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  窓の……

窓から外を眺めるのが日課だった。幼い頃、両親が共働きだった為、鍵っ子の私は仕事から帰る母を、少し心細い気持ちで窓の外を見つめていた。

日課はやがて習慣になり、高校生になった今でも2階にある自分の部屋の窓から外を眺めている。

時間は昼間から夜になったが。

ただ眺めているわけではない。私は遠くにあるアパートの一室を見ていた。

時間は夜11時過ぎが多い。その時間になるとアパートの住人が帰って来る。真っ暗な部屋に灯りが灯る。

電気には紐がなく、住人が手を伸ばし、電球のスイッチを入れるのだ。

逆光で、黒いシルエットしか見えないが、住人が男性であることは、なんとなくわかる。

細身の長身の男性。

私は灯りがつくと、安心して眠りについた。

その頃、近所では奇妙な事が起きていた。

幼い女の子が誰かに拐われるのだ。だが夕方になると元気に帰って来る。

拐われた女の子によると、公園で遊んでいると、1人の男性に「一緒に遊ぼうか」と話しかけられる。

少しの間、遊ぶと「あっちの公園で遊ぼう」と言われ、手を繋いで移動する。

そしてまた「あそこの公園まで行こうか」と誘われて、気がつくと家から、かなり離れているらしい。

男性はとても優しく、絵本も持ってきているらしい。

女の子が「帰る」と言うと、男性は家の近くまで連れて行き、自分はどこかに行ってしまう。

お母さんたちは不安になった。

いくら帰って来るとはいえ、半日行方不明になるのだ。それで警察に届けを出した。

 すると、この奇妙な出来事は、ピタっと無くなった。

今でも犯人は分からないままだ。

その夜も、私は窓のサッシに頬杖をつき、ボンヤリと外を見ていた。

そろそろアパートの住人が帰る頃だ。

私は視線をアパートに移した。

見ていた!

あの住人が私を見ているのが分かった!

私は怖くなり慌てて窓を閉めた。心臓がバクバクして体が震えてきた。

その夜以来、私は夜になっても窓は開けなかった。

ただ、自分の家の場所を知られてしまったことが怖かった。

最初の頃は、1人で歩くのもビクビクしていたが、月日が経つと徐々に忘れていった。

ある日、学校からの帰り道、小さな女の子たちが、キャッキャッと笑いながら走っているのを見て急にアパートの事を思い出した。

 「今晩、少しだけ見てみよう」

そして11時を過ぎた時、私はそっと窓を開けた。

身を屈めて相手からは見えないようにしながら、ゆっくりと、視線をアパートの方に向けた。

「うそ……」

アパートは無くなっていた。影も形もなかった。

アパートのあった場所は真っ黒な穴のような空間が広がっている。

ほとんど眠れずに夜が明けた。

 朝食を食べながら、私は母に訊いてみた。

「ねえ、お母さん、丘の上にあったアパートを知ってる?」

「アパート?ああ、火事になったあれね。もう何ヶ月も前よ」

「火事?な、何で?何で火事になったの?」

「何でって知らないわよ。ご近所ではないし。ただね……」

 「ただ、何?」

私はゴクリと唾を飲み込み、次の言葉を待った。

 「放火らしいの」

「放火?犯人は、犯人は捕まったの?」

 「たぶん、まだだと思うけど、それより早く食べないと遅刻するわよ」

 その日、1日私は早く帰りたくて仕方がなかった。

ようやく放課後になり、友達には用事があるからと云って私は早足でアパートがあった場所に向かった。

早足はその内、小走になって額からは、汗が流れた。

そしてアパートがあったところに着いた。

何もない。瓦礫1つ落ちてはいなかった。真っさらな地面があるだけだった。

遠くに私の家が見えた。

あの住人も引っ越しただろうな。

その時だ、誰かが私の肩を叩いた。

 咄嗟に「振り向てはいけない!」そう感じた。

理由は分からないが、とにかく後ろを見てはいけないと思った。

するとまた肩を叩かれた。
絵本が少しだけ見えた。

トントン

誰か……

助けて、お願い……

だ、れか

      了








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