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『トップガン マーベリック』に学ぶマーケティング視点

33年ぶりに描かれたトムクルーズの「トップガン マーベリック」。ソーシャルでもリアルでもその感想を発信している方の多さに刺激を受けつつ、往年のファンにとっても、初めてトップガンを知る世代にとっても納得の一本であったと私自身も実感しておりますが、観劇になった方はこの映画の出演者の役が空軍ではなく、海軍であったことを認識されていたでしょうか?

トム・クルーズ演じるマーヴェリックは、海軍のキャプテンです。33年前の亡くなった相棒の息子ルースターは海軍大尉。指示命名しているサイクロンもシンプソン海軍中将です。

映画で描かれているこの部隊、これがアメリカ独自の"海兵隊"なのです。この"海兵隊"の「水陸両用作戦」が、第二次世界大戦中に日本軍が大敗の要因になりました。陸軍、空軍、海軍を一体にして、目的を達成させる"海兵隊"に太平洋戦争の日本軍は敗れたのです。

日本軍と海兵隊

日本軍がガダルカナル島の戦闘時、アメリカ陸軍と闘っていたと思っていたのは、クリエイティブ思考を持ちイノベーションを引き起こすことを訓練された"海兵隊"でした。

陸軍と海軍と空軍では、本来目的も異なり教育制度も異なります。パイロットは1,000キロ/時、歩兵は4キロ/時、機甲化部隊は25キロ/時といったようにそもそも行動の基本速度が異なるわけで、これを統合して集中するアメリカとそれぞれがバラバラであった日本軍では、戦う前からかなり差があったのではないでしょうか。

*詳細は、私の師でもある野中郁次郎先生が六名の研究者と執筆した共著「失敗の本質」を参考されてください。

戦後80年近く過ぎた令和の時代ですが、日本企業にこの課題はそのまま当てはまっていると言っても過言ではないと思います。

"事業部毎に顧客管理方法が異なったり、データが共有化されていなかったり、果ては商品開発の部署と販売セクション、コミュニケーションの部署連動が上手くいかない"等、多くのセクショナリズムや集団主義的な価値観を重視している姿を多くの企業で目の当たりにするからです。

マーベリックから学ぶ"海兵隊"視点

前述したように多くの方が「トップガン マーベリック」を鑑賞後、様々な意見は感想を述べていらっしゃいますが、私の今日のnoteではこの映画を通してマーケティングや経営の視点、対応力が学べるということを言及してみたいと思います。

マーケティングでは戦略とか戦術とかいう用語をよく使います。そこには戦争には、マーケティングとの関係性があることも示唆しているでしょう。ご存じの通り、嘗てアメリカはマーケティング大国でもありました(今もそうだというつもりはありませんが…)。

視点1)目的を創出する力

前回までの3回のnote(以下のリンク参照)でお伝えさせていただいたのは"目的を創出する力"でした。自分ごとで考えBreakthrough mindで意識を変える、モノを観察する力をつける。「いま・ココ」での本質を直観し、それを物語る(ナラティブ)して、アジリティ(環境変化に対応する)を持って実行する。

この一環の活動自体、考え方が"ビジョン思考"であり、センスメイキング理論を生かしたイノベーションです。そして一番大切なのが、この自分ごとで考える、ということ。それは自分の役割ではないとか、考える必要がないとかではなく、その視点も含みながら自分がどうあるべきかを考える習慣をつけること。その習慣がないと、いざという時に思考回路が止まってしまう危険性があると私は考えます。全ての戦略は繋がっている、連鎖しているのです。

視点2)危機的な状況に対応する連携力

映画では、ライバル国家の攻勢、技術革新、技術トラブル、様々な局面での対応を私たちに観せてくれます。

例えばリアル世界でいうならば、現在も引き続き「ウクライナ侵攻」という大きな問題が生じています。分断による新たる市場変化が起きているわけです。しかしながら従来まで市場席巻した「 F A A NG(ファング)」ですら、ウクライナ侵攻後、株価は平均12%も安くなったと言われています(2022年6月22日の日経新聞から)。

「FAANG」は米国のテック企業大手、米フェイスブック(Facebook、現メタ・プラットフォームズ)、米アップル(Apple)、米アマゾン・ドット・コム(Amazon)、米ネットフリックス(Netflix)、米グーグル(Google)の頭文字を組み合わせてつくられた造語。

このような背景の時代に何が必要か。それは、新しいストーリー作成を行う一方での連携力でもあるのではないでしょうか。

・燃料 Fuels
・航空・防衛 Aerospace and defense
・農業 Agriculture
・原子力と再生可能エネルギーNuclear and renewables
・金・金属・鉱物 Gold and metals ,minerals

これら5分野の企業収益上昇率は市場平均を17%上回っていますが、仮にいくつかのエコシステムとしての場の空間はできないか、と私は考えます。分断ではなく連携こそ、必要ではないかと考えるからです。

*スウェーデン南部スコーネ地域のルンド市のエコシステムの取り組みは参考になるかもしれません。こちらは以前にも言及したのでお時間あれば一読いただけると幸いです(↓)

まとめの代わりに

映画を観ながら改めて感じた、考えたのは、現在の日本企業の在り方、アイデンティティの脅威、我々の存立基盤は何かということでした。

「・・・うちの会社(組織)では出来ないから」という逃げの言葉ではなく、自ら行動して環境に働きかける。目的の明確にしながら、信念を持って、突き進むという尊さ。特に共通善として"信念、価値観、コミットメント"に対する強い思いが共感を引き起こしています。この映画は、全編貫き通して生き方を表現していたと私は思います。

人間の限界点もあるでしょう。しかしながら A Iが発展しても人間にしか出来ないこと、従来までの組織にある階層構造を越えて、自らやりたいことの為に突き進む必要性はあるはずです。

トップガン組織の存在価値は「自己変革組織、アジリティ」「自律分散系」であること。つまり、戦略を実行する為には現場の知識や判断が欠かせないこと。戦場の現実を肌身で知っている兵員の迅速かつ自律的な判断が、勝敗や生死を分けるということに尽きます。これこそが、今の日本企業の大多数に足りない視点ではないかと思いました。

***

なんて書きながら、今回はいまだの感動…いや感情先行でまとまっていないことを認めざるを得ません(恥)。
まずは…まだ観てない方はぜひ映画館へ。これはモバイルや家で観るのではなく、映画館で観て欲しい一本です。

補足(おまけ)

参考1>>  "海兵隊"は自己変化を続ける組織
消耗戦は、中央集権,分析的,サイエンス重視,定量的で線形モデル。
機動戦は、絶えず「いま・ここ」の動きのなかに集中し、本質を掴みます。自律分散、信頼、アジァイル、イノベーション、ネットワーク重視、アート重視,定性的で非線形なモデル。

参考2>>   "海兵隊"の月刊誌「マリン・コー・ガゼット」から
「戦争はアートとサイエンスの両方の性質を持つが,サイエンスで戦争という行為を語ることはできない。戦争という行為は人間の力強い意志からなる1人ひとりの創造性と直観によるアートである。
刻々と変化する戦場の個別具体的な状況の本質を掴む直観的能力、実践的ソリューションを生み出す創造的能力、実行する強固な目的意識を必要とする」

(完)