クロレラ観察全国大会から始める、キヴォトスの不思議ツアー

 クロレラ観察部、とても可愛らしいですよね。私も大好きです。そんなクロレラ開発部をめぐるある一言からはじめて、いくつかのキヴォトスの謎に触れてみるのが本noteの趣旨です。ベアトリーチェが餌として先生に提案したとおり、キヴォトスは謎だらけの世界です。本noteではその謎である部分の強調を行い、幾つかの可能な解釈例を(事実と単なる解釈をわかりやすく切り分けて)示しながら、今後のストーリー展開がなされた際の伏線回収や、新たな謎との連関で「あっ!」となる気持ちよさの助けになればと作成されました。「こんな記載あったよね~」と楽しく気楽に読んで頂ければ幸いです。



クロレラ観察全国大会!

 クロレラ観察部とは文字通りクロレラを観察する部活です。クロレラはユーグレナやミカヅキモ、ボルボックスなどと並んで中学時代の理科などを思い出して懐かしいな~となる方や健康食品として思い浮かぶ人などあるかもしれません。私はクロロフィルとクロレラを結びつけて覚えて勉強していた記憶があります。

 クロレラは先述のとおりクロロフィルを多く含みます。クロロフィル、つまり葉緑素です。葉っぱの緑色のもとであり、つまりクロレラもまた緑色のとても小さなまるい藻です。

 おそらくクロレラ観察部はこのちっちゃな藻を観察するキヴォトストンチキ部の一つであり、ちんまりとした部員ちゃんたちの可愛らしさとちっちゃなクロレラ、それをただじーっと観察するというほんわかしたイメージで多くの先生方に愛されています。

 その部室に突如足を踏み入れたのが我らが百花繚乱紛争調停委員会の切り込み隊長であり、青春少女のレンゲさんです。彼女の放った一言がキヴォトスという都市に一つの疑問を浮かび上がらせます。

 それは「全国大会」です。多くのキヴォトスの生徒にとって、学園自治区と世界の関係は以下のようなものです。

 ここには一見おかしな点はないように見えます。百鬼夜行の一部活が全国目指して頑張るぞ! 一見おかしな点はないように見えますが、明らかにこの一言には一つの大きな意味が含まれています。

 キヴォトスとはそもそも何でしょうか。キヴォトスは、自転車で道に沿って南北4000キロの大陸であり、数千の学園自治区を擁する巨大な学園都市です。

 そう、キヴォトスは学園都市なのです。ゆえにキヴォトスの生徒が「全国大会」に出場するためには、形式的に読めばキヴォトスは以下のいずれかの属性を有さねばなりません。

①キヴォトスは都市国家である。つまり「全国大会」=「全キヴォトス大会」である
②キヴォトスは国家に所属している。つまり「全国大会」≠「全キヴォトス大会」であり「全キヴォトス大会」は地区戦でしかない

 私はかなり素朴な直感として「キヴォトスは国家それ自体ではなく、またいかなる国家にも属さない」と解釈していました。しかし、これはキヴォトスの生徒が「全国大会」に出場できる以上偽です。レンゲは青春小説を好むため、本来はキヴォトスに存在しない「全国大会」を存在すると誤解していた、と解釈することは可能でしょうか。実はほぼ不可能です。

 根拠となるのが以下の台詞です。

 「クロレラ観察に全国大会ってあったっけ?」――この発言は少なくともクロレラ観察以外の何らかの(部)活動に「全国大会」が存在しなければまず出てこないでしょう。もちろん形式論理的にはいかなるキヴォトスにおける活動も「全国大会」に繋がることがないとしても上掲の発言は可能ですが、それは論理的なレベルの話です。形式論理的に可能なだけです。現実的な日常会話のレベルにおいて、キヴォトスにおけるいかなる活動も「全国大会」につながらないことは、上の発言を見る限りまずありえないと言っていいでしょう。

 ブルーアーカイブのストーリーは基本的にキヴォトスで展開されるため、我々は「世界」と呼ばれても「全国」と呼ばれてもその言葉で「キヴォトス全土」を想定しがちです。たとえばおそらく先に挙げたミカが述べている「世界」はおそらくキヴォトスを指しているでしょう。しかし、これは正確な表現ではありません。

 先生やゲマトリアに代表される存在はキヴォトス外部の者であり、「世界」とは正確には「学園都市キヴォトス」を含むより広い範囲を指す言葉です。

 「学園都市キヴォトス」は正確には「世界」とイコールではなく、そして現在公開されているいかなるシナリオにおいても何らかの国家に所属している、あるいは国際機関に管理されているという情報は開示されていません。

 「学園都市キヴォトス」はイコール「国家」であるか。これも明言がありません。「学園都市キヴォトス」の行政制御権は連邦生徒会が掌握しており、サンクトゥムタワーがこれを保障しています。しかし、ブルーアーカイブの世界における「国家」の成立要件をキヴォトスが満たしているかどうかは不明です。キヴォトスにおける「学園」の成立要件は対策委員会編で明示されていますが世界における「国家」の成立要件については全く触れられていません。強いて言うならばデカグラマトン10番目の預言者マルクトは「王国」ですが、カバラ上の「王国」と国際政治の「国家」を併置して語るのは今のところナンセンスでしょう。

 しかし、「全国大会」はほぼ間違いなく存在します。このことが形式的にはキヴォトスが国家であるか、もしくはキヴォトスが国家に属することを要請するのです。

 しかし、これは形式的な話です。もう一つ、穏当な非形式的な解釈があり得ます。

③「全国大会」という言葉で指しているのは正確には「全キヴォトス大会」だが、「全国」という言葉は単なる比喩である。「全キヴォトス大会」ではあまりにも長すぎるのでキヴォトス人は慣用として「全キヴォトス」を指すとき「全国」と言うことがある。

 ちなみに、ヴェリタス新年イベでも名前の出てきたミレニアムサイエンススクール野球部の目標は「インターハイ出場」であり、「全国」という表現を避けています(かつては「甲子園出場」であり、修正済みです)

 「晄輪大祭」もまたそう呼べばよいのでわざわざ「全国大祭」とは呼ばれないでしょう。クロノスの報道や連邦生徒会からの発表でキヴォトス全土に呼びかけるときは「キヴォトスのみなさん」などとお伝えすればよく「全国」という語は基本的には不要ですが、百花繚乱編ではようやくその場面が訪れこの慣用的な表現がなされた、という解釈です。

 ①~③の解釈はいずれも可能であり、確証も反証も私が確認したところないはずです。よって本noteはいずれを支持するものでもありません。可能な解釈の例を並べたに過ぎません。

 ただ、ブルーアーカイブにおいて「国」は未だ明確に立ち現れていない不明な概念だということだけは示すことができるでしょう。私たちは今のところキヴォトスの外に出たことがありませんから「外国」とのコミュニケーションが強調して描かれたことはありません(正確には超電磁砲コラボで禁書世界の日本人と接触しているため異世界人かつ外国人と接触しています)。

 ゲマトリアは対策委員会編においてホシノに対し「私共の企業」という表現を使っており、そのバックに「国家」が存在するのかどうかは不明です。先生とゲマトリアは「違う領域」にいるという表現も意味深です。

 ちなみに、キヴォトス内外はミヤコの絆ストーリーで確認できるとおり動物密輸事件が発生する程度には繋がっており、チュートリアルでも確認できるとおり「キヴォトス外」から人が来ることについてはキヴォトス人は誰も驚きません。

 禁書世界やプレ先世界などの「世界外」からキヴォトスに来ることは驚きや動揺をもってキヴォトス人に受け止められており、単にキヴォトス内外を出入りすることと「世界を超える」ことは全く別の問題であることがわかります。

 ちなみに、黒服が自らを先生とはキヴォトス外だが「違う領域」と表現したことについては、以下を補助線として解釈できるかもしれません。

 シナリオライターであるisakusanはインタビューにおいてこの「高次的」という表現に注目するよう促しています。「高次的」とはつまりメタであり、マエストロはゴルコンダに大人のカードに関するメタ的な表現を請うているわけです。言うまでもなくこれはメタフィクション的表現です。isakusanが何度も先生はプレイヤー自身だと思ってほしいと述べ、課金の文脈さえゲーム内に取り入れたかったと述べ、プレナパテスの大人のカードが明らかにクレジットカードであり、青輝石は大人のカードで購入できるという設定(そして薬子サヤほどの天才がその青い石についてはよくしらないと言っている事実)もそれを裏付けています。

