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不可視のマテリアル_vol.3

ムーブメント素材の創出

「眠り」というイメージと、「7日間の夢」をコラージュで表現したものをもとに踊った8つの即興は、映像に記録された。​

この映像からランダムに動きやポーズを切り出したものが、ドラマトゥルクから提示された。これらの動きやポーズを最短距離で繋げた短いフレーズ(振付)を8つ創るように、というのが次のタスクだった。
コラージュを作る際も自分の趣向を排除するために、手元にあった映画情報の冊子からランダムに写真やイラストを7枚ピックアップし、そこから7つの夢を作ったのだが、なぜかトーンが似通ってしまったため、踊りのニュアンスも似たようなものになってしまった。ここでも根強い個人的傾向が表出してきた。「私」というものは、こうやって「私」の前に姿を現す。

他者の視点を通して切り出され、脈略なく記号と化したものからフレーズという流れを創り出すのは、想像以上にハードだったが、私のボキャブラリー(傾向)から離れた奇妙なフレーズができた。

普段、振付を構築していく時、意識的に動くきっかけを設定し、その設定に基づいて身体を動かしてみる。動きは、方向、レベル、スピード、動面、質感などによって、いくらでも変容できる。動きをフレーズに発展させていくために、無数にある選択肢を試していく。そうしていると、無意識下で反応や感覚の連鎖的なものがムーブメントの道筋を示し、身体という乗り物がその道をうまく走行できる瞬間がやってくるのだ。

この時も、記号と記号を繋ぐために意図的に小さな選択肢を増やし、あらゆる道筋を試した。そうしていると、急にトンネルの外に抜け出たように、360度まるっと感覚が膨張したような手応えを感じられるときがやってくる。パズルをはめ込むように、その手応えをつなぎ合わせていく。そうやってフレーズを構築していった。

できあがったフレーズは、一見すると単純な体操のようだったが、そこには明確な道筋があり、一つ一つの動きは厚みをもっていた。ひとつの動きに対して試したアレコレが、たくさんの細かい根を地中に這わせ、広がる枝葉、美しい花、豊かな実りをもたらす太い幹となった。これは、画家や書家が一本の線を引くために向かい合っていることに、似ているのかもしれない。試行錯誤した結果表れた一本の線は、あらゆるイメージを受容する深さがある。

地道な作業を経て、8つのフレーズという変容率の高い素材が用意できた。ここから、本格的な作品クリエーションが始まっていく。


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