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これは、“あなた”の物語! ミシェル・オバマ回想録『マイ・ストーリー』

ファーストレディ。

(なりたくてもなれるものではないけれど)なりたくてなったわけでもないひとりの女性が、たくさんの立場や経験を通し、“自分になっていく=becoming(原題)”プロセスを丁寧に描いた物語。それが世界中で   の大ベストセラーとなり、遂に先頃、日本でも発売された『マイ・ストーリー』だ。


「BECOMING」は日本語になりうるか?

この一冊を通し、ミシェルは「自分は特別な存在じゃなく、私たちとなんらかわらない普通のひとりの人間であること」を幾度となく強調する。育児のこと。夫婦のこと。家族のこと。介護のこと。キャリアのこと。差別のこと、格差のこと……読み進めると、私たちが人生でぶちあたる諸問題と(もちろん、彼女にしか体験し得ないファーストレディな壁もあるし、ことの大小や巻き込む人々の数に違いはあれど!)ミシェルのそれらはたしかになんらかわりがない。

発売後の評判を聞きすぐに読