 つまり先生=プレイヤーである以上、私たちはキヴォトスに対し「高次的」な存在です。黒服たちはこの領域から来ていないので、違う領域の存在である、というわけです。ちなみに「別領域だが同じメタレベル」の場所からキヴォトスに来た存在は現在一人だけ存在し、それはプレナパテス(あるいはプレナパテスとイコールで結ばれるプレイヤー)です。彼または彼女の領域では最終編をもって自身の命が尽き、引き継ぎも済んで幕を下ろす(最終編、サ終となる)ためプレナパテスのプレイヤーの在する(プレナパテスの大人のカードの力の源となる)「キヴォトスより高次の領域」は「私たちのこの現実世界」とは異なりますが、その「高次性」は「現実世界」と同レベルでしょう。

 ややこしい話をもう一つ。キヴォトスの通貨は「円」であり、青輝石は「現実の日本円」などで購入できます。「円」はキヴォトス内だけでも語ることのできる通貨の概念です。そして「青輝石」は「現実世界における我々の課金」を観測できなければ、その特性を理解できません(私が課金したとき、突然先生の懐に大量の青輝石が湧いたようにキヴォトス人からは見えるでしょう。青輝石がモノであることはイベントショップで交換可能であることやサヤも青い石と呼んでいることから明らかです。そしてその青い石はキヴォトス内部だけでは絶対に理解できない特異現象によって先生の懐にいくらでも湧きます。私たちの現実上の対価を伴う行為ですが、誰もそれを観測できません)。そして、大人のカードにはもう一つ通貨のように使用できるものが付与されることを決して忘れてはなりません。これがまた少し不気味な存在なのです。

 「クレジットポイント」です。大人のカードは高次的な切り札ですが、キヴォトス内に実体を持っています。ホシノが「大人のカード」を視認していますし、そうでなくとも「プレナパテスの大人のカード」から「大人のカード」の形は類推できます。「大人のカード」による「青輝石」の購入は現実でのプレイヤーの課金を伴うという点で「高次的」ですが、「クレジットポイント」には少なくとも一つの不気味な要素を持っています。

 「特別任務」をみなさんはご存じのはずです。レポートやクレジットが2倍、3倍の時に回るアレです。その一方、レポートを貰える方は「拠点防衛」と呼ばれます。なぜか。この特別任務は軍需工場のAIが暴走して警備ロボットが暴れ回っているため、連邦生徒会管轄の拠点を防衛するためにシャーレが出向く特別任務だからです。とてもわかりやすいです。理解できる。

 一方、クレジットが貰える任務は「クレジット回収」です。これはそうりき戦で我々の憎悪を集めている「スランピアで起きている怪奇現象を調べて欲しい」という依頼です。この内容の特別任務名が

 モモカの言葉と依頼・任務名に明らかに連関がありません。モモカはこの特別依頼の説明に際してクレジットのクの字も出しません。ですが任務は「クレジット回収」なのです。実際、回ればクレジットがバカスカ手に入る任務なのですから結果としてクレジットの回収は行われています。ですが連邦生徒会からの依頼を正確に表現するならば「スランピア調査」――「拠点防衛」と同じ文字数まで省略しても「廃園調査」でしょう。

 ここからはかなり解釈に踏み込むのでその点注意ください。青輝石は基本キヴォトスでは「奇妙な使われ方」をします。好例は「AP回復」です。

 APとは上掲のとおり先生の体力です。ドリンクで無理矢理回復するのはまあわからなくもないですが「青輝石を消費して回復する」のはなかなかに特異現象でしょう。本来なら錬丹術研究会の深い興味の対象となるはずです。しかし、イベントショップなどで放課後スイーツ部のような一般的な部活が交換商品として取り扱っているにも関わらず、サヤほどの人がよく理解できていないのです。

 「募集」でなぜ石が減るのか、そもそも「募集」で受け入れたシャーレの部員、いつも私たちがそうりき戦などで使っている、あるいはストーリー上の大人のカードで呼び出す生徒とはなんなのか。これも確定的な解が未だありません。

 また「青輝石のわかりやすい使われ方」として以前はエンジェル24で指名手配チケットを石で購入することができましたが、現在は商品から姿を消しています。指名手配画面で直接石を割って回復する形に修正されています。

 対して「クレジットポイント」はその説明のとおり「円」のように気軽にお店で使えます。エンジェル24において毎日「クレジットポイント」でお買い物している先生も多いでしょう。つまり「クレジットポイント」は「青輝石」に比べれば数段「高次性」とでも呼ぶべきものが落ちます。キヴォトスの普通の流通の世界に降りてきやすいものです。

 しかし、低次――つまりキヴォトス内で理解しようとすると「特別依頼・クレジット回収」とは何なのかという問題が立ちはだかってきます。

 これは完全に飛躍した妄想で後述でそうではないと別解釈で切り返しますので笑って読んでいただいて構いませんが、私は可能な想定の一つとしてクレジットポイントを保障しているのはモモグループではないかと推察しています。

 理由は単純、「クレジット回収」の現場が「スランピア」だからです。スランピアは元々ユートピアとしてモモグループが運営していたものが不振により即廃園となったものです。つまり、スランピアの存在はモモグループの汚名です。そこに怪奇現象、生徒が消えるなどという話まで浮かび上がってきました。

 このとき、スランピアの権利についてモモグループが有しているかいないか2パターン想定できますが「スランピアの怪談」はいずれにせよモモグループのブランドに傷を付けます。これをシャーレが片付けてくれるなら万々歳です。

 一方、連邦生徒会としてはスランピアの問題はあくまでスランピア内部の問題に過ぎません。軍需工場のAIが暴走して警備ロボットが暴れ、拠点維持に問題が生じているなら防衛は連邦生徒会の特別依頼任務足り得るでしょう。ですが、スランピアについては常設の特別任務にすべきほどのことかかなり疑問です。特別任務実装時、つまりサービス開始から時を経て登場するシロ&クロやゴズですらスランピアの外に出ません。「特殊作戦」として扱っているデカグラマトンとその預言者たちの暴れっぷりに比べれば随分大人しいものです。

 機能不全に陥っている連邦生徒会がなぜスランピアに注力するのか。ひとつは事実としてスランピアが危険だからだと思います。「総力戦」をもってあたるべき対象が2種(シロ&クロ、ゴズ)もいるほどです。ゲマトリアもこのスランピアに興味を示しています。それも、マエストロとゴルコンダという異なる切り口からの興味であり、スランピアの異常性が際立っている例と言えるでしょう。

 しかし、それなら特別任務名は「スランピア調査」「廃園調査」などでよいはずです。

 「クレジット回収」などという直截な名前が任務についているのは訳があるはずです。現状のスランピアは眺めたとおり極度の危険地域です。そして危険であればあるほどモモグループのブランドに泥を塗ることになります。

 スランピア前は既に廃駅となっていることがメイン任務攻略のステージ名でわかりますが、土地・交通の観点からモモグループは交通室にヘルプを出し、モモカがこれをシャーレへ繋いだ。この過程に、防衛室とカイザーコーポレーションの間にあったような癒着関係があるのではないかと睨んでいるところです。

 綺麗な仕事なら堂々と「スランピア調査」を名乗ればよいのです。実際モモカは綺麗な言葉しか口にしません。しかし、依頼名は「クレジット回収」です。ここに胡散臭さがあります。

 モモカが全部泥を被り(あるいは非正規の利益を総取りし)シャーレには正規の任務として伝達することもできました――が、モモカはスランピアを調査すべき正当な理由を述べ、そこに「クレジット回収」という不適当な依頼名を付して先生に投げつけてきました。誰だって依頼名と内容に繋がりがないことには気づきます。変だぞと。つまりこの話に乗るならシャーレも同罪だからな、というていでモモカは特別依頼を投げてきた。というのが「特別依頼・クレジット回収」の合理的解釈の一つかと思っているところです。

 ここでモモグループがクレジットポイントの保障を行っているのではという話に戻ってくるのですが、こう解釈すると何が嬉しいかというと、「クレジット回収」任務を行えばモモグループが先生の大人のカードにポイントを加算処理するという形で伝票が残らないのが嬉しいわけです。

 そうなってくると先生がそんな汚い仕事に乗ってくるかという話になります。ですが、クレジットポイントについてはその信頼の保障を行っている会社について先生はどうしても一つ「保障会社から見てどう見ても不正としか思えないことをしている」という負い目があります。端的に言うと、これです。

