出産の思い出

8/9 8日夕方から今までとは何となく違うような体調の変化を感じ、念のため入浴を控えた。寝る前に父に連絡して明日(9日)の午後に病院に連れて行って欲しいと頼んでおいた。午前中はゆっくり休みたかったので午後に行けばいいと考えていたのだ。布団に入ると普段は胎動を激しく感じた後しばらくすると落ち着くのだが、この日は明け方近くまで胎動が続き、あまり眠ることができなかった(今思えば赤ちゃんが異変を知らせてくれていたのだろうか)。午前中に両親が私が食べる昼食を持って自宅までやって来た。母が『これから病院行こうか?』とたずねてきた。緊急性を感じていなかったし両親はこの後用事があるとも言っていたので(私を病院に連れて行っても用事に支障はなかったらしい)予定通り午後からでいいよと断った。普段の母はあまりこういうことを言ってこないので何だか変だなと思った。両親が帰り昼食を食べ横たわる。午後になり父が来て病院に向かう。診察を受けると破水しているとのことでそのまま入院となった。両親が自宅に来て母の言葉に変な感じを受けたのはこのことだったのかと納得した(ちとスピリチュアル過ぎるが)。1週間ほど前にも破水の疑いで一度入院していたので入院用の荷物を預かってもらっていた。その荷物を受け取り分娩室の前にある処置室へと向かう。産まれるまではこの部屋で過ごすのだ。GBS(=B群溶血性連鎖球菌。膣内の常在菌で、母体に悪さをすることはないが分娩時に赤ちゃんに感染すると非常に状態が悪くなることがあるため、分娩時には十分対策を立てる必要がある。とのこと)が事前の検査で陽性だったので抗生物質の点滴を行う。刺しやすさ刺しづらさがあるようで腕の変な位置に針を刺された。NST(=ノンストレステスト。胎児の心拍と母親のお腹の張りを監視する装置)と、臨月に入ってから血圧が高くなってきたので血圧を定期的に測定する装置を着ける。体が管だらけになる。医師(診察をしてくれた人と同一人物)から、子宮口を広げる海藻?(後に調べると“ラミナリア”と呼ぶらしい)を入れると告げられ処置をするため手術室へ。これがかなり痛い。4本?くらい入れた。入れるのも入れたまま動くのも痛くて辛い。違和感がありかなり気持ちが悪い。お手洗いにもヨロヨロとゆっくり動きながら向かう。ベッドの上で横になっているのも辛い。更に医師から、血圧が高く負担を減らすために無痛分娩をすすめられる。しかもなんらかの医学的理由で病院から無痛分娩をすすめられた場合には通常約10万円のところを3万円引きの7万円になるとのこと。お得である。手術には人手が必要なので日勤のスタッフが帰る前の17時頃までに本日中に手術を受けるか決めるように言われる(この時点で既に16時)。病院に向かっている夫に連絡し、到着した夫から「無痛分娩にしよう」と言われ承諾することにして書類にサインをする。手術室に行き、硬膜外麻酔の手術を受ける。背中を丸めるよう指示されるが私はいかんせん体が異常に硬いためにうまく丸まることができない。医師も看護師さんも助産師さんも呆れていた。何とか針を刺し、確認用の微弱な麻酔が注入される。先が鋭利な紙か何かで下肢を突かれる。最初は麻酔が効いていなかったものの徐々に効き始めて感覚が無くなる。麻酔のお陰で海藻の不快感は和らいだがあっという間に麻酔は覚めてしまった。夫や来てくれた両親達が帰り、心細くなりながら海藻の痛みに耐える。破水は続いているのでその不快感もある。破水のためのお産パッド(産褥パッド。生理用ナプキンの大判サイズみたいなやつ)を交換するためにしょっちゅうお手洗いに行きたくなるけど動くのは辛い。お産パッドは事前に支給されていたがどんどん使うために足りなくなり、自販機で少量かつ価格高めのお産パッドを何袋も買うことになった。とにかく痛みや不快感であまり熟睡できなかった。ちなみにこの日、医師から既に破水して時間もあまりないので誘発剤を使用し陣痛を起こし、陣痛が起きたら無痛の麻酔を入れるという流れになると説明を受けた。

