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ダルビッシュ有から"エコシステム"を学ぶ

先日閉幕した「侍ジャパン」こと日本代表チームが優勝を飾ったWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、久しぶりに明るい話題を日本中に沸き起こしてくれましたね。遠い昔、野球少年だった私自身も、仕事の合間に試合を追いかけるなんてことをしてました。笑

少しばかり大袈裟に思えるかもしれませんが、今回の優勝は、国際競争力を失いつつある日本のビジネス界に示唆を与えるものなのかもしれないと私は考えています。スポーツでもビジネス、エンタメ分野でも、世界で活躍する人材になるには、どういう思いを個々が持つべきなのか、そんなことを今一度思い出させてくれたからです。

立役者?影の立役者?

今回の優勝においての立役者と言われる人たち。例えば、栗山英樹監督の采配の的確さや、注目度がNo. 1でもありMVPを取った大谷翔平選手、ボストン・レッドソックスの既に4番バッターとして活躍している吉田正尚選手や165キロの最速の佐々木朗希選手 etc…。本当にそれぞれが素晴らしい役割をチームで担ってきたことでしょう。

しかしながら私は、今回一番注目したのは"ダルビッシュ有"という存在なのです。報道でも知られていることですが、ダルビッシュ選手は、自身の所属チームでの調整よりも「侍ジャパン」での活動を優先し、2月17日から始まった宮崎合宿から参加をしています。

彼の行動の意図は、ひと回り以上離れている若い選手たちに"野球の面白さ"を伝えることであったに尽きないでしょう。日本の勝利だけではなく、原点である野球の楽しさを知らせること、その伝道師としての役割をあえて行っていたのだと私は考えます。

「自分達がやりたいことは何だったんだ」

その思いをキャンプ初日から、若い選手に問いかけながら、自ら実践して範を見せてくれました。対話を繰り返すダルビッシュ選手の姿が極めて印象的でした。これは、第1回、第2回大会に連覇したイチロー選手には全くなかった新しいリーダー像であると感じます。

以下は、このnoteで幾度となくご紹介させていただいている野中郁次郎名誉教授の言葉です。

新しいイノベーションや構想は、共創によって創出される。構想は、共感から始まった。
本質直観と相互主観性の形成。本質直観とは、日本に於ける西田幾多郎哲学やフッサールの現象学に源泉を持ちます。現場に入って、初めてバイアスのない「純粋経験」として自分の中に世界が映し出されます。

野中郁次郎・山口一郎 著「直感の経営」から一部抜粋&要約

故に「自分達がやりたいことは何だったんだ」という問いを発し続けた、今回ダルビッシュ選手が起こした行動こそが注目すべきことなのかもしれないと私は思うのです。

エコシステムとの接点

タイトルにも記した「エコシステム(究極的に新しい生態系)」とは、一社では出来ない経営の目的を意味しています。競争という概念ではなく、共創という概念、競合も巻き込んで業界全体や都市など地方自治も巻き込むというオープンイノベーションシステムでありますが、残念ながら日本ではなかなか実現出来ていない現状があります。

ダルビッシュ選手のバックグラウンドは、日本の野球界だけではありません。多くのことを背負いながら生きてきました。

イランの父親→東北高校→日本ハム→大リーグのカブス→ドジャース→パドレスと渡り歩く人生感が、まさに彼しか出来ない価値観を生み出している人生です。

経営でいうならば「経営の最新理論エコシステム業界の枠を超え、企業の垣根を超えて共存共栄を図ることで大きな収益構造を図る」に似た概念を、彼は日本チームから始めたのでは、そんな風に私は感じたのです。

ダルビッシュ- 思いを伝える大切さ-

ヘッドコーチの白井一幸氏も絶賛するダルビッシュ選手の存在。投手コーチ、打撃コーチ、守備コーチ、バッテリーコーチ、走塁コーチと数多くいる中で、技術ではなく魂(思い)を伝えたのは、しかも日本人だけでなく野球を愛する世界の方々をターゲットにしたのが、ダルビッシュ選手だったと言います。

ダルビッシュ選手は、野球観や野手を唸らせる考え方技術ではなく、イラン人の父親を持ちながら、どんな中学生で高校生の生活を過ごしたかを若い選手たちに赤裸々に話したそうです。

彼がこういった生い立ちを含めた中で、それでも人間を信じる話しは、野球そのものよりも,人間観、家族観、組織論、そして何よりも「何故自分が野球が好きか」という言葉の重さは、チームの在り方を話すことで、若手選手が共感していったことは想像に難くありません。

2月20日には、投手中心の親睦会「宇多川会」なるものをやはりダルビッシュ選手が演出しています。一年前まで育成だったオリックス24才の宇多川優希選手がWBCに選出されたプレッシャーを彼が和らげてくれたようです。

「これは、ひとりで請け負う内容ではない、みんなで闘うことと聞いている」というダルビッシュ選手がかけた言葉は、まるでアフリカの格言にある、「早く行きたければ、一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め(if you want to go fast, go alone; if you want to go far, go together)」と同意義でしょう。

WBCが"チーム"として、なし得たこと

話をまとめてみます。
野手と投手。まさに組織でいうなれば「攻めと守り」のダイバーシティ、インクルーシブを前提として、ダルビッシュ選手はチーム生成を実現したのだと思うのです。そしてその背景には「エコシステム」があったと、私は考えています。もちろん彼はそんなことすら考えていない、自然な行動であったという前提でもあります(つまり、言葉が重要ではなく行動ということです)。

決勝戦。そのキャプテンを務めたマイク・トラウト選手も同じような趣旨の発言をしていました。
予選で東京ドームで戦ったイタリアチームも、中国チームも、相手チームは、大谷翔平の超人的な力だけではなく、なんとも言えない日本チームの闘い方、チームの団結力、不思議な魅力を感じたのではないでしょうか。

まとめの代わりに

これを記している本日の段階で、WBCで活躍した日本選手へのSNS(Twitterや球団発YOU TUBE)へのアクセス数は、100万viewを超えているそうです。

カージナルスに所属するヌートバー選手のインスタフォロワーは、130万人(3日前95万人)で、球団全体のフォローの100万viewを上回ったとも報道がありました。加えてセントルイス・カージナルスは、今後ヌートバー選手を活用した世界戦略を展開すると発表しています。彼の情熱と母親、家族を大切にする姿が、魅了したのでしょう。地元ではマイケルジョーダン以来のヒーローだそうです。一過性でないことを祈ります。

さて、今回のnoteで私が皆さまに伝えたかったことは、WBCというイベントが単なる野球のクラシック大会というだけでもなく、かといって日本国民を惹きつけたのではなく「自分達のやりたいことは何だったか」を問い続ける大切さや、ビジネスにおいて自身を問う存在が日本の企業にいてくれることが、今重要なことではないかということです。そしてそれを排除しないということもです。

私はその新しい可能性でもある姿を、ダルビッシュ有という選手から"言葉だけではなく実践する、行動する"という形で再理解させてもらえました。表面的ではない思いの強さは人を動かす。
私はこの力強さを、36歳の彼から教えてもらったのです。

今日はこの辺で。また次回。

扉写真:©️「日刊スポーツ」2023年2月1日

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