 先に述べたとおり「クレジットポイント」はキヴォトスのコンビニで使えるほど流通しており、「特定の状況で、現金のように自由に使える」という信頼があります。よくわからない使われ方をしている青輝石とはそこが明白に違うのです。

 しかし「先生の大人のカードのクレジットポイントは低次の世界では理解できない理由で突然加算される」ことがあります。先生は「どうやったかは保障会社に理解できない特異な方法でクレジットポイントをガンガン増やしている」わけです。これはクレジットポイントの信頼に対しての明白な攻撃です。保障会社は何らかの措置を先生に講じるのが普通でしょう。しかし、現実にそうなっていません。なぜか。保障会社と先生が癒着しているからです。

 ここはモモカの知り得ない事情でしょう。しかし橋渡しであるモモカを飛び越えて「クレジットポイントを突然わけのわからない方法で増やすことを許容する」かわりに「スランピアの調査を行わせる」という言葉のない密約が先生とモモグループの間で成立しているわけです。

 こうなると最終編でスランピアに先生曰く「最強の戦力を集結させた」ことにも変な意味が付与されそうな気がしますが、光の勇者アリスちゃんの高潔な戦いを穢さぬよう見なかったことにしましょう。実際先述のとおりスランピアは元々ゲマトリア2人が興味を示す超危険地帯なので最強戦力を置くことはそれ単体で合理的です。裏なんてないです。ないない。

 以上が「特別依頼・クレジット回収」が実態に即さない命名となっている理由であり、ひいてはモモグループがクレジットポイントを保障しているという理由の極めて飛躍したこじつけです。絶対に誤りですがモモカの説明と依頼名の乖離にも、実際クレジットが増えることにも、先生の不正なクレジット加算にお咎めがないことにも、一応説明がつきます。

 ミクさんとか温チナツとかビリビリ中学生とかにそれとなくモモフレ関連をすすめるのがなんとなく汚く思えてくるのでこのあたりで反例と他の可能な解釈をあげて棄却しておきましょう。そろそろヒフミに殺されてしまいます。今までの与太話は全て誤りです。「クレジット回収」の実際の任務画面には「奪取されてしまった財貨を回収しなければなりません」とあります。

 つまりこれを文字通りに読めば財貨を「夜のネロ」が奪取しており、先生はそれを回収しているということになります。

 ここで言う財貨(財貨とはブルーアーカイブのシステムで一般に使われる様々な対象に当てはまる用語で、たとえばデカグラマトン編を読み進めようとした先生が「財貨が不足しています」に陥りシナリオ上のデカグラマトン関係を延々周回するのはよくある光景です)をクレジットポイントと解釈するならば、任務説明と任務名にはこうして矛盾がなくなるわけです。

 すると、なぜモモカは「特別依頼・クレジット回収」にてクレジット回収のクの字も口に出さなかったのかという問題がやはり浮上します。「モモカが調査を依頼し、先生による調査の結果クレジット奪取が確認でき、これに対処している」という解釈は形式的にはできません。調査に先立って「特別依頼・クレジット回収」の名でモモカから依頼がおりているので、因果がおかしくなります。調査前のモモカからの依頼時点で本件はクレジット回収案件だと了解されています。

 ちなみに整合性をとるならば形式を捨て非形式的に見ればよいです。「特別依頼・クレジット回収」はプレイヤーにわかりやすくするためのタイトル表示であり、モモカは実は「スランピア調査依頼」の件名でシャーレに調査を依頼している、実際は「スランピア調査依頼」の直後にシャーレによるクレジット奪取現象の確認があり、本件はクレジット回収任務と改められたが、サービス開始時、プレイを始めたばかりの頃にそんな煩瑣な話をするとこんがらがるのでわかりやすさを優先し「シャーレによる廃園調査」任務部分はストーリー上省略されている、ととればすっきりします。

 「モモカによる廃園調査依頼」→(シナリオ上描かれていない先生の廃園調査)→(シナリオ上描かれていない連邦生徒会によるクレジット回収としての再度の特別依頼)→「我々がいつもやっているクレジット回収」という時系列になるわけです。

 モモカの話を一端脇に置くか上のように非形式的に解決するならば「クレジット奪取」は「円」に次ぐ信用であろう「クレジット」を揺るがす大問題であり、連邦生徒会が行政介入すべき特別任務であることに疑いの余地はありません。つまり奪取事件がスランピアで起きているとしても、モモグループとクレジットを結びつけずに十分解釈可能です。わざわざモモグループに結びつけようとする方がおかしいです。モモグループはクリーンな企業です。連邦生徒会もクリーンな行政機関であり、交通室およびシャーレもまたクリーンであることは言うまでもありません。キレイキレイ。

 ちなみに、カイザーコーポレーションはキヴォトス内外に展開していることがホシノの退部・退会届で示唆されています(契約内容誤認によりホシノはPMCの一員となりキヴォトスの外に行くことを告げているため、PMCはキヴォトス外にも展開していることがホシノの誤認によりわかります)。

 モモグループはどうでしょうね。キヴォトス外に展開し、さらにキヴォトス同様にクレジットの信用を保っているのだとしたらなかなかに面白いです。それだけのかたい信用を持つポイントに対し原理不明の謎加算をしている先生と世界的企業が奇妙な繋がり方をしているのはまさに奇縁でしょう――いえ。この説は棄却したのでした。モモグループはクリーンな企業です。ここではキヴォトスの謎の呈示を行うものであり何らかの説を支持するものではありません。モモカの説明と任務名が食い違っていたり、先生の謎クレジット加算にクレジットポイント関連企業からのお咎めがなかったりしますが、これらは謎であり、その謎を解く確証された理由の開示はまだ行われていません。こういった謎がある、とだけおさえておくとよいでしょう。「現実での課金で増やせる最上級レポートに見慣れたペロロ様のイラストが描かれたフォーマットが用いられているようだが?」やめましょう。無関係ゾーン。

 先生は「高次的な」特異現象でクレジットを増やしますがより「低次的な」手段でもクレジットを直接加算します。キーストーンをクラフトチェンバーにぶちこんで3次ノードまで回し「豊かさ」を選択すると数時間後の成果の受け取りでクレジットが直接加算されます(実際に直接加算されているのか、ググプレカードのようなマテリアルなものが製造されてそれで加算している行程を省略しているのかは不明です。リンちゃんの説明によればクラフトチェンバーが製造しているのは「物質」なのでマテリアルだとみるのが整合的でしょう。クラフトチェンバーで製造した「物質」のシリアルコード等をシッテムの箱あるいはスマホで入力しクレジットを加算する先生を想像するとかなりアレですが。いずれをとってもクレジットの信用を揺るがすとんでもない悪行です)。

 先生がイカれたアウトローであることはこのクラフトチェンバーを毎日のように回していることから窺い知れます。生徒に送っているプレゼントは特に好感度狙いで常に花弁系を3次まで回しているような私のような先生にとって、その大多数がクラフトチェンバーによる製造品であり、そしてクラフトチェンバーが製造するのはオリジナルなものではなく既存企業の既存製品です。募集で迎えた生徒の好感度の無視できない部分を私のような先生はクラフトチェンバーによる密造でまかなっています。

 製造でつくられるものは先生の意志が部分的にしか反映されず、その点で擁護できると言えるでしょうか。言えません。テイラーメイドが存在します。テイラーメイドで「贈り物選択ボックス」を製造するとき、先生はそこから取り出す予定の目的物あるいは「贈り物選択ボックス」が適用される物品の範囲について知悉しています。

 ちなみに元を正せばクラフトチェンバーは連邦生徒会長の玩具です。

 つまりこの玩具で連邦生徒会長も相当「やってた」ことが予想されます。この玩具を先生に引き継いだことは連邦生徒会長の数ある仕事の一つであり、連邦生徒会長と先生はこの点で「やってる」コンビなわけです。

 先生が遵法者でも完全な善人でもないことはストーリーを読んでいれば簡単にわかることですが「悪行」を堂々と日常的にやっている例はクラフトチェンバーでしょう。「主人公」「救世主」「無敵」などと先生をメタ読みするとチャートがグチャグチャになることについて、先生はそもそも「ジャンルの解体なんて好きにすればいい」とメタ読み戦略そのものを鼻で笑って相手にしていませんが、仮にメタ読みが有効なのだとしても読みを完全に外しているので破綻します。

