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カザフスタンの少女がBGMに日本のシティポップを流す/亜蘭知子『Midnight Pretenders』


 さきほど(4月23日)、インスタグラムをつらつら見ていましたところ、ディマシュの妹のラウシャンが「弓射」をやっている動画を発見。
 彼女が自分のインスタのストーリーに上げた動画を、ディマシュのファンがリポストしたものでした。
 その3ページ目、ラウシャンが花束を持って鏡の前で自撮りしている動画を見ていると……

 あれっ!?
 日本語が聞こえるぞ???
 しかもメロディ、聴いたことある感じもするぞ???


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 ここで「シティポップ」などのタグで来られた方々に、ちょっと解説。
「ディマシュ」というのは、カザフスタン出身の超天才シンガーである、
ディマシュ・クダイベルゲン(29才)のことです。
 彼の妹さんが「ラウシャン」という名前で、現在医学生かつ首都アスタナにあるレストランのマネージャーをしてます。
 下の動画の2~3ページ目が、そのレストランで撮影されたものです。
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★dimash_latvia_dearsのIG 4月23日付
#Repost #Story @raushan_kudaibergen
(3ページ目でその曲が流れます)


 聞き取れた歌詞を検索すると、出て来たのはこちらでした。

『Midnight Pretenders』 亜蘭知子 1983年


★YouTube動画:『亜蘭知子 浮遊空間 Midnight Pretenders』
 by 亜蘭知子 - トピック 2010/01/09


 ほえー、亜蘭知子だった!
 ファンというわけではなかったけど、変わった苗字なのでよく覚えてたのと、この曲が当時ラジオとかでよく流れてたんじゃないかと思います。
 なんで曲までわりと覚えてるのかな?と思ったら、作曲が「織田哲郎」でした。
 織田哲郎は、今ここでこれを読んでる皆さんがご存じかどうかわかんないけど、日本有数の作曲家です。
 とはいえ、私もそんなに詳しくはなかったので、今、ウィキペディアとか詳しい人のブログとかを読んで来ました🤣
 彼は13~15歳の中学生時代、父親の仕事の関係でロンドンで暮らしていて、そこでディスコに熱中してたんだそうで。
 ってことは1971~73年のロンドン。なるほどねーって感じです。
 代表曲は『いつまでも変わらぬ愛を』(1992)ですが、提供曲の方が有名かもしれません。

 TUBE『シーズン・イン・ザ・サン』(1986)
 B.B.クイーンズ『おどるポンポコリン』(1990)
 中山美穂&WANDS『世界中の誰よりきっと』(1992)
 ZARD『負けないで』(1993/01)、『揺れる想い』(1993/05)
 酒井法子『碧いうさぎ』(1995)
 相川七瀬『夢見る少女じゃいられない』(1995)

 ファンでもないのに、全部、歌えるんだが(笑)


 
 2017年頃、海外で日本のシティ・ポップの大流行がなぜか始まりました。
 竹内まりやの『プラスティック・ラブ』、松原みきの『真夜中のドア』、八神純子の『黄昏のBay City』などがその火付け役のようです。

 シティポップは、1970年代後半から1980年代に流行った、シンガーソングライターによる楽曲群です。昔は「ニューミュージック」でひとくくりにされてたかな。
 テレビでは松田聖子や中森明菜などの女性アイドル、ジャニーズ系列の男性アイドル、バンド系のチェッカーズや安全地帯などが歌謡曲を歌っていた頃です。
 同時期にラジオでは、洋楽、特にアメリカのAORやファンク、モータウン系あたりのサウンドを参考にして作成された、やや大人っぽいシンガーソングライターたちの曲が流れていました。
 私はテレビもラジオもどっちも聴いてたんだけど、松原みきの『真夜中のドア』は、当時妹が買ったLPでよく聴いていました。
 彼女の発声が非常に変わっていて、ちょっと中毒性があったのです。
 織田哲郎の楽曲も、このシティポップに入るだろうと思います。

 該当するアーティストの登場の順番は、

八神純子→竹内まりや→松原みき→矢野顕子→南義孝→稲垣潤一
→大瀧詠一/来生たかお/山下達郎(ここは概ねブレイクした年が1983年)
少し下って、→織田哲郎……

みたいな感じです。それ以前は私がまだ子供で、情報自体を知りませんのでわかりませんですハイ😂

 音楽業界的には、織田哲郎氏が相川七瀬にロック曲を提供したその1995年頃、第2次バンドブームが起こり、これにより歌謡曲がまず衰退します。
 その後シティポップはジャンル的に拡散していき、1991年のバブル崩壊がこのジャンルの全体的な衰退につながっていきました。
 現在はネオ・シティポップとしてまた復活した、っていう感じかな。


 この「シティポップ」は、どの曲も今聴くと、参考にした元の音楽がどこの何だったかを具体的に指摘することが出来そうなほど、欧米のサウンドとよく似ていることです。
 特にアメリカでは現在、これらの曲が「聴いたことがないのに何故か懐かしい」ということで聴かれているそうです。


 個人的にこのジャンルの大きな特徴だと思うのは、アメリカの明るく乾いたハッピーなサウンドのバックトラック(オケ)に、高温多湿な日本に特有らしい「湿った」歌詞が乗っているってことかな。
 サウンドは爽やかで明るくてダンサブルなのに、歌詞を読むとたいてい「不幸な恋愛」や、「こじれた関係性」「郷愁」「切なさ」「抒情」などが非常に遠回しに歌われていて、なんだかもう『万葉集』の昔から、日本人のこの感覚は変わんないんだなというような内容なわけです。

 同じ80年代にアメリカでヒットしていたAOR系の曲は、今の音楽よりももっと情緒的でしたが、日本のシティ・ポップほどの「不幸な感じ」はありませんでした。切ない恋を歌ってても、どこか楽しそうと言うか、楽しんでるというか、それを表現すること自体が楽しいんだろうな、みたいな。
 これはもしかしたら、英語と日本語ではアクセントが違うからかな?という気もします。英語は強弱アクセント、日本語は高低アクセント。なので、英語はリズミックで楽し気に聴こえ、日本語はメロディックでムーディーに聴こえます。

 要するに、かなり高度なテクニックで作られた明るく爽やかなサウンドをバックに、切なく抒情的で遠回しな歌詞を、少し湿っていて情緒的な日本人(東洋人)の歌声で、ムーディーな特徴を持つ日本語と、「語尾にロングトーン満載」なメロディで歌うわけです。
 ロングトーンっていうのは、宮中の「歌会始」で和歌が読み上げられる時に節の最後をすごーく伸ばす、あれです。ロングトーンって実はすごく難しいんですよ、息を伸ばす間にどのような処理を声に施すかで、その歌の良さが決まります。
 そういうような歌の構造が、全体的に良いのかな、と思ったりします。

 また、このジャンルのメロディは、AメロBメロ(ヴァース)とサビ(コーラス)が歌謡曲ほどくっきりとは乖離しておらず、一定のテンションとトーンで終始します。これは聴いていると陶酔するか集中するかになりやすく、BGMには最適なタイプの曲です。
 ディマシュがトルコのDJブラク氏とコラボした『Weekend』みたいに、円環状態に聴こえる感じです。
 なので、学生時代には勉強しててもラジオなどで聴き流していられたわけです。
 歌謡曲だと、サビで盛り上がっちゃって一緒に歌っちゃうのでね🤣


 
 冒頭のラウシャンのストーリー動画でBGMになっていた曲『Midnight Pretenders』は、2022年、カナダの男性シンガーソングライターの「The Weeknd(ウィークエンド)」が発表した『Out of Time』という曲の中でサンプリング使用されたことから、世界に知られるようになったそうです。
 この、eがひとつ足りない「The Weeknd」は、過去のNOTE記事『ディマシュとグラミー賞』の中で、グラミーの「秘密委員会」廃止の原因をもたらした人物として登場していて、個人的に、君、また会ったね状態なのです🤣
 この人の歌声は、けっこう日本の歌謡曲的というか、情緒が強めでわかり易く、他の英米の有名歌手の皆さんより湿ってる感じがあって、そこが良いんじゃないのかなと思います。

★YouTube動画:『The Weeknd - Out of Time (Official Video)』
 by The Weeknd 2022/04/05に公開済み
(バックトラックがとっても『Midnight Pretenders』)




 日本のシティポップが世界中で聞かれていることが判明したのは、新型コロナ・パンデミックが始まった頃でした。
 世界は思っていたより不幸になってしまった、コロナ禍の前は良い時代だった、いつかまたあの頃に戻れるだろうか、いや無理かもしれない、あの頃はもう戻らないのかもしれない。
 そういう諦観と、過去をまぶしく思い出す郷愁の感覚。
 その感覚を、織田哲郎氏が作曲したこの曲のメロディに感じます。
 織田氏には自殺されたという兄がいらっしゃって、ご本人もイギリスから帰国後には「帰国子女」として周囲から孤立したため、自殺を考えたことがあるそうです。
 そういう感情的な体験の名残が、メロディから受ける印象に混ざっているようで、メロディ自体は明るいのに、その名残によって聴き手の記憶に残ってしまうのでしょう。

 ともかくですね、日本の曲がカザフスタンでも聴かれてるんだ、しかも、ディマシュの妹がBGMに使うくらいにはポピュラーなのかなと思って、か~なり嬉しかったので、思わずとりとめのない昔語りをしてしまいました🤣


(おしまい🌷)


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