見出し画像

振袖火事(その1 全3回)

明暦めいれき3年(1657年)の江戸を大火事にしてしまった明暦の大火にはこんな悲しいお話があったんだって。

ポンと昔。今から400年くらいも前のお話だよ。江戸の上野で神商をしている大増おおます屋というお店があったんだよ。

ある日、このお店の娘さんのおきくさんはね、お花見に出かけたんだ。春に咲くお花を見に大勢の人たちが来ていたんだ。おきくさんは今度はあちらのお花を見ようと歩き始めた時の事だったよ。目の前に優しい目をした若者がおきくさんのことを見つめているのに気が付いたんだ。それはね、寺小姓てらこしょうさんだったよ。寺小姓さんとはねお寺で住持じゅうじさんのそばにいてずっとお手伝いをしている人の事を言うんだよ。この日はお花見でちょっとおひまをもらう時間があったんだね。おきくさんの胸はドキドキとして息もできなくなってしまったんだ。その若者は優しい目をしていたと言うんだよ。来ている着物の模様もようもステキに見えたんだね。しばらくふたりは見つめ合っていたんだけれど大勢の人たちに押されて離れて行ってしまったんだ。おきくさんは急いで振り返ったんだけれどもうそこにはあの寺小姓さんはいなかったんだ。

それからさ、おきくさんは家に戻ってもあの寺小姓さんのことが忘れられなかったんだ。そこで、おきくさんはね寺小姓さんが来ていた着物とおんなじ模様の生地を見つけて来るとその生地で振袖を作ってもらったんだって。振袖ってね若い女の人達が着るお袖の長いお着物のことを言うんだよ。おきくさんはその振袖の模様を見てはあの寺小姓さんの事を思い続けていたんだって。おきくさんはね、だんだんにごはんも食べられなくなってしまったんだ。お父さんもお母さんも心配してねその寺小姓さんをあちこち探したんだけれど見つからなかったんだ。そしてとうとうおきくさんは16歳で亡くなってしまったんだよ。お父さんもお母さんもずっと泣いていたさ。せめてもと言ってね、おきくさんの棺にはその振袖が掛けられて本郷の本妙寺へとほうむられて行ったんだって。

今日はここまで。読んでくれてありがとう!とっても悲しい恋物語だね。なんだか泣けてきちゃったよ。お休み、ポン!

#江戸時代 #明暦の大火 #火の用心

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?