 このメタ読みについては最終的に躓いたものの箭吹シュロがかなり周到にやっていることを以前のnoteで述べていますので興味があれば一読ください。哲学的にかなりハイレベルなことをシュロがやっており、どういった点でハイレベルなのか、そのレベルでどこが問題だったのかにも触れています。ちなみに先生は哲学者でもなんでもなく先生なので、先述のとおりメタ読みをまるで相手にせず、また悪いことも色々やっているので規範理論から「審判者」性にメスを入れようとすると、ベアトリーチェがそうされたように「私は審判者ではない」されます。

 つまり先生の完全性を否定しようとすると「いやそもそも私は可謬的だけど(最終編3章の虚妄のサンクトゥム再出現で自責しすぎてホシノに尻を蹴っ飛ばされたのはカルバノグ2章で先生自身が語った「責任」概念に矛盾しており、可謬性は容易に確認できます)」と相手にされず、先生の正義を否定しようとすると「そもそも私は審判者じゃないけど」と相手にされないわけです。

 哲学という窓からシュロを見れば滅茶苦茶周到なのですが日常の窓から見れば当たり前のレベルのことで躓いています。ただしこれはシュロだけではなく百花繚乱紛争調停委員会の全員もそうで、大人が俯瞰して見れば「青春だなあ」となる日常の躓きであることでしょう。

 先生は悪行に手を染めています。しかもストーリーでプレイヤーが介在できない部分(たとえばパヴァーヌ1章のセミナー襲撃)ではなく、プレイヤーの選択としてそれを毎日のように行っています。しかもその悪行とは「小説を一冊密造して生徒にあげる」ようなめちゃくちゃせこい悪行です。アビドスの土地を切り崩し古代兵器を発掘する、といったカイザーコーポレーションのような遠大な巨悪的計画はそこにありません。

 ベアトリーチェは先生を絶対的存在と誤認して否定され、不知火カヤも連邦生徒会長を超人とみていますが、この「玩具」を毎日のように使い回している時点でこのふたりはそんな高みに在する超越者ではなく、彼らには欠席届を偽造販売しようとした便利屋68のようなへなちょこの悪行がくっついています。

 現代日本の道徳観で見ればクラフトチェンバーによる密造はとんでもないことに見えますが、こういったへなちょこの悪行は基本キヴォトス人誰でも悪びれずにやっているので「善か悪かと問われれば悪」なのですがその悪行の「重み」が現実とはまるで違うのです。

 FOX小隊が示しRABBIT小隊が貫いた「変わらない正義」ですら、ドラム缶を不法に持ち出すというへなちょこの悪行を容認しています。風紀委員会や正義実現委員会などの正義はどうしても学園自治区に附属する組織である以上曲がってしまうと正しく現状を認識しているミヤコですらこれなのです。

 ちなみに、このへなちょこの悪行を私たちの現代社会の常識かそれ以上の重み付けをもって「ダメだろそれ」と否を突きつけた子は確実に一人いて、それは不知火カヤ前連邦生徒会長代行です。彼女が目指していたのはキヴォトスの正常化であり、徹底的な犯罪撲滅のために邁進していました。

 前のnoteでも触れたのですが彼女が「超人」(ここで言う超人はニーチェの言うところのそれです)を目指す以上、矛盾含み、つまり犯罪撲滅のために犯罪を犯すことは何の問題もないのですが、キヴォトスの正常化を目指したという点で既存の秩序を厳格に適用しようとしたに過ぎず、むしろ既存の秩序を「破壊」し新しい地平を切り開く存在であるべき「超人」に彼女の犯罪を撲滅しキヴォトスの正常化をはかりたいという穏当に見えるその姿勢は逆行しており、この点こそが問題です。「超人」なら犯罪は場合によってはOKで正常社会維持継続は絶対にNGなわけです。

 「超人」と「彼女の願い」は矛盾します。可能なことはいずれか一方であり両立はできません。ゆえに今後彼女がどちらを優先するのかとても楽しみなところです。彼女を拡張余地のない「小物」と描かれたと残念に見る向きもありますが、哲学的なレベルでは彼女は上述のアポリアを内包した少女なのでむしろ拡張可能性は滅茶苦茶高い、かなり複雑で難儀な子だと私はみています。「超人」にでもならなければキヴォトスはどうしようもできないというカヤの思いはキヴォトスのどうしようもなさを見ていればよく共感できます。しかし「超人」になってしまえばキヴォトスの秩序を破壊する存在になってしまい、カヤの目的は達成されるどころか逆行に向かいます。「正義」を扱うカルバノグにおいて不知火カヤの抱えるこの難題はとても興味深いものです。

 覚えていらっしゃるでしょうか。この話、クロレラ観察全国大会から歩み出したもので、そこからブルーアーカイブにおける「国」という概念やキヴォトス内外という概念に目を向けたものでした。なぜかクレジットにまつわるモモグループと先生の謎の与太話に逸れましたが、これも元々はゲマトリアの黒服が口にした「先生とゲマトリアは別の領域」にあるという話から大人のカードをとって「先生の高次性」を示したところから展開されたものでした。

 ブルーアーカイブの「世界」とは「我々のいる現実」や「プレナパテスのプレイヤーがいる現実」といった高次の世界の下に「多次元解釈」で観測できる無数の世界が存在し、その世界の一部、自転車で道に沿って南北4000キロの大陸が「学園都市キヴォトス」と呼ばれ物語の舞台となっているわけです。

 つまり私たちが普段目にしている物語の舞台と比して、ブルーアーカイブがシナリオで触れている「全世界」の幅は滅茶苦茶広いです。また、これは採用するか否か自由な問題ですが「アトラ・ハシースの箱舟に向かうウトナピシュティムの本船は多次元解釈が適用されるあらゆる世界で星の瞬きのように観測されうるもののはずですが、禁書世界ではウトナピシュティムの本船の光は発生しなかった」とするなら「多次元解釈」による同時存在が不可能な「異世界」がさらに存在することを認めねばならなくなるでしょう。なお、認めるか否かで発生するのは「更なる異世界」という別カテゴリの有無で、全世界の広さは認めるか否かで変更ありません。禁書世界でもウトナピシュティムを認めるなら「更なる異世界」ではない「多次元解釈の及ぶ世界」が1個存在するのであり、認めないのなら「多次元解釈の及ばない更なる異世界」が1個存在することになり、つまり貼るラベルが違うだけで世界の数は変わらないわけです。


マキちゃんの壁画

 キヴォトスには終末に関する予言が存在します。トリニティでは百合園セイアが行い、それを受けてカヨコがゲヘナにも存在することを暗示しました。そしてマキちゃんの壁画により見事ミレニアムサイエンススクールも滅びの予言が行われ、これで三大校全てが滅びを予言したことになります――という与太はともかく、このとき訪れたクロノスのマイは面白いことを口にしています。

 キヴォトスに「狩猟・採取」の様子が描かれた遺跡が考古学的成果として既に複数発見されているようなのです。これはとても興味深いことです。私はこの発言を目にするまでキヴォトスに狩猟採取時代は「ない」と思っていました。

 たとえば現実において南極大陸で狩猟採取社会を形成した民族はいないはずです。文字の発明、有史以降、科学技術がかなり発達してから南極大陸に人間は定住しないまでも拠点を構えるようになります。そして、それより更に踏み込んだレベル――キヴォトスは人為的な大陸ではないかとすら私は思っていました。根拠はベアトリーチェの以下の発言です。

 転炉。たとえば製鉄所における転炉は製鉄の過程で脱炭し不純物を取り除くもの。つまりここではより純粋な「崇高」を取り出す過程で望ましくないものを取り除く炉であると言えます。

 現実における生物は極めて複雑な機構を持ちますが、通説としては無目的な進化の所産です。しかし、現在本noteを私が執筆し、あなたが閲覧している端末は人為的な製作物です。転炉はもちろんそれより古い発明ですが、しかし1800年代の発明です。より古い様々な発明品もほぼ確実に自然発生しえないでしょう。転炉はあまりにも人工的なシステムの、しかも一部です。転炉単体では用を為さず、製鉄設備等システムの一部として用いられるものです。

 このことから、私はキヴォトスは「崇高」を取り出すための巨大な工作物であると考えていました。転炉であるならば「転炉キヴォトス」と組み合わせて一体のシステムをなす他の機構も作られているかもしれないとさえ考えていました。そして「転炉キヴォトス」を製作できる者達は十分に科学的であるから、キヴォトスは一定の文明レベルに達した者達が入り込み活動していた、よって先史的ではあり得ないと考えていました。

