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孤独と自由と。行き当たりばったり“ひとり旅”の効能

毎年、出張で訪れる熊本。今年はそこに休暇をつけての滞在。休暇分の予定は熊本在住の友人に投げっぱなし。「天草に行く」。互いに意思を明確にやりとりしたのはそれだけ。落ち合うはずだった日の朝、互いのメールがすれ違う。あれっ?

気がつけば、ひとり旅

結論から言えば、単純に私の日程連絡ミス。1日、落ち合う日がズレていた。さぁ、今日1日、どうしたものか。今日、泊まる宿がない。向かうべき場所がない。でも、これだけは言える。

私は自由だ笑‼︎

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まず、作戦を立てるべく熊本市現代美術館からほど近い大きなアーケード商店街の中にある、お気に入りの喫茶 中川へ。

基本的に24時間営業。観光客はほとんどおらず、いつも常連さんがゆったりとすごしているのが特徴的な喫茶店だ。私はいつも日中早め時間の利用なので、夜はまるで違う雰囲気になっているのだろうけれど。

昨年に続き、店内には小田和正の歌声が響く。この日、いつものマスターはカウンターに立っておらず若い男の子がひとり。この店はBGMをオフコース、あるいは小田和正と決めているのだろうか。

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ピーナツバタートーストセットには山盛りキャベツのサラダが。店内で作られる自家製ドレッシングで。たまに、ミキサーでドレッシングを攪拌している音が響く。

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こちらのピーナツバターには塩気がある。それが私好み。甘みは別添えのハチミツをお好みで。珈琲がひと段落する頃、梅昆布茶が供される。塩けと甘みの無限スパイラル。何時間でもいれてしまうではないか。地階にあるものだから光の変化もなく、時間感覚を逸しやすい。

ひとしきりボーッとした後にハッとする。

今日はどこで何をしよう

足がないと不便だとは知りつつ天気があまりに良かったので、熊本市内でもう一泊する選択肢は捨てる。明日には熊本市内で落ち合える友人を待たず一足先に天草へ。

そう決めたところで、さてと、宿探し。宿は海が見えることとバス停から自力で歩ける距離であること。さらに、ひとり部屋利用が可能なこと。さしあたっての条件は以上の3つ。運良く1軒、ヒット。無事にオンラインにて予約。

熊本から天草をつなぐバスの出発地点でもある桜町バスターミナルへ。

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途中、この日落ち合うはずだった友達が経営するお店の前を通る。常連さんも多いが、最近はインバウンドの旅行者がよく果物を買うのだそう。

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翌日から始まる祭りアイランドの準備中の風景にたまたま出会う。九州地方の祭りがダイジェストで楽しめるPRイベント。同じエリアでは、ラグビーW杯の日本戦のパブリックビューイングもあり、この週末はかなりの大賑わいだったそう(あの日本がアイルランドに歴史的大金星をあげた日)。

急ぐ必要がない目的地

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バスターミナルは、できたばかり商業施設SAKURA MACHI Kumamotoの地階にある。熊本市内、県内だけではなく、県外へのバスの発着点となっている巨大ターミナル。ちなみに、この施設の中に熊本城ホールができる予定。そのこけらおとしは山下達郎に決まったそう。県民優先予約もあるらしいが、大激戦になっていると友人は嘆いている。

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バスに乗り込む。座席で電源が取れる。長距離バスはこれが普通?  有り難く携帯を充電する。

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バスから見えたUVカットされたガラス窓越しの風景も黄みがかっていて、今、そこにある風景だということが俄かに信じられない。干潟は夕暮れ時や朝焼け時が幻想的でさぞかしキレイなのだろう。

熊本からたった3人しかいない乗客を乗せたバス。私はどこに向かっているのだろうか。なぜか異邦人気分に。

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熊本〜天草。バス所要時間は約2時間30分。ウトウトしつつ、夢うつつのまま窓の流れる風景を見ていたら、あっという間に着いた(A列車での移動も勧められたが、それは次の機会に)。

夏は終わらない

終点を待たず、標識だけが立っている国道添いのバス停で下車。

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東京には秋の気配が漂っていたが、天草はまだまだ夏の名残りの空気が濃い。

バス停から宿まで約15分。汗だくになりながら海沿いを歩く。予約した海沿いの宿。かなり古い建物だったが、海沿いすぎるほど海沿いに宿は建っていたので(笑)ヨシとする。部屋は二階。海面が近いため、窓を開けたら穏やかにさざめく波音も近い。

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1階にあった宿の大浴場はさらに海面が近い。湯船には海水を沸かした湯がはられている。磯の香りがする。湯沸かし器のメンテナンスが大変そうだと無粋なことを考える。この夏は海に浸かれなかったから、なんだか嬉しい。窓の外を漁船が横切る。おそらく女性客は私ひとり。窓際を長い時間ひとり占めする。

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夕食は地元の方々が集う定食屋へ。焼き魚定食を頼んだら、大きなカマの塩焼きが登場。たしか800円。ひとり、地味に感動しながら味わう。

部屋に戻りゆっくり読書するはずが入眠。電話が鳴り「朝食の時間だよ」と起こされる。気がつけば10時間くらい寝ていた。さすがに驚く。

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顔を洗って食堂へ。宿の方たちと同じ食卓を囲み、同じメニューをいただく。横ではテレビを見続ける宿の少年。ずっと怒られ続けていたが、なんのその。子供の頃の夏休みを思い出す。うだるような暑さの中、扇風機にあたりながら畳の上でゴロゴロしているだけの夏。

ひとり旅の効能

チェックアウトし、散歩がてら、今日こそ落ち合えるはずの友人を待つための喫茶店を探す。歩けども歩けども、そんなものが見当たらない笑。

くじけそうになった時やっと現れたのが、レストラン ハニー。南国にあるダイナーはいいなぁ、といつも思う。漂う空気がなぜかとても大らで、広い太平洋の匂いをまとう。

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読書しながら、友人の到着を待つ。ランチタイムに近づくにつれ、どんどん賑わっていく。「これ以上の長居はお店に悪いな」と思い始めた頃、友人が車で到着。

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ヒョンなことから、ひとり旅となった1泊2日。ケセラセラ。しばらくこんな時間をおざなりにしていた自分に気づく。

東京で働く自分が当たり前なのか、海をひとりボーっと眺めるだけの自分が当たり前なのか。“当たり前”が入れ替わる感覚が面白い。自分がしたいことだけで埋め尽くされる時間は、日常の「こうすべき」「こうあるべき」から解放され、「こうありたい」と思うシンプルな自分を思い出すことができる。

計画性のある旅は、予測できうる限りの安全と効率を考える。一方、ひとり旅は誰に忖度することもなく“行き当たりばったりの放浪”が可能になる。誰の正解に寄り添う必要もないから、「あーすればよかった、こーすればよかった」と考える必要もない。あるのは驚きや意外性。あらかじめ予想できることより、不確かではあるけれどあらゆることにアクセス可能な状態の無限の広がり。

意味などない。ただ、そうしたいだけ。そんなふうに振る舞うことをしばらく忘れていたのかもしれない。とにもかくにも、最近、なんだか私は窮屈だったのだ。

大きく伸びをして、友達の車に乗り込む。




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