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経営の基本メカニズム

「良い会社」にするには、経営の基本メカニズムをきちっと確立・機能させた上で、社員を大切にすることが必要だと述べました。

ここで、「経営の基本メカニズム」とはどのようなものなのか整理しておきましょう。

「経営をする際に脳裏に描いておきたい1枚のフレームワーク図」としてまとめました。会社の円滑な運営や成長を生み出す原動力となる要素と、それらの相互関係を表現しています。

「社長」「経営理念・ビジョン」「ビジネスモデル」「システム化・型決め」「行動環境」の5つが経営の原動力、会社を成長させていくために重要なポイントだと考えています。

とりわけ中堅・中小企業においては「社長」の役割が大きいため、最上部に置いています。社長は、自身の経営に懸ける想いを大なり小なり持たれています。そして、ほんとうに良い会社を作られている会社の経営者は、その想いがとても強いのです。ほぼ例外なく、事業、製品・サービスを通じて社会に貢献したいとか、従業員やその家族の幸せを実現するのだという強い想いをもって経営をされています。

その想いを社員に伝えるために「経営理念・ビジョン」として成文化します。中には成文化はされていないというケースもありますが、経営理念・ビジョンが社員にきちんと共感・理解されているかどうかというのはとても大事なことです。

経営理念・ビジョンを実現するために「ビジネスモデル」を作っていく。ビジネスモデルというのは、時に、ちょっとしたアイデアでたまたま成功するということもあるかと思いますが、ある程度の期間、3年から5年くらいでしょうか。きっちり売上を立てて事業として成立させていくためには、ちょっとした思い付きで事業を始めるというレベルではだめでしょう。普通の能力の人が普通に働いてそのビジネスモデルを動かせるような仕組みづくりが必要です。それが「システム化・型決め」です。

「ビジネスモデルや行動環境を効率的・効果的に動かし実効力を与える仕組みづくり」としています。普通の能力の社員が普通に働いてビジネスモデルがうまく回せるようにしていくことです。そうすれば、3年から5年くらいは事業として成り立たせることができるでしょう。

ところが、3年から5年、場合によってはそれよりも短い期間で、競合する会社が似たような商品・サービスをより低価格で提供したり、より良いものを提供するということはよくあることです。顧客の趣味・思考も変化するでしょう。技術革新によって、その商品・サービスが一気に陳腐化してしまうということだって珍しくありません。そうなったときにその事業が続かないということでは困るわけで、その会社自身もビジネスモデル、システム化・型決めを日々進化・発展させなければならなりません。その進化・発展をさせるのは誰かというと、もちろん社長が果たすべき役割はひじょうに重要なのですが、それと同時かそれ以上に社員に期待すべきところが大きいと言えます。つまり、社員が育つこと、仕事を通じて成長するような環境、風土を作りこんでおくということが、長期的、安定的に企業が成長していくためには不可欠だと言えます。

社員が仕事を通じて成長できるような環境にあるかどうかを見るのが「行動環境」です。この行動環境の中身、要は社員が育つ環境かどうかというのを見分けるため、あるいは、社員が育つ環境にするための原動力が、さらに5つ示した「ストレッチ」「サポート」「自律」「規律」「信頼」だと考えています。

社員が積極的に、これまでやったことのない、自分の能力を上回る課題に挑戦しようと意欲的に取り組んでいるか、また、そうした姿勢を組織内で高く評価するという風土があるかどうかということが「ストレッチ」。

「サポート」というのは、上司の役割です。上司の役割には、部下を管理することと、部下を支援する、サポートすることの2つがあるわけですが、社員が仕事を通じて成長している組織では、上司の役割として管理よりもサポートの方がウェイトが大きくなっていることが明らかになっています。

社員が自らの判断基準にしたがって自分の行動を律していく、自分の行動を決めていくということが「自律」です。当然、組織においててんでばらばらなことをされては困るわけで、経営理念・ビジョンを社員一人一人が自分の腹に落として、「自分の価値判断基準」というレベルにまで築き上げ、それらに照らして目の前の課題やテーマに取り組んでいく、行動することができる。いちいち上司に指示・命令を仰ぎにいくというのではなくて、自律ができるような社員がたくさんいるとか、あるいは自律を高く評価する風土を意味しています。