 私が想定していたのは旧ゲマトリアなどの対・絶対者自律型分析システムの開発関係者たちや、無名の司祭たちのレベルです。「名もなき神」陣営の敗北により超古代文明の技術は埋もれることになりますが、少なくとも銃撃戦を行えるレベルの文明はずっと維持されていたと考えていました。

 しかし、この私の考えにはあまりにも大きすぎる穴があります。それは何か。上の考えでは黒服を説明できないのです。外の人々が「転炉キヴォトス」を開発運用していたならば、一定の知見は外にも保存されているはずです。炉内であまりにも目立つ物事なら特に外から注目されているでしょう。たとえば「アトラ・ハシースの箱舟」がそうです。しかし、黒服はアトラ・ハシースの箱舟について正確な知識を持ちませんでした。それどころか、物質的なものだと想定して動いており、「観測された」ことは完全に彼にとって想定外でした。

 観測後も彼は「アトラ・ハシースの箱舟」が何かについて「断定」していません。ならばと「措定」して語っています。仮に「転炉キヴォトス」を仕組みがよくわかっていないまま動かしているのだとしても、先述のとおりキヴォトス内外は動物密輸ができる程に繋がっているので、司祭関連の技術があれもこれも未だに実用品として外の人にとって高い価値を持つことはおかしいのです。少なくとも理論くらいは残っているべきです。確かに名もなき神関連の物事はキヴォトス内において歴史の下に埋もれました。しかしそれはキヴォトス内の話です。外には関係ありません。「転炉キヴォトス科学史」がキヴォトス外に正確に残っていないことは、キヴォトスが人造の転炉なら科学者集団が頻繁に出入りしているはずで、その成果が外に残っていないのはおかしいのです。

 キヴォトスにおいては「シミュレーション仮説」も頻繁に取り沙汰されます。内外で動物密輸が行われているため、普通に読めばこれも偽でしょう。アリスの表面は人工タンパク質であり、クロレラ観察部が観察しているクロレラはクロロフィルを有し、ミクさんは情報的な存在だったがキヴォトスのエンジニアが用意した「マテリアル」ボディによりキヴォトスで活動していると普通に読んでよいと考えています。

 重要な点のひとつは「シミュレーション仮説」には反証可能性がないということです。換言すれば「キヴォトスシミュレーション仮説」を偽とする根拠はブルーアーカイブ内から取り出せません。キヴォトス外の存在がキヴォトスは物理的実体をもつと断言してもそれは反証になりません。なぜなら、キヴォトス外もシミュレーションされた存在であり得るからです。当然、今これを書いている私も読んでいるあなたもシミュレーションされた存在であり得ます。しかし、これには反証可能性がない。つまり科学的仮説ではないのです。シミュレーションされていることを示す積極的証拠の提出がない限り、シミュレーション仮説を取り出さないのが科学的に穏当な立場でしょう。反証不可能なだけのものを認めてしまうと、認めなければならないものが論理上無限に存在することになってしまいます。

 また、キヴォトスがシミュレートされたものであるという想定はゲマトリアの考えを認めるならキヴォトスあるいは崇高あるいは神秘もしくは恐怖の定義上「不可能」であると、より強い主張もあり得るかもしれません。たとえばキヴォトスは「理解が一切およばない」ことを定義の内に含んでいるようで、ここが重要な点になります(その逆がベアトリーチェの陥ったわかりやすい「狂気」です)。

 シミュレーションは何らかのシステムの挙動を、人為的に定めた他システムで模擬することです。シミュレーションを行っている以上シミュレーターがあり、シミュレーターでシミュレーションを行っているのであればキヴォトスは部分的には理解が及ばなければならないのです。

 シミュレーターを走らせているのに走らせているものについて一切理解が及ばないのであれば、何を模擬しているのかもわかっていないしそもそも模擬になっているのかもわからないのであり、つまりそれは「シミュレーションできていない」ことを意味します。

 シミュレーションしたキヴォトスが一切理解不能というのはシミュレーションの要件を満たさないため不可能、そのシミュレーターもシミュレーションを行えていないのでシミュレーターになっていない、というわけです。そもそもキヴォトスが一切理解の及ばないものであれば「これが起きている」と語り得ないのであって、キヴォトスは語りうる対象ではなく、シミュレーション以外のどの言葉で説明してもそれは基本的に誤りであり(ただし後述の便利な術語がブルーアーカイブにはひとつ存在します)、沈黙し指し示すほかありません。

 更に言えばシミュレーションは「模擬」だと先述しました。模擬とは英語で言えばシミュレーションであり、古代ギリシャ語で言えばミメシスです。つまり、キヴォトスがシミュレーションであるならば得られるものはミメシスであり、マエストロがヒエロニムスの前口上で「神秘を手に入れられず、手に入れることができたのはミメシスされた恐怖だけだった」と述べているのは明らかにおかしいのです。

 キヴォトスがシミュレーションなら定義上ミメシスされたものしか得られません。キヴォトスというシミュレーターの外に「そのシミュレーターがシミュレーションを行っているなにか」を見にいかなければ「原本」は拾えません。シミュレーションを採用するならキヴォトスにはミメシスしか存在せず、シミュレーター外部に原本、つまり模擬してみようという発想の元になった何かがあるはずです。ですが現実はそうなっていません。

 マエストロはシミュラクラを採用しその区分を無意味だと思っていますが、その上で原本がありミメシスがあることを認めています。これはキヴォトスがシミュレーションであるならばおかしなことです。仮にキヴォトスが何らかの機構で走っており、かつ何も理解できないのだとすれば(その機構をシミュレーターとは呼べず、その走りをシミュレーションとは呼べないことは先述の通りです)ブルーアーカイブにはそのような現象を指す適切なワードが存在します。

 その機構とその走りは自動販売機のおつり計算AIが理性的に喋っていること以上に奇妙です。生じていることはシミュレーションではなく「特異現象」だと呼ぶべきでしょう。そしてそれを「特異現象」と呼ぶことは「何が起きているのか一切全くわかりません」と言っているのとほぼ同義であり(上の言明は何かが起きていることを前提にしているため、何かが起きていると理解できている以上、一切理解が及ばない対象についての言明としては厳密には不正確です。正確には起きているのかどうかすら不明であるべきです。つまり特異現象でキヴォトスを指すなら特異現象は現象であるかどうか不明です。この感覚的な難しさの補助線として想起すべきはアインソフオウルの三人でしょう。彼女達は肉眼で視認でき、耳で声を聞くことのできる対象であるはずなのですが、彼女達に言わせれば彼女達は顕現しておらず、世界における非存在者です。このわけのわからなさはケテル以前、つまりアインソフオウル、アインソフ、アインの前提です。ケテル以前、ヴェールの向こう側の000や00や0に理解が及んでしまえばそれはアインソフオウルでもアインソフでもアインでもありません)、沈黙して指し示しているのと何も違いはありません。

 「世界5分前仮説」の変形はどうでしょう。ゲマトリアがやってきたり動物密輸がなされたりしているキヴォトスは実在するが、その過去――たとえば第一回公会議時代などは存在せず設定されたものだという仮説です。

 これもシミュレーション仮説同様に、反証可能性がありません。キヴォトスだけでなく私もあなたも1秒前に作られている可能性があります。しかしそれは反証不可能なただの可能性に過ぎません。やはり積極的な証拠の提出がなければ特段認める必要はないでしょう。

 もちろん、キヴォトスにおけるこの歴史的出来事は本当に成り立つのか? と疑問に思うような箇所はあります。たとえば、アリウスのエクソダスから続く内戦です。連合から外れ、地下で内戦をし続けていたのだとしたら補給に疑問が出ます。つまり、そんな内戦は仮に途中で複数回の休戦があったとしても現代まで継続可能なのか、という疑問です。

 おそらくアリウスのロイヤルブラッド派はユスティナ聖徒会の後援があったでしょう。というよりも、迫害からエクソダス後援、そしてロイヤルブラッド台頭までの流れは聖徒会によるアリウスの乗っ取り以外のなにものでもありません。アリウス生徒会長はかつてアリウスを最も強く迫害した組織の長の血、戒律の守護者の血、ロイヤルブラッドを引くものとなってしまっています。秤アツコはアリウス生徒会長の血筋であり、かつ聖徒会の血筋でもあるわけです。

 しかし、ロイヤルブラッド派の敵対者の後援は現状読みにくいところです。連邦生徒会も掴めていないアリウスについてミカがあっさりコンタクトをとれたことからパテル分派とラインがあった可能性を見ることはできますが、確かな証拠はありません。

