排出の削減・除去につながった。例:太陽エネルギー、風力、都市システムの電化、都市のグリーンインフラ、エネルギー効率、需要側管理、森林経営及び農地/草地管理の向上、食品廃棄及びロスの削減

  • しかし、今のままのペースでは、温暖化が 21 世紀の間に 1.5°C を超える可能性が高く、温暖化を 2°C より低く抑えることが更に困難になる可能性が高い

  • まず、COP26より前に発表された国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution; NDCs)に基づく世界のGHG排出量目標では、温暖化を1.5〜2℃以下に抑えるのには足りない(「排出のギャップ(筆者理解:目標のギャップ」))。その上、実際の政策の進行具合にもばらつきがあり、世界のGHG排出量はNDCs目標を上回ると予測されている(「実施のギャップ」)

  • 低炭素技術の導入は、資金・技術・能力不足等により、開発途上国で遅れている

  • 化石燃料のための公的/民間資金フローは、気候変動への適応と緩和にむけた公的/民間資金フローを上回っている

将来

今からGHG排出削減を頑張ったとしても、短期的な1.5℃上昇はほぼ不可避。ただ長期的な改善にはまだ間に合う

  • GHG 排出量が非常に少ないシナリオ(SSP1-1.9)においてさえ、地球温暖化が 1.5℃に達することがどちらかと言え ば可能性が高く、より排出量が高いシナリオにおいては 1.5℃を超える可能性が高い又は非常に高い

  • それでも、よりGHG排出量が少ないシナリオ通りに進むことができれば、世界平均気温の傾向は、約 20 年以内に識別可能な形で変化するだろう

  • 逆に、GHG排出が継続すれば、地球温暖化が進み、それによって極端現象が変化し、氷が溶け、海面が上昇し、海洋の酸性化や貧酸素化、熱波や干ばつの頻発化、乾燥や火災が発生しやすい気象条件の増加などが起こるだろう

温暖化が進めば、気候を取り巻くリスクはますます連鎖的で管理困難になる。そのリスクは前回報告時(2013年)より高まっている

  • 短期的には、世界の全ての地域が上で見たような気候ハザードの更なる増加に直面し、生態系や人間に対する複数のリスクが増大する。前回報告時よりも新しい証拠や知識により、特に温暖化がより低水準で進む場合のシナリオにおいてそのリスク評価は悲観的になっている(例:不可避の海面上昇により、沿岸域の生態系、人々及びインフラのリスクは 2100 年以降も増大し続ける)

  • 気候を取り巻く要因は相互に作用する。地球温暖化の進行に伴い、例えば気候に起因する食料不安や食料供給の不安定性が、都市化の拡大と食料生産の間の土地の競合、パンデミック及び紛争など非気候リスクの駆動要因と相互に作用しつつ増大することが予測される

  • 気温の上がり幅が大きければ大きいほど、その影響は甚大になる。例:種の喪失、人間の健康被害、食糧生産の減少。特に、+2℃を超えてくるあたりから被害は一層鮮明になる

温暖化により、不可避/不可逆な変化がすでに起こっている/起こる可能性があるが、これからの持続的な排出削減により抑制しうる

  • 温暖化を抑えても、海面上昇など、何十年以上の長期的な応答を伴う気候システムの変化は避けられない。しかし、大幅で急速で持続的なGHG排出削減はこれを緩やかにする。次の 2000 年にわたって、世界平均海面水位は、温暖化が 1.5℃に抑えら れれば 2~3m 上昇し、2℃に抑えられれば 2~6m 上昇する

  • 気候システムの変化がティッピングポイントに達し、突然で後戻りできない状態になる可能性は排除できず、更なる地球温暖化によりそのリスクは上がる

温暖化が進むほど、適応の限界が近づき取り返しがつかなくなる。長期で包括的な回避策が必要

  • 1.5℃の地球温暖化を超えると、淡水資源への依存度が高い地域の生態系に適応の限界をもたらす

  • 短期で個別のメリットを追う施策は悪影響をもたらしうる。例えば、防波堤は、短期的には人々や資産に対する影響を低減するのに有効であるが、⾧期的な適応計画に統合されない限り、気候リスクなどを増大・固定化させる可能性がある

地球温暖化の抑制 = +1.5~2℃での食い止めには、速やかにCO2排出量を正味(差し引き)ゼロ以下にすることが必須

  • 人為的な地球温暖化を特定の水準に抑えるには、累積CO2 排出量の抑制、少なくとも CO2 排出量正味ゼロの達成、そしてGHG排出量の大幅削減が必要。GHG正味ゼロが続けば気温はちゃんと下がる

  • 直近のペースでCO2を排出し続けると、2030年に+1.5℃になってもおかしくないし、計画されている化石燃料を使い続けると+2℃いくかも

ただちに大幅かつ急速な対策を打ったシナリオでは、CO2排出量正味ゼロは2050-2070年代に達成

  • 正味ゼロシナリオには、二酸化炭素回収・貯留(CCS)なしの化石燃料から、再生可能或いはCCS付きの化石燃料などの超低炭素又はゼロ炭素エネルギー源への移行、需要側対策と効率の改善、CO2以外のGHG 排出量の削減、及び二酸化炭素除去(CDR)の導入が含まれる

