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遅刻や欠勤を繰り返す従業員

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 若かったころは、寒い季節になると受験に遅刻してしまう夢を良くみていました(ちなみに、5月には、「短答式試験が明日なのに何も準備できていない!」という夢を毎年のように見ていました)。

 遅刻することや欠席することは、それだけで受験資格を失ったり、回答できる数が減って点数が下がったりするので、受験生にとっては致命的なのです。

 では、会社だとどうでしょうか。
 遅刻や欠勤をすれば、それだけで従業員としての地位を失うのでしょうか。
 反対に、使用者は、遅刻や欠勤を理由に従業員を解雇することはできるのでしょうか。 
 たった1回の遅刻や欠勤で即時解雇することができないのは、なんとなく感覚でおわかりだと思います。
 では、いったい何回遅刻や欠勤すれば解雇できるのでしょうか。
 そもそも、遅刻や欠勤という理由で解雇することができるのでしょうか。

高知放送事件(最高裁判所第二小法廷昭和52年1月31日判決)

 この裁判で問題となったのは、高知放送局のアナウンサーが、宿直勤務に従事した翌朝寝坊し、午前6時からのラジオニュースを放送できなかったという事故を2回起こしたためにされた普通解雇処分の有効性です。

 ただし、このアナウンサーは、単に寝坊しただけでなく、2回目の放送事故については、上司に事故報告をせず、後に事故を知った部長から事故報告書の提出を求められたため、事実と異なる事故報告書を提出する、という少々悪質なことをしていました。

 会社は、このような行為は懲戒事由に該当するものの、再就職など将来のことを考慮して普通解雇処分としました。

 最高裁は、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる」とした上で、以下の事情を比較衡量して、「被上告人に対し解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある」とし、本件の普通解雇処分は無効であるとしました。

A 解雇を有効に向かわせる事情
① 被上告人の起こした第1、第2事故は、定時放送を使命とする上告会社の対外的信用を著しく失墜するものである。
② 被上告人が寝過しという同一態様に基づき特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠ける。
③ 第2事故直後においては卒直に自己の非を認めなかった。

B 解雇を無効に向かわせる事情
① 本件事故は、いずれも被上告人の寝過しという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではない。
② 通常は、ファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ、本件第1、第2事故ともファックス担当者においても寝過し、定時に被上告人を起こしてニュース原稿を手交しなかったのであり、事故発生につき被上告人のみを責めるのは酷である。
③ 被上告人は、第1事故については直ちに謝罪し、第2事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力した。
④ 第1、第2事故とも寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえない。
⑤上告会社において早期のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかった。
⑥事実と異なる事故報告書を提出した点についても、一階通路ドアの開閉状況に被上告人の誤解があり、また短期間内に二度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、右の点を強く責めることはできない。
⑦ 被上告人はこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くない。
⑧ 第2事故のファックス担当者山崎はけん責処分に処せられたにすぎない。
⑨ 上告会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかった。
⑩ 第2事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明している。

神田運送事件(東京地方裁判所昭和50年9月11日決定)

 1年間に27日欠勤し、99日は遅刻早退をした従業員に対する解雇処分の有効性が争われた裁判です。

 このケースでは、裁判所は、会社が当該従業員に対して、欠勤や遅刻についてけん責、出勤停止、減給等の処分をして警告したことがなく、反省の機会を与えないまました解雇処分は無効であると判断しました。

結局会社はどう対処すればいい?

 これらの裁判例を踏まえると、遅刻欠勤を重ねている従業員がいるときでも、いきなり解雇処分を下すことは適当ではない、ということになります。

 遅刻や欠勤の理由や悪質性(高知放送事件B①から③)、業務に与えた影響(高知放送事件B④)、会社の体制(高知放送事件B⑤)、当該従業員の反省の有無・程度(高知放送事件B⑥・⑩)、従前の勤務態度(高知放送事件B⑦)、同種事案における処分との均衡・従前の会社での取扱い(高知放送事件B⑧・⑨)等を総合的に検討して、解雇相当かどうかを判断することが必要です。

 遅刻や欠勤を何回すれば解雇できる、という明確な答えはなく、これらの様々な事情を踏まえて検討することが求められるのです。

 また、解雇処分を下すに先だっては、個々の遅刻や欠勤の度に適切な指導や処分をして、本人の反省の機会を確保しておくことが必要です。
 単に、遅刻や欠勤を重ねているからという理由だけで解雇処分を下すと無効とされる危険性が高いです。遅刻や欠勤をしないように適切に指導したにもかかわらず、反省することなく正当な理由もなく遅刻・欠勤を繰り返した、という事実が必要です。

 なお、後に裁判になった時に耐えうるように、都度の指導や処分は書面やメールでも行い、そのコピー等を保管しておくことが大切です。

 

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