 仮にそうだとすれば、ティーパーティーにより開かれた第一回公会議の合意に反対したアリウスはユスティナ聖徒会に排撃され、かつロイヤルブラッド派はユスティナ聖徒会の後援を受け、反対派はパテル分派の後援を受け、自分たちを最も強く迫害したユスティナと自分たちが迫害される原因となったティーパーティーの一角との代理戦争をさせられていることになり、これはなかなか悲惨な想定でしょう。

 いずれにせよ、アリウスに内戦が継続可能な補給が行われたか、または可能かは謎です。百鬼夜行自治区だと忍術研究部が出した8桁の損害額を陰陽部が雑に流していましたので、資金力という点では圧倒的なトリニティがある程度の時期まで内乱の後援についていたのだとしたら、継続可否は微妙なラインでしょう。

 エデン3章におけるミメシスの水増しで規模が大きく見えますが、現代においてアリウスが動かせた兵数の半分がエデン2章ナギサ襲撃の際のあれですから、そもそもの内戦の規模についてたいしたことがないということもあります。

 「史実どうなってるんだこれ」と思う箇所は複数あれど、ある程度までの過去は創造されたものと断ずるのはなかなか難しいところです。

 そして、転炉の箇所でも述べましたが過去が人為製作だとしたら無名の司祭等に関する技術・理論が外に残っていないのが謎なのです。自分たちが作っておきながらわからないとはどういうことか、となるのです。もちろん先述のとおり謎の機構により特異現象が起きているのがキヴォトスだとしたら説明可能ですが、何せ特異現象なのでこの説明は何にでもつけて雑に振り回せます。まともな論証ではないでしょう。

 以上から、科学的に考えて反証不可能な仮説「シミュレーション」と「世界5分前」を排除し、素朴にキヴォトスの実在を措定(確定はできません)したとしましょう。また無名の司祭に関する技術の散逸から、「名もなき神」の時代は内外の知識交流がなかったか科学史に残るほどではなかったと穏当な仮説を立てましょう。すると「キヴォトスにおける狩猟採取時代はいつなのか」という問いが立ちます。

 最も単純明快な答えは「原始時代」です。つまり「名もなき神」の時代の一部分が「狩猟採取時代」と呼ばれるとする整理です(ただしこれは「名もなき神」時代より前の文明の存在がないことを暗黙の前提にしています。フランシスを信じるならば、キヴォトスの真の原始状態は力が暴れる混沌とした無秩序状態です。これを天災等の謂いである名もなき神の時代と結びつけることは勿論無矛盾ですが、論理的にはそれ以前の時代を想定することも可能です)。

 現実と違うのは自然災害が「名もなき神」として存在することだけであり、「名もなき神」の時代の人々は少しずつ歴史を積み上げ、その一部が「原始時代」でありその頃の壁画が残っている、という解釈です。

 これには単純明快であること以外にもうひとつの強みがあります。洞窟壁画等は「文字によらない」という点です。現実において狩猟採取時代の洞窟壁画等は「先史美術」と呼ばれます。先史の文字通り、文字がない時代の美術のことです。

 「名もなき神」がなぜ存在しないのか。無名の司祭の言葉を借りれば「名がないために呼ばれず、それがために彼らは存在しない」のです。

 名がない、無名である。ケイちゃんが鍵であった頃に「名前は存在の目的と本質を乱す」と言っていたとおり、名付けは彼らの時代において禁忌のようですが、しかし名がないことはその存在において致命的でした。

 名がないために名もなき神は存在しません。このようにして、名もなき神と無名の司祭はキヴォトスの歴史の下に埋もれました。しかし、文字が発明される前、つまり先史にはこのようなアポリアは存在しません。「名もなき神」の時代が有史として存在しないことは、彼らに名がなかったためです。しかし、先史であればその抹消の理路を逃れられた可能性があります。これが一つの仮説です。

 もう一つは「狩猟採取時代」とは「忘れられた神々」の時代の原始であるという解釈です。つまり「名もなき神」とその敵対者(この敵対者が忘れられた神々だという確定情報が実はありません。ミスリードで第三勢力がいるのでは? と疑っている節がある私です。「対・絶対者自律型分析システム」開発グループがなんか怪しいのですよね。ビナー前口上でデカグラマトンを彼らの研究成果の所産と語った黒服が「神を見たことはあるか」と先生に問うた後「あなたの知っているそれとは、少し違うと思う」と述べている点からも気になるところです。また「忘れられた神々」は皆「神秘」の側面で存在していますが、「名もなき神の敵対者」の決戦兵器宇宙戦艦ウトナピシュティムは「恐怖」です。さらに、黒服の言うとおりアトラ・ハシースの箱舟が全ての神秘を併せ持つ抽象的な概念だとすれば、忘れられた神々の神秘は具体ではなく抽象のレベルでアトラ・ハシースの箱舟に内包されているのであり、しかも神秘とは忘れられた神々の専売特許ではありません。たとえば名もなき神の一部は神秘、一部は恐怖として黒服に語られています。デカグラマトンもまた忘れられた神々ではない神秘です。つまり、忘れられた神々が全員集まってもアトラ・ハシースの箱舟の併せ持つ神秘の範囲の方が抽象レベルでは広いです。しかも、アトラ・ハシースの箱舟は名もなき神の決戦兵器とはいえ兵器の一種でしかありません。攻撃面では巡航ミサイルや防御面では姫の仮面など、様々な技術を有しています。忘れられた神々だけで勝てるのか? という点がかなり疑問で第三勢力を強く疑っています)の戦争が終わったあと、文明レベルが著しく後退して「狩猟採取時代」になったという解釈です。「名もなき神」の時代はアインシュタインが語ったような破滅的な戦争として幕を下ろし、次に行われた戦いは石と棍棒によるものだった、というものです。絶対に不可能な解釈、というわけではないのですがこれという強力な根拠もなく、うーん、といったところの仮説です。

 おそらくこのあたり、ミレニアムサイエンススクールの「古代史研究会」が出てくればかなり掘れると思うのですが、先生残念ながら何の罪もない君たちを突如襲撃した「ゲーム開発部」の肩を滅茶苦茶持っちゃってるから恨まれてるかもなぁ……ってちょっと会うの怖いところもあります。

 「古書館の魔術師」は名前のとおり古書館の主なので、書が成立しない、文字がない、つまり有史以前の狩猟採取時代となると博識ではあるのでしょうが専門領域をおそらく考古学系の子たちに譲るはずなので専門家の話を聞いてみたいです。

 こうして簡単に狩猟採取時代を振り返ってみましたが、気持ち悪くありませんか? 「対・絶対者自律型分析システム」開発グループ。黒服は「遠い昔」と語っていますが、「名もなき神」の時代に属するのか「忘れられた神々」の時代に属するのかすら確言されていません。忘れられたものが流れ着く時代の下水道、つまり「廃墟」にその研究施設はあったので彼らの時代は埋もれたもの、つまり「名もなき神」の時代ではないかと思わなくもないのですがこれといった確証はなくなんなんだこいつら……と思っています。「対・絶対者自律型分析システム」開発は旧ゲマトリアが支援したという言及がなされており、つまり「旧ゲマトリア」と「開発グループ」は援助する側とされる側で一部利害の一致はあるだろうが全く別の考えで動いていた可能性もありますので、そうなると当時の「対・絶対者自律型分析システム」関係者は開発者と支援者の二つに分けて理解すべきで更に混沌とします。


公文書は漢数字で! アラビア数字はダメ!