オーバーシュート(1.5℃など閾値を超えてから復帰すること)はほぼ避けられないし、不可逆的なリスクを伴うが、それを低減することはできる

  • 最も野心的なシナリオでも、ほとんどが2100 年までに 1.5℃を一時的に超えることを想定するが、その後に復帰する

  • オーバーシュートの期間中に林野火災の増加、樹木の大量枯死、泥炭地の乾燥化、永久凍土の融解などのフィードバックのメカニズムを通じて追加的な温暖化を引き起こす可能性がある

  • オーバーシュートの規模が大きければ大きいほど、そして期間が⾧ければ⾧いほど、生態系や社会は、より大きく広範な気候影響要因の変化に曝露され、多くの自然及び人間システムにとってリスクを増大させる

ネクストアクション

持続可能な将来を確保するための機械の窓は急速に閉じている。気候にレジリエントな開発には世界的協力が必要。この10年間に行う決定は、現在から数千年先まで影響を持つ

  • 気候にレジリエントな開 発経路は、過去の開発、排出、及び気候変動の制約を受け、温暖化が進むにつれ、特に 1.5℃を超えるとどんどん難しくなっていく

  • 市民社会や民間部門の参画を伴った政府行動は、気候にレジリエントな開発に重要。それが有効であるための条件は、政治的な約束とその遂行、調整された政策、社会的協力及び国際協力、生態系の責任ある管理、包摂的なガバナンス、知識の多様性、技術革新、モニタリングと評価、特に脆弱な地域、部門、及びコミュニティによる十分な資金へのアク セスの改善を含む

温暖化対策は、この10年間が勝負

  • この 10 年間での大幅な急速かつ持続的な緩和と適応行動の加速的な実施により、人間及び生 態系が受ける気候変動に関連する将来の損失と損害が低減されるだろう

  • 緩和行動の遅れによって、地球温暖化が更に進行し、損失と損害が更に拡大し、更に多くの人間及び自然システムが適応の限界に達する

  • 地球温暖化を 2℃に 抑えることが世界全体にもたらす経済的・社会的便益は、緩和コストを上回る。たしかに急激な対策には、初期投資や経済構造の破壊的変化といった痛みを伴うが、それでも経済政策、社会保護、開発途上地域における低排出インフラのための資金提供を通じて緩和しうる。

  • 対策のポテンシャルとしては、太陽光や風力発電、自然生態系のあk杯抑制、農業における炭素隔離、植林などが大きい。

あらゆる領域で急速かつ大幅な改革が必要

  • エネルギー:化石燃料の削減と炭素回収・貯留、太陽光や風力などの電源多様化

  • 産業/運輸部門:需要管理やバイオ燃料の利用

  • 都市、居住地、インフラ:居住地やインフラの設計計画における気候変動の影響やリスクの考慮、職場と住居の併設、公共交通や徒歩や自転車の利用

  • 陸域、海洋、食料、及び水:熱帯地域の森林減少の削減、食生活の変更、農業の集約化

  • 健康と栄養:気候の影響を受けやすい疾病への公的保健医療プログラム、持続可能で健康的な食せ近津

  • 社会、生計、経済:保険、社会保障、緊急ファイナンス

温暖化対策と持続可能な開発は、相乗効果のほうがトレードオフより大きい

  • 例えば、クリーンなエネルギー資源や技術へのアクセスの向上は、特に女性と子どもにとって健康上の便益をもたらす

  • 低GHGのエネルギーと組み合わせた電化や能動的移動(徒歩や自転車)や公共交通への移行は大気質、健康、雇用を促進し、エネルギー安全保障をもたらし、国家間での衡平性を実現しうる

気候にレジリエントな開発は、発展途上国に犠牲を強いるものではない。むしろ、発展途上国=気候変動リスクに対して脆弱な国により手厚い保護を加えることで、気候にレジリエントな開発は可能になる

  • 衡平性、社会正義、気候正義、権利に基づいたアプローチ、及び包摂性を優先する適応策及び緩和策は、より持続可能な結果をもたらし、変革的な変化を支え、気候にレジリエントな開発を進める

気候対策に対して、国家の政策の果たす役割は大きい

  • 効果的な気候ガバナンスは、緩和と適応を可能とする

  • 効果的な、地域、地方自治体、国、準国家の制度は、多様な利害の間で気候行動に関する合意 を形成し、協調を可能とし、戦略の策定に情報を提供するが、十分な制度面の能力が必要である

  • 例えば、カーボンプライシングは排出削減のインセンティブになったが、よりコストの高い対策の促進には効果がなかった。ただ、炭素税や排出権取引から生まれる収益を低所得世帯の支援に利用するなどして公平性や分配の問題に対応しうる

気候変動対策には、いまの何倍もの資金が必要だがハードルがある。そのほか技術革新や国際協力も重要

  • 資金へのアクセスは気候変動対策の加速を可能にする。その資金は現状では足りておらず、今の3~6倍にしなければならない

  • とくに開発途上国において不足は顕著であり、先進国からの資金提供(年間14兆円規模)は社会的な投資効果が高い

  • 資金をもっと気候対策に振り向けるためには、政府の明確なシグナルや支援、投資対効果の改善が必要

  • 公的資金がまず重要だが、民間資金も活用可能

  • いうまでもなく技術革新は重要であり、その適切な促進やトレードオフの補填のために公共政策やガバナンスは有効。

  • 資金や技術の普及は国際協力の強化によって可能となり、それにより世界全体での機運の向上につながる。

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