8/10 昨日入れた海藻を医師(院長)取り出すも、子宮口は1〜2cmほどしか開いていなかった。取り出した海藻はべっ甲で作られた靴べらのような形をしていた(ように見えたが実際のところは不明)。こんな物が4本も入れられていたのか、痛いに決まっている。しかも効果がなかったので落胆する。院長曰く破水は高位破水(一度に流出する量が少なく気づきにくいと言われている)だったらしい。子宮口を広げるため今度はバルーンという風船のような器具を入れることをすすめられ、入れることにした。これも違和感があるが海藻よりはマシであった。しかも入れるのも院長だったからか上手くて痛みも少なかった。しかし下から棒のような物が飛び出している、一応普段通り下着が穿けるんだが恐ろしい。処置室に戻る。この日の担当医が変わり、見たこともない医師が現れた(今までの医師は外来で診察してもらったことがある人達だった)。誘発剤を投入し陣痛を待つが、分娩には子宮口がそれなりに開いている必要があるという説明を受ける。医師の去り際、名前をたずねる。まさに「君の名は。」だった。ちなみにどうでもいいが顔はミキの昴生に似ていた。誘発剤を投入する。しかし陣痛は起きず、結局中断された。この日、両親に頼んで携帯ラジオを買ってきてもらい、高校野球の中継を聴いた。確かこの日か翌日にバルーンを取り出したが、これも効果がなく子宮口はたいして開かなかった。陣痛を待っている間にも周囲の処置室では次々とお産が始まり赤ちゃんが誕生する。我ながらとても情けないが、妊婦さん達の痛みに悶える声を聞くのがとても怖かった。妊婦さん達の家族は処置室前でも大声で話したり、処置室に続々と来客があったして落ち着かなかったりと、気にしなければいいものの気になって少々イラついてしまったりもした。

8/11 朝から誘発剤を投入。徐々に陣痛のような痛みを感じる。生理痛を酷くしたような腰の痛み。我慢できなくなったら無痛の麻酔を入れるので言うように指示される。今日もラジオで高校野球の中継を聴きながら痛みに耐え気を紛らわせる。そろそろ我慢できなくなってきたので麻酔を投入。確かこの日の第3試合の最中だった。医師や助産師さんから定期的に内診グリグリ(=卵膜剥離。非常に痛くて苦手だった)をされるが、その度にあまり子宮口が開いていないと言われていた。私の体、産む気あるんか。今回の医師の卵膜剥離では激しく羊水が出てくる。助産師さん曰くこの医師は卵膜剥離が上手い?らしい。この時に医師から、赤ちゃんの頭が骨盤に引っかかっており自然に出てくるのは難しいと言われる。帝王切開で出すことになりますと。しかもこの帝王切開も人手が必要なので早めに返答するよう催促される。医師からは自分の勤務時間内に手術を実施したいという意気込みを感じた。しかし帝王切開となったことが残念で(気にする必要がないのだが)自分が妊娠中にロクに運動をしてこなかったことや出産直前に妊娠高血圧症となってしまったこと、破水にすぐに気づけず早めに受診できなかったことを悔やみ医師にそのことを吐露したが関係ないので気にするなと言われる。この時、経膣分娩だと赤ちゃんが母親からの免疫?が得られるから経膣分娩の方が望ましいとされているというマユツバものの情報をインターネットで見かけたんだがと医師に話すと、そんな事実はないしインターネットに書いてある情報は信憑性がないので振り回されないようにと言われる。こんな大変な時に下らないオカルト話をしてしまった。情けない。これだからインターネットは。書類にサインして手術室へ。夫に頑張れと励まされる。無痛分娩用に刺した針に麻酔を注入。この時にも私の体の硬さが災いして作業に手間取っていた(すんません…)。人工呼吸器を装着する。楽に息ができない。苦しい。人工呼吸器ってこんなもんなのか?外科手術なんて初めてだからよく分からない。麻酔が効いてくる。以前夫が全身麻酔で手術をした後、麻酔が切れてから饒舌になったという話を聞いていた(アッパー系)。私はダウナー系だったのだろうか、意識が朦朧として苦しい。残念ながらキマらかったのかもしれない(麻酔は効いている)。手術台の上の照明に目をやると、開腹しているところが反射して見えそうだったので怖くなり目を逸らす。途中、帝王切開になったことへの悔しさから涙が出てくる(ホントに気にするようなことではない)。医師から声をかけられ、赤ちゃんを取り出す際にお腹を強めに押される。赤ちゃんが出てきた。午後4時46分。44分は避けたのかたまたまなのか(これもまた別に気にしないが)。泣き声が聞こえる。助産師さんから元気な赤ちゃんですよー^ ^と言ってもらえた。顔を見て安心。麻酔で頭が回らなかったがとても嬉しかった。赤ちゃんが手術室を後にする。夫も見せてもらったとのこと。院長も手術に参加?しており、「おめでとうございまーす」と言って早々退出していった。自分にとっては己の子なので感動しっぱなしだが、院長にしてみれば今まで取り上げてきた何千何万もの赤ちゃんの内の1人なので当たり前だがよくある出産の1つだったであろう。塩対応も納得。そんなことを考えている内に手術は終了。待っていた夫から労いの言葉と「もし立ち会い出産だったら号泣してたかもしれない」と言われる。号泣したところを見てみたかったなと思い笑った。術後なので家族と少し会話した後にすぐに別れ、今までとは別の処置室で寝かされる。処置室の外では両親達が喜び大きな話し声が聞こえる。他の処置室に苦しんでいる妊婦さんがいるんだから静かにしてくれと怒りがこみ上げる。嬉しいのは分かるが…。この時から産後のイライラ(情緒不安定)が始まっていた(元々怒りやすい性格でもあったが)。とにかく無事に出産できて本当に本当に良かった。そしてこの後、翌朝まで水も飲めず痛みに耐えほとんど眠れない地獄のような時間を過ごすことになるのだった(本当、無事に出産できて良かった)。

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