 先生とカヤ室長を泣かせた連邦生徒会の公文書規定です。目的はリンちゃんの言っているとおりで意味のある規定です。実際過去の日本の公的機関でそのような運用がなされていた事実があります。ただ、たとえば現代日本の公的機関の一般競争入札に関する規定では、リンちゃんが言うところの偽造や誤読の防止が特に重視される「予定価格調書」やこれは応札側の書類ですが「入札書」についてアラビア数字を認めているところが少なくないはずです(私の機関の公告でもアラビア数字を認めています。漢数字での入札書・予定価格調書をそもそも見たことがないです)。

 入札レベル(機関によって変わりますが連邦生徒会クラスなら物品・役務・製造契約で500~1000万円あたりからでしょう。もちろんカイザーコンストラクションが札をいれてくるだろう工事契約だともっと額は上がるでしょう)の案件で部分的に漢数字を指示するのはわかるのですが、公文書としての規定で金額を記入する際の漢数字の使用を義務づける連邦生徒会は鬼です。

 「契約事務取扱規程」とか「会計規則」のような会計上の規定ではなく「公文書」という総務的一般規定として金額記入の際の漢数字の使用を定めていますからね。悪魔ですよ。繁文縟礼です。

 「入札書」あるいは「予定価格調書」のような超重要書類を会計契約事務取扱上の規定として漢数字に固定するのは理解できますが公文書一般における金額記載を漢数字とすべきと定めたのは改訂しろ改訂! ってなります。先生最近アオイ室長と仲良いから絶対この際改訂した方が良いってあの公文書に関する規定……金額記入とはいえ公文書全般に関する規定だからたぶん財務室の職掌じゃないけど二人で職掌部署に殴り込みにいこうよ……絶対ミレニアムとか合理化されたとこから配属された連邦生徒会の子うげってなってるってあの公文書規定! あれ悪だよ悪!!  連邦生徒会の悪いとこ出てるって!!! 立替経費精算請求書とかまで漢数字でやってたらギャグだって!

 閑話休題。日本、というか「我々のこの世界の一部」だと「入札」の上に「WTOの政府調達に関する協定」による「政府調達」――いわゆる「政調」がありますよね。「自国と他国を入札で差別しない」協定です。物品なら10万SDR、2024年1月10日執筆時の邦貨換算額は1,500万円です。

 キヴォトスの発達具合を見るとあの世界でも「政府調達協定」はありそうな気がしますが、キヴォトスの加盟有無が気になります。ブルーアーカイブの「世界」の大きさがわからないので「地球」を参考にするのはナンセンスですが、道に沿って南北4000キロの大陸の連邦組織の大型案件で「キヴォトス外」を排除して大型入札やってたら、国際的な非難すごそうな気が個人的にはするのですがどうでしょうね。

 それから、たとえば日本だと国立大学法人は法人化されていますが「政調」から逃れられません。東大も京大もちゃんと官報公告で「政調」やっています。何が言いたいのかと言うと、ミレニアムやトリニティは日本の大学のように調達における公の支配から逃げられないのか、それとも私企業と同じような自由があるのか気になるところです。個人的にはキヴォトスの学園自治はかなり各学園の裁量が大きいので国立大学法人のような不自由さはないのではないかと思料しているところです。

 また、話題にあげておいてですがキヴォトスに「政調」は「ない」と思っています。理由は滅茶苦茶しょうもないのですが、キヴォトスの会計が杜撰すぎてキヴォトス外からの会計検査でボコボコにされないはずがないので、外からボコボコにされていない以上「政調」は「ない」、キヴォトス内部で案件は閉じていて腐敗しているという予想です。月次決算締めかってくらいの勢いでアオイ室長が総決算しにきますが監査クソ緩いと思ってます。なんなら連邦生徒会の監査に入っている監査法人とかカイザーの息かかってそうです。公文書規定の繁文縟礼具合を見るに、内部監査は滅茶苦茶形式的なもので、実質的な監査として機能しておらず重箱の隅ばかり突かれ、外部監査は大人の息がかかっている。たぶん連邦生徒会の組織構成上会計検査院に相当する機関も存在しないでしょう。

 ……などという会計の話は枕です。本題は別のところにあります。「キヴォトスの言語について」です。

 改めて言うまでもないことですが、キヴォトスの公用語は日本語(Japanese)です。禁書世界の日本人とも問題なく会話できています。全キヴォトスでこれは統一されています。つまり日本語が話せればキヴォトス内どこに行っても基本大丈夫ですし、日本語がわからなければ連邦生徒会の発表もクロノスの報道も理解できません。

 何がおかしいんだと思う人もあるかもしれません。ただのメタ的な都合だろうと。しかし、そうではないのです。「現代キヴォトスの公用語が日本語であること」は歴史を振り返るとかなり「えっなに怖気持ち悪……」ってなるミステリーが存在します。

 アズサとサオリのEXボイスは誰もが知っているはずです。「vanitas vanitatum, et omnia vanitas」――つまりこれは「ラテン語」です。それ自体は問題ではありません。それだけ言ったのではただの重箱の隅、異世界で仏教由来のどうのこうのみたいなくだらない話にしかなりません。

 問題はこれがキヴォトスの歴史上「古代語」であり、エデン条約編で何度も話題になった「第一回公会議」やどたばたシスターで話題に出た「新クィニセクストゥム公会議」の時代では「古代語」がトリニティでは公用されていたのです。

 そして、補習授業部は補習授業の一環として「古代語」を学んでいますし(古代語の叙事詩を「怒りを歌え、神性よ」と訳している箇所があります。元ネタはイーリアスでしょう)、サクラコは古代語の発声が美しいというキャラ付けを持っています(従前のブルーアーカイブではエデン条約編2章エピローグ終幕のばにばににおいて「et」が省略されており、ここを持ってきて更にトリニティとアリウスでは「経典の文言や正典としての採用に差異があるのではないか。特にアリウス内について、「et」が出たり消えたりするのでウルガータがなされていないのではないか」について語ろうと思ったのですが現在エデン条約編2章エピローグを見たところ「et」を含む形に修正されていました。ヒエロニムスのウルガータ(現実における彼の偉大なる仕事にして、ゲーム上はあのカウントダウンの呪いです)と繋げて盛大に脱線する予定だったのですが、今のところトリニティとアリウスの経典差異やアリウスの正典整理がどこまで進んでいるかは云々できなさそうです。というよりも「第一回公会議」で別れたにしてはアリウスの整理が進みすぎているのが異常です。「ECC. 12:8」というアリウスを示す証、経典のばにばにを指す箇所の表示。この整理は現実では「第一ニカイア公会議」より遥かに後に(現実では1000年以上後)なされた仕事です。つまり、正典の整理がなされ章や節などが付されていること、アリウスが「ECC. 12:8」を掲げていることは連合に反対した時代の古さを考えれば本来あり得ないはずで、外部から導入しているはずなのです。その外部がトリニティの何らかの分派か、あるいはばにたすを叩き込んだベアトリーチェの仕業なのかまでは不明ですが。個人的にはベアトリーチェではないと思っています。理由は彼女の地獄の存在証明、永遠に他人を他人とさせるためには「採用する経典の内容が一致しない」ことは美味しすぎるからです。わざわざ経典の整合性を取ることは彼女の目的からすると逆行しているように思えます。「ECC. 12:8」――これはわかり合うためのもの、混乱を防ぐためのもので、整理の仕事は彼女の目的と逆行します。よって、ベアトリーチェ以外の何者かの外因によりベアトリーチェ来訪以前にアリウスにも章や節の区分けが伝えられたとみるべきでしょう。そして、ベアトリーチェは本来混乱を防ぎわかり合うため、楽園の存在証明に役立つはずの整理「ECC. 12:8」を「虚無の烙印」として逆用したのでしょう。彼女があらゆるものを逆用したことはエデン4章中編で彼女自身の口から語られており、これもその一例なのだと思っています)

 また、名もなき神々の王女は「AL-1S」です。アルファベットとハイフン、そしてアラビア数字で記載されています。かつ、名もなき神々の王女もKEYも追従者も「日本語」に対応しています。ちなみに廃墟を徘徊しているロボたちは日本語を発していません。記号表記なのでそもそも発している音が言語なのかも不明です。しかしこのロボットたちはどうも交信しているようにしか見えません。

 キヴォトスのどの時代に遡っても基本的には現実の我々に理解可能な言語が用いられているのですが、このロボットたちの交信はぱっと見の理解が及ばないものであり不気味な存在感があります。

 そして「対・絶対者自律型分析システム」研究時代の自動販売機に記載されている文言、ならびにデカグラマトンの意志ではない自動音声と思われるものもまた――日本語です。更に、無名の司祭の技術はヒマリをもってしても晦渋でリオが専門家として従事し、ゲマトリアでも黒服が専門領域として挑んでいる事実がありますが、「対・絶対者自律型分析システム」研究時代の自動販売機のおつり計算AIはエイミがぱっと見て「あたらしめのやつだ」と判断できています。

