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かつての子供たち

コロナ禍でなかなか作品制作のためのフィールドワークが進められなかったが、ワクチン接種も終え、緊急事態宣言も解除されるとのことなので、運河周辺散策に出かけた。


どこかで見たような情景
どこか温かく懐かしい景色
中川運河はデジャブを抱かせる

自分が生まれる以前の時代に懐かしさを感じることもあるように、ノスタルジアはDNAに刻まれた記憶のように個人の記憶を越えた場にも存在する。

中川運河の前身は、上流が笈瀬川、下流が中川という自然の河川だった。名古屋城築城のときには、加藤清正により笈瀬川を使い石垣の材料等が運ばれたといわれている。近代に入り、名古屋の市街地と港を結ぶ水運の軸として整備され、昭和7年に全線利用が可能となり、名古屋の産業の発展を支えた。しかし、昭和40年代に入ると、道路が整備され陸運が進むなど、水運利用は急激に減少した。現在では、アート活動やカヌーなど水上スポーツの場として親しまれている。今後は、都心に残された貴重な水辺空間であることから、快適な親水空間としてより一層の活用も期待されている。
〈名古屋市ホームページより〉

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小栗橋から長良橋にかけては、かつて水運が盛んだった頃の面影が随所に残っている。

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〈左: 旧笹島貨物駅船溜まり方面、右: 松重閘門方面〉
運河沿いには古い倉庫が並び、小栗橋の先で運河は二手に分かれ、左は旧笹島貨物駅の船溜まりへ、もう一方は松重閘門を経て堀川とつながっていた。


「小栗橋」に到着。この近くに、別名小栗街道と呼ばれた鎌倉街道が通っていた事から命名されたそうだ。

橋のたもとには、水運が盛んであった頃の名残で、「運河地蔵尊」が小さな祠に祀られている。最近どこを歩いていても、小さな祠やお地蔵さんに目が留まる。地蔵マニアの友人の影響だ。

祠の中をのぞくと、優しい顔のお地蔵さんが安置されている。この辺りは、水死者が多く、其の霊を慰める為に地元民の浄財により 昭和10年に建立されたものだそうだ。

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祠の脇に川辺に降りていける階段がある。足元に落ちている銀杏の黄色に秋を感じながら、川辺まで降りてみると、釣りをしてる人がいた。

「魚いるんだ…」

遠くから眺めているとその水面は情緒があり、美しいのだけど、近づいて見ると、やっぱり・・・キ・タ・ナ・イ

どんより濁った水は、見えない深みに何かが沈んでいる予感がする。

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小栗橋を渡り、そのまま道なりに進んでいくと、黒塀の立派な建物があり、またもやお地蔵さんに出会ってしまった。お地蔵さんは、穏やかな表情で路地を見守っていた。

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この黒塀の建物、何か歴史的なものなのかな?
早速、Google先生に聞いてみた。

「黒塀の小径」とある。これだ!!

名古屋市のホームページによると、ここは、空襲を免れた黒塀に囲まれた家屋が残るエリアで、名古屋城築城の残石で作られた「子授け地蔵」がある、と記載されていた。

ほほぉ〜

築城の石!と歴史に思いを馳せながら、お地蔵さんをボーっと眺めていたら、「若い人が珍しいね。」と、おばあちゃんが話しかけてきた。
「若くないですよ〜。」という言葉は胸にしまって、「このお地蔵さん、手入れが行き届いてますね。」と言うと、付近の住民で守っているのだという。「ちゃんとしたことは分からないけど、なんでもこのお地蔵さんは、お城の石を使っているらしいよ。」と、少し誇らしげなおばあちゃん。

中川運河のリサーチをしていると伝えると、話し好きのおばあちゃんは、運河の思い出を語ってくれた。

この辺りでは、小さな川がいっぱいあったこと、
運河にポッポ船がたくさん通っていたこと、
子どもがたくさんいたこと…。


ポッポ船・・・
どんな船なのかな。見たことないけど、なぜか言葉の響きが中川運河にしっくりくる感じがした。

おばあちゃんと別れて少し行くと、空き地で草むしりをするおじいちゃんがいた。「こんにちは」と声をかけると、顔を上げ、にこっと笑いかけてくれた。

「ここは自分とは関係ない場所なんだけど、放っておくと草ぼうぼうになるでしょ。だからやってるの。他にやることないしね。俺んとこはあっちね。」と空き地の奥の方を指差した。

この辺の人は、人懐っこいな〜。

おじいちゃんと蚊取り線香を囲むように座り、思い出話に耳を傾けた。

昔から決まった喫茶店に行くこと、
たくさんの船や車が行き交っていたこと、
かつては子供がたくさんいたこと…。


おばあちゃんも子供がたくさんいたと言っていた。

今はなくなってしまった小さな川で遊ぶ子供たち。
かつての子供たちは、今どうしているのだろう…

「子供の情景」は、世界との調和や幸福感のようなものを垣間見せてくれる。心に残る「こどもの情景」は、大人にとっての「原風景」であり、ノスタルジーや喪失感といった心情を思い起こさせるものなのかもしれない。


2021.9.30
中川運河助成ARToC10 採択事業
アート・プロジェクト 「mind scape」article.01
https://www.yokokoike.com/mindscape.html


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