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歩合給の割増賃金

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 大阪は、緊急事態宣言が出てから人出が激減し、タクシーのお客さんも激減しているそうです。

 いつも伊丹空港で客待ちをしているという運転手さんは、普段は2時間くらいで乗ってもらえるのに、緊急事態宣言後は3時間かかった、と言っていました(普段でも2時間は待っているというのもびっくりでしたが)。

 タクシー運転手は歩合のところが多いので、きっと生活にも影響が出ていることでしょう。

 緊急事態宣言は、様々な方面への影響が大きいですね・・・

 今日は、タクシー運転手の歩合給の割増賃金の計算方法について問題となった裁判例を紹介します。

割増賃金の計算方法(基本)

 基本的な割増賃金の計算方法は、労働基準法等に定められています。

 その計算の基礎となる賃金に、家族手当、通勤手当その他省令で定める賃金が算入されないことも労働基準法で定められています。

 詳しくは、私の過去のnoteにも書いているので探してみてください。

法定の方法じゃなくてもOK

 割増賃金は、結果的に法律で定められた最低限の金額が支払われていればいいので、法律で決められた方法で計算する必要はありません。

 割増賃金の計算の基礎に算入するべき賃金を除外していても割増率を高く設定していれば、割増賃金の額が法所定の計算による割増賃金の額以上の額となる可能性もあり、そうであればそのような計算方法も可能です(昭24・1・28基収3947号)。

 また、いちいち計算するのが手間、ということで一定額の手当を支払っておられる会社もありますが、法所定の方法で計算してみた時にその金額を下回っていなければ適法です(ということは、結局、法で決められた方法で計算してみないといけないので、計算の手間は省けませんね・・・)。

 法定の方法で計算しない場合であっても、法定の方法での計算ができることが大前提ですから、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金相当部分とが区別できることが必要です。

歩合給から割増賃金相当額を控除した上、割増賃金は法定基準を満たして支払う方法

 歩合給の割増賃金については、割増賃金込みの歩合給の適法性が争われた裁判例を2021年7月1日のnoteで紹介しました。

 今日は、歩合給を割増賃金相当額を控除した額として算定しつつ、割増賃金を別途法律の基準を満たして支払うこととされている制度の適法性が争われた裁判例(国際自動車事件(最高裁判所第三小法廷平成29年2月28日判決))を紹介します。

 原審である東京高等裁判所は、このような制度は、割増賃金相当額が増えると歩合給が減ることになって、労働基準法の割増賃金規定の趣旨に反するので公序良俗違反だとしました。

 これに対して最高裁は、原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、下記の点について審理を尽くさなかった違法があるとして、原審に破棄差戻しをしました。

・・・使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり・・・,上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。
 他方において,労働基準法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると,労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に,当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効であると解することはできないというべきである。

 これを受け、差戻審(東京高等裁判所平成30年2月15日判決)は、以下の理由で本件の制度は有効であると判断しました。

・・・本件賃金規則では,乗務員に支給される賃金は,基本給,(乗務しなかった場合の)服務手当,交通費,歩合給及び割増金によって構成され,このうちの割増金は,深夜手当,残業手当及び公出手当(法定外休日労働分及び法定休日労働分)をその内容とし,歩合給は,毎月の揚高を基礎として算出される成果主義的な報酬である歩合給(1)と,賞与の廃止に伴い,これに替わるものとして定められた歩合給(2)があり,これらの計算方法は,本件賃金規則で定める前掲の計算式が示すとおりである。そして,以上の賃金のうちで,基本給,服務手当及び歩合給の部分が,通常の労働時間の賃金に当たる部分となり,割増金を構成する深夜手当,残業手当及び公出手当が,法37条の定める割増賃金に当たる部分(ただし,残業手当の対象となる法内時間外労働の部分と,公出手当の対象となる法定外休日労働の部分は,法37条の定める割増賃金には当たらない。)に該当することになる。
 したがって,本件賃金規則においては,通常の労働時間の賃金に当たる部分と法37条の定める割増賃金に当たる部分とが明確に区分されて定められているということができる。
・・・法37条1項に定める通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額について,規則19条1項6号は,出来高払制その他請負制によって定められた賃金については,その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における,総労働時間数で徐した金額とする旨を定めている(また,法37条1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令は,時間外労働につき2割5分,休日労働につき3割5分と定める。)。そして,本件賃金規則において,上記の「賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額」に該当するのは,歩合給(1)となる。他方で,本件賃金規則では,割増賃金を構成する残業手当,深夜手当及び公出手当について,その歩合給に相当する部分の算定方法としては,対象額A(歩合給(1)の算定過程で控除される割増金の控除前の金額)を総労働時間で除し,これに0.25残業手当,深夜手当及び公出手当のうち法定外休日労働分)又は0.35(公出手当のうち法定休日労働分)を乗じた金額に該当する労働時間を乗ずる旨を定めている。そうすると,本件賃金規則では,割増賃金として支払われる金額は,賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額(歩合給(1))ではなく,割増金を控除する前の対象額Aを計算の基礎とするから,それを控除した後の歩合給(1)に相当する部分の金額を基礎として算定する法37条等に定められた割増賃金の額を常に下回ることがないということができる。

 これに対して、差戻後上告審である最高裁判所第二小法廷令和2年3月30日判決は、以下の理由により、控除された割増金は割増賃金に当たらず、通常の労働時間の賃金に当たるものとして、労働基準法37条等に定められた方法により上告人らに支払われるべき割増賃金の額を算定すべきであるとして原判決を破棄し、被上告人が上告人らに対して支払うべき未払賃金の額等について更に審理を尽くさせる必要があるとして再度本件を原審に差し戻しました。

・・・本件賃金規則の定める上記の仕組みは,その実質において,出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を,時間外労働等がある場合には,その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものというべきである(このことは,歩合給対応部分の割増金のほか,同じく対象額Aから控除される基本給対応部分の割増金についても同様である。)。そうすると,本件賃金規則における割増金は,その一部に時間外労働等に対する対価として支払われるものが含まれているとしても,通常の労働時間の賃金である歩合給(1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。そして,割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから,本件賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる。
 したがって,被上告人の上告人らに対する割増金の支払により,労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない。

二度の破棄差戻しを受けて

 2回もやり直しを命じられるなんて・・・

 この最高裁の判決後に、大阪高等裁判所で出された判決がありますので、明日は、その判決を紹介しようと思います。

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