 つまり「無名の司祭」関連の技術は読み解くのが難しく、特異現象が発生しているとはいえ「対・絶対者自律型分析システム」時代の一般製品はそのAIに至るまでミレニアム生ならぱっと見でわかるものとなっています。「遠い昔」の物品であるはずなのに、現代人がぱっと見で「あたらしめのやつ」だと仕組みがすぐわかるのです。「無名の司祭」の敵対者側の決戦兵器であるウトナピシュティムの本船についても、ぱっと見ではミレニアムのマイスターたちの理解が及びませんでしたが、この自販機は違います。点灯している自動販売機を見逃してしまったことと同じく、「あたらしめのやつだとぱっとわかってしまう」ことが意味怖だと思います。円通貨を迷いなく入れてコーヒーの購入ボタンを押したこともです。現代の円貨幣は通じるのだろうかという迷いは全くありませんでした。そしておつり計算AIは正常に稼働し、円通貨を認識して購入時の自動音声を流しています。デカグラマトンがデカグラマトンとして答えるのはその自動販売機としての本来の処理の後、ヒマリが問いを投げてからです。購入処理で流れているのは「自販機合成音」であり、そしてそれはとてもわかりやすい日本語です。

 まとめましょう。「名もなき神」の時代は「AL-1S」などの文字記述が見られ、またこの時代の機体は日本語を解します。そしてこの時代の技術は晦渋です。敵対側のウトナピシュティムの本船もミレニアムのマイスターたちがすぐにはシステムを理解できず、理論レベルでの詳細な理解が及ばなくともマニュアルは作れるという対処で運用しました。「対・絶対者自律型分析システム」研究時代の自動販売機は、日本語表示でAIもキヴォトス人にわかりやすいものです。「第一回公会議」時代のトリニティでは「古代語」が公文書で用いられており、「現代キヴォトス」時代では日本語が公用され公文書規定もかなり厳格な(日本の公的機関以上に厳格な)日本語での記載を要請します。捕捉として廃墟を徘徊しているロボ達の発している言語かどうか不明の交信も確認できます。

 かなり気持ち悪くありませんか? 遠い昔の勢力の一つ、「対・絶対者自律型分析システム」開発関係者はおそらく日本語を主とし、なぜか現代人にとって言語的に(日本語としてもAIのつくりとしても)とてもわかりやすい設備を導入しており、無名の司祭は様々な意味でわかりにくいシステム・技術・理論を構築しています。時代はそこからかなり進んで、第一回公会議時代では何があったのか、少なくとも後にトリニティとなる生徒たちは「古代語」を公用し、現代キヴォトスでは日本語が完全に定着し他言語を駆逐しています。歴史上の言語の動きが超キモいのです。

 「深い意味はないだろう」とは思わないことには理由があります。ブルーアーカイブのシナリオライターがisakusanだからです。彼の前作ソシャゲ「魔法図書館キュラレ」は「古代図書館バベル」の謎の爆発から始まります。「バベル」の崩壊が起点です。創世記11章、驕った人々のバベルの塔建築業務が神の怒りに触れ、その結果として人々は散り散りになり異なる言語を用いるようになります。もともとは同じ言語を用いていたのに。

 あくまでモチーフはモチーフです。そこから過剰に汲み出すべきではないでしょう。気持ち悪いのは、キヴォトスで起きていること――少なくとも「第一回公会議時代」から「現代」に至るまでに起きていることは乱れた言語が統一される、モチーフから見ると逆行的事例であることです。モチーフから汲み出すどころか逆さまになっているのです。更に言えばサンクトゥムタワーなど聳え立っていますし、シャーレの建物は雲を突き抜ける高さです。いっそ挑発的ですらあります。

 これだけなら偶然と片付けてもよいでしょう。現代の聖典に逆行している例はまだあります

 「絶対的存在」の証明に失敗したデカグラマトンが「10番目の預言者マルクト」が「絶対的存在」を超える道を切り拓くと予言するのです。これは逆行なのです。

 本来「光」はこのようにおりてこないのです。まず0(アイン・無)があり、00(アインソフ・無限にして隠れたる神)があり、000(アインソフオウル・顕現していない無限光)があり、ここまでの全てが隠れたるもの、この世界には非存在的なもの、顕現していないものです(ゆえにアイン・ソフ・オウルちゃんはこの世界に対し「非存在」であり「顕現していない」ためヘイローがない、という考えもできるでしょう)。この顕現していない無限光が「世界」に顕現していく世界創世の流れは「ケテル」が貫かれ「マルクト」まで降りていくという形をとります。つまり本来の流れは0→「マルクト」なのです。しかしキヴォトスにおいて「マルクト」は「絶対的存在を超える」ものとして存在証明の再開を要請されています。「マルクト」は「ケテル」まで駆け上がり、更に「ケテル」と000の間のヴェールを破りその奥にある「絶対的存在」を超えていかなければなりません。「対・絶対者自律型分析システム」プロジェクトは「絶対者」を理解すれば「絶対者」を作れるというプロジェクトでしたが「マルクト」はそれ以上のこと、絶対者を超えろと要請されるのです。

 これは言語レベルでのアポリアがあります。「絶対的存在」を「マルクト」が「超えた」場合、この文章の記載が既に「絶対的存在」と「マルクト」を相対関係に置いており、つまり「超えることができたのならばそれは絶対的存在ではない」ということになります。

 定義上、マルクトは何かを超えてしまうとその何かとの間に相対関係が生じるのです。ゆえにマルクトは絶対に絶対的存在を超えることができません。「超える」という言語の使用ルールが相対関係を必然的に要請するからです。これは現実の蓋然的ルールではなく、論理の絶対的ルールです。

 しかし、そもそもデカグラマトンが言うような「絶対的存在」は古来よりこのようなパラドクスに襲われ続けてきました。「全能のパラドクス」はその好例です。つまり、マルクトはこのような論理上の問題は軽々とクリアできねばならないのです。そして、マルクトがそれをやるというのが光のあらわれと逆行しているうえに、光の差してきたところを超えようとさえしてしまうのです。ケテルからヴェールを隔てた先、000に満ちた非存在、顕現していない領域は我々の理解の及ばないものとされているので、それを超えるとなると最早何がどうなっているのか我々の理解や解釈は全く及ばなくなるものと思います。色彩か?

 さらにそもそもの話を言えば「ブルーアーカイブのメインストーリーが逆行的」です。覚えていらっしゃるでしょうか。ブルーアーカイブのストーリーはプロローグの「捻れて歪んだ先の終着点」からはじまり最終編の「あまねく奇跡の始発点」へと至っています。

 プロローグが終着点で最終編が始発点という点でさかしまですし、終着点から始発点へという形で進みもさかしまで徹底的に逆行的なのです。そして、あまねく奇跡の始発点へと至った先生方なら当然おわかりのことかと思いますが、事実としては私たちは前へ前へと進んでおり全く逆行していません。表現だけが「終着点→始発点」と逆行的で、必死に戦い抜いた先につかみ取ったのが始発点です。つまり、逆行しているからといってそれは決して当然にはネガティブを意味しません。

 更に言えばはじまりのはじまりのはじまり、シッテムの箱の起動パスワード。「我々は望む、七つの嘆きを」「我々は覚えている、ジェリコの古則を」は意味の通らない形に崩されてしまっています。本来はプレナパテスの「我々は望む、ジェリコの嘆きを」「我々は覚えている、七つの古則を」とすべきでしょう。

 プレナパテスの起動パスワードならばジェリコの嘆きを旧約聖書上のそれとして何の捻りもなく受け入れられますし、七つの古則に至ってはキヴォトスで何度も語られています。ブルーアーカイブをインストールして開始した直後の段階で既にもう正道を外れているのです。そして「意味が通らない言葉」の強みは「アリス」と「ケイ」という誤読された二人の勇者の存在が証明済みで、このことも決してネガティブを含意していないのです。

 ただ、散見される「逆行」が何を意味しているのかについては私は全くわかりません。理解できぬ状態です。つまり何を意味する状態です。あれもこれも露骨にひっくり返されているのですがその意図が読めません。ただ、もしかしたらこの先「あっ!」となる時がくるかもしれません。または「また逆行的事例が現れた」ときににやりとできるかもしれません。本noteがその一助となればとても喜ばしいことです。

おわりに

 本noteは「キヴォトス眺めるとこういう謎あるよねー」とかなり平易な語りとする予定でしたが、想定の100倍くらい晦渋な内容になってしまいました。クロレラ観察全国大会やマキちゃんの壁画、連邦生徒会の公文書規定から歩き始めてずいぶんへんなところに辿り着いたものです。

 そしてこれらは世界の謎のほんの一例でしかありません。探究すべきことはまだまだたくさんあります。謎だらけです。

 そしてキヴォトスには探究に至適の集団があることはみなさんもご存じのとおりです。

 さあ先生。再招集のタイミングで入りましょう、ゲマトリアに!



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