おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
不幸にして自社の従業員が精神障害を発症してしまった時、その原因が会社における過重な労働や高いストレスにあれば、労災保険給付の対象となりますし、会社に対して、健康配慮義務違反(労働契約関係から生じる債務の不履行)や注意義務違反(不法行為)を理由とする損害賠償の請求がなされる可能性が出てきます。
もちろん、そのような会社の責任が認められるには、会社の不履行や不法行為と精神障害発症との間に相当因果関係があることが必要です。
では、因果関係がありさえすれば、精神障害の悪化(時には自殺に至ることも・・・)について、会社は常に100パーセントの責任を負うのでしょうか。
過失相殺が認められた裁判例
労働者が自殺した事案で、遺族がその労働者の健康状態を会社に告知していなかった点が労働者側の過失ではないかが争われたものがあります(みくまの農協(新宮農協)事件(和歌山地方裁判所平成14年2月19日判決))。
この件で、和歌山地方裁判所は、以下のように述べて、労働者側に7割の過失を認めました(太字部分は私が強調しました)。
過失相殺が認められなかった裁判例
労働者側の事情による過失相殺を認めなかった裁判例もあります(東芝(うつ病・解雇)事件(最高裁判所第二小法廷平成26年3月24日判決))。
この事件では、労働者が過重な業務によって鬱病を発症し増悪させたとして使用者の安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償を請求したのに対し、会社側が当該労働者が自らの精神的健康に関する情報を申告しなかったとして過失相殺を主張しました。
最高裁判所は、以下のように述べて、会社側のこの主張を認めませんでした。
過失相殺が認められないのは・・・
これらの裁判例を見ると、会社において、業務軽減などの措置をとることが可能だったかどうか、という点で過失相殺の可否が判断されているようです。
従業員側(遺族も含む)から具体的な病状についての申告があろうとなかろうと、過重な業務による体調不良を訴えられていたならば、会社は業務を軽減するなどの措置をとれたはずであり、そのような措置をとらないことについて、会社に全面的な責任があるということです。
そもそも、従業員に対して過重な業務を課して放置していること自体、精神疾患を発症してしまう重大な危険行為である、ということを認識しないといけないということですね。
精神疾患を発症したことについては、なかなか他人には言えませんし、特に雇用主に対しては言いにくいものであることを十分考慮に入れ、雇用主の側から積極的に行き届いた配慮をすることが大切です。