「規律」は、会社全体、あるいは、部門・部署・チームなどで決まめたことはしっかりやりきるということです。実は、このフレームワークに最後に入れたのが「規律」でした。これまでに関与した会社、訪問して調査にご協力いただいた会社で、社員が成長している会社とそうでもない会社とを何が分けているのだろうと、改めて振り返ってみたのですが、社員が成長していない会社というのは、何か新しい取り組みを始めたときに3か月、6か月くらいすると、だんだんフェードアウトしていってしまうのです。社員一人一人がその取り組みについて納得できているかどうかに関わらず、やると決めたことはしっかりやりきるという風土の組織では、結果的に社員が成長しているということを強く認識したのです。

ちょっと横道にそれますが、私は、2007年から2014年くらいまで、日本の中堅・中小企業12社の皆さまに大変なご協力をいただき、長期間にわたって詳細にヒアリング調査や実験をさせていただきました。たとえば、信頼感が醸成されていない会社なら、どうすれば信頼感が高まっていくのかといった課題を設定して、調査・実験を重ね、データに基づき結果を分析・評価するというようなことです。いちばん短いところで6か月。長いところでは3年間くらい詳細に分析させていただいて、結果的に本稿で図示したフレームワークを完成させたのです。

そして、やはり「規律」がない会社というのは社員が育っていなかったというのが、後から振り返ってみてよく分かったということです。

規律は、まず、経営者が、組織において何かをやろうとしたことに対して、経営者自らその想いを持ち続けられるかどうかが重要です。社員は常に上の人の言動を見ているものです。社員は部課長を見ているでしょうし、部課長は社長を見ているでしょう。規律がない組織というのは、経営者に規律がない。社長が規律がない。なんらか改善しようと始めた取り組みに対して、それがだんだんとフェードアウトしていくような、そして、フェードアウトしてしまうことに対して「何も問題ではないよ」というような社風の会社というのは、社員が育っていません。

そして最後に、何よりもいちばん大事なのは、真ん中に置いた「信頼」です。上司と部下、あるいは、仲間の間での信頼ですね。タテ、ヨコの信頼感。これがなければ、社員はストレッチしようという気持ちにはなれないですし、上司や先輩社員も信頼感がない部下や後輩社員との間では、しっかり彼ら、彼女らをサポートしたいという気持ちになれないでしょう。部下や後輩社員の立場から見ると、自分が信頼していない上司や先輩からいろいろとアドバイスを受けても素直にそれを聞けません。自律も同様ですね。組織に対する信頼感がなければ目の前のお客さまに喜んでもらいたいという気持ちにもなりにくい。そうすると、自分でいろいろと考えてアイデアを出して行動していくということができない。規律にいたっては当然、信頼していない組織、社長、上司、先輩社員がいろいろと「あれをやれ」「これをやれ」「これが一番だから」などと言われても、なかなか従わない。

以上、「ストレッチ」「サポート」「自律」「規律」「信頼」の5つの要素がそろっているところでは、行動環境が高まっていき、より良いビジネスモデルが生まれてきたり、さまざまな仕組み、いろんなプロジェクトが生まれていくということになるのです。

それから、フレームワークの上部に「企業環境分析」と「成果分析」があります。

企業経営を駆動する10個のドライバ、すなわち「社長」「経営理念・ビジョン」「ビジネスモデル」「システム化・型決め」「行動環境」の5つのメインドライバ、そして、「行動環境」の構成要素である「ストレッチ」「サポート」「自律」「規律」「信頼」の5つのサブドライバを、いかに社長がうまくマネジメントしていったとしても、その会社だけの力では抗えない大きな環境変化に直面することがあります。その環境変化を、経営者として、そして、組織として、しっかりと予測し、分析して、日々の意思決定に役立てていく。これはトップから各部署にわたるまでですね。そうした企業環境分析をきちっと行って、的確な状況認識の上に最適な行動をしていくということです。

それから右の方に「成果分析」と記しています。これは、経営改善を進めていくときに、財務成果だけで評価をするということがよくあります。しかし、その前の段階として、社員が成長する、そして、社員がさまざまな工夫をして業務を改善していく。その結果、お客さまの満足が高まるという3つのステップが起こっているのです。ですので、財務成果だけを測るのではなく、人の成長、業務の改善・仕組みづくりの進展、顧客満足の向上といった面からもしっかり測定・分析していくことが大切です。なるべく短いスパンで測定し、良い会社づくりが順調に進んでいるかどうかを判断するということが必要です。

以上が「経営をする際に脳裏に描いておきたい1枚のフレームワーク図」として示した、経営の基本メカニズムに関する説明です。

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