【童話】クリスマスの朝に
まだ 薄暗い冬の早朝でした。
アランは目が覚めてしまいました。
トイレに行きたくなったからです。
8歳になったので、一人でトイレに行けるようになりました。
「う〜〜寒い」
部屋に戻って、ベットに入ろうとした時、
シャラ シャラ シャラ という音が聞こえて来ました。
窓の外からです。
アランの瞳は輝きました。
それは、車のタイヤに着いたチェーンの音だったのです。
ドキドキしながらカーテンを開けると、辺りは一面の雪景色になっていました。
「やったーー!」
思わず、大きな声を上げてしまい、アランは、慌てて手で口を押さえました。
「パパもママも、まだ眠ってる。よし!」
そう、小声で云うと、アランは静かに玄関のドアを開け、外に出ました。
真っ白な、フカフカの雪です。
「今の内に作ろう。パパとママを驚かすんだ」
そう云って、アランは地面の雪を、手で掴むと、小さな野球のボールくらいの雪の玉を作りました。
その玉を、再び雪の上に置きました。
腰を屈めた、その時、
『やめて!』
白い地面が、そう云ったのです!
「うわぁ!」
アランは、思わず尻もちを 着いてしまいました。
❄️❄️❄️
アランはしばらく、口を開けて、ボーゼンとし、立つことが、出来ませんでした。
数分が経過したとき、ようやく立ち上がりました。
「ボクは、寝ぼけていたんだ。地面が話せるなんて、聞いたことがないもの」
アランはまた、小さな雪の玉を転がそうとしました。
『だから、やめてってば!』
今度は、ハッキリとアランにも聞こえたのです!
『キミ、雪だるまを作ろうとしてるんでしょ』
怒った声で、地面は言いました。
「そ、そうだけど。なんで怒ってるの?」
地面にアランは訊きました。
地面は、深いため息を、ついたようでした。
そして、こう云ったのです。
『僕ら雪は、数日で消えてしまう運命なの知ってるでしょう? 』
アランは、うなずきました。
『だったら、みんな、どうして雪だるまを作るの? 溶けて無くなってしまうのに』
「それは……楽しいからだよ」
『僕らは、子供たちが、泣きそうな顔をするのを見るのが悲しいんだ』
❄️❄️❄️
『あそこを見て。向かいの家の、ガレージを』
アランは、云う通りにガレージを見ました。
そこには、頭が崩れて地面に落ちて、割れてる雪だるまがありました。
「……」
『キミより早く、あの家の子供が、お父さんと一緒に作ったんだ。アレを見て、何も感じないかい?』
「……かわいそうだと思う」
『でしょう? あの家の子は、アレを見たら、もっと悲しむと思うよ』
「でも、作りたいんだ」
『あんな風になっても?』
「うん」
『無くなっちゃうんだよ? 作った雪だるま』
「そうだけど、でも残るもの」
『残る? 何が残るっていうの?』
「それは、ボクの思い出の中に、雪だるまは残るんだ」
『……思い出の中……』
「そうさ、ずっと覚えてるもの」
『溶けてしまっても?』
「うん!」
『壊れて、泥だらけになっちゃても? 』
「最後はやっぱり寂しいけど、でも雪だるまを作ったんだっていうのはボクには嬉しいんだ!」
『ふ〜ん……嬉しいんだ』
「子供たちは、みんな楽しくて、嬉しいんだよ。悲しい顔をしても、楽しかったのは、本当だもの」
❄️❄️❄️
1時間後、あんまり大きくない、雪だるまが完成しました。
アランは、家に入って、キッチンからニンジンを、ママの裁縫箱からボタンを2つ、
そして自分のマフラーを持って、雪だるまのところに戻りました。
そして、顔にボタンの目を、鼻にはニンジンを入れて、最後に首にマフラーを巻きました。
『どんな感じなの?』
雪だるまは、訊きました。
「バッチリだ!キマってる!」
アランの言葉に、雪だるまは嬉しそうです。
「そうだ、記念に写真を撮ろう。待ってて」
そう云って、自分のスマートフォンを持って来て、
「いいかい、撮るよ 」
雪だるまは、少し緊張しています。
パシャ!パシャ!
「うん! よく写ってる」
『ホント? 見せて 見せて』
雪だるまは 興奮気味に云いました。
自分の写真を見て、とても満足そうです。
アランは、しばらく雪だるまと、話しをしました。
雪だるまは、よく喋ります。
2人は、時々、笑いました。
離れたところで、雪かきをしている人は、
首を傾げ、不思議そうに見ています。
❄️❄️❄️
その日は、夕焼けが とびきりキレイな色を届けてくれています。
夜は、パパとママとクリスマスの料理を食べて、アランはプレゼントをもらい、はしゃぎました。
欲しかった、ゲーム機だったのです。
それからシャワーを浴びて、自分の部屋に戻りました。
月と星がよく見える、澄んだ空の夜が訪れました。
アランは、暖かいガウンを羽織って、雪だるまのところへ、おやすみを云いに行くと、少しずつ溶け始めた雪だるまが待っていました。
『アラン、今日はとても楽しかったよ、ありがとう』
「ボクも楽しかった!」
『それに、子供たちが悲しむだけじゃないんだって分かって、嬉しかった』
「うん! そうだよ、雪だるまくん。子供は雪が大好きなんだ。 雪だるまくんを作るのもね。 それじゃあボクは寝るね、おやすみなさい、また明日」
そう云って、アランは家に入って行きました。
雪だるまの下に、ニンジンが落ちました。
続けて、ボタンが1つ、2つ、地面にポト、ポト、と落ちていきます。
最後に残ったマフラーが、ヒラヒラと風になびくと、雪だるまは、アランの部屋に向かって云いました。
『メリークリスマス、アラン』
❄️⛄️❄️⛄️❄️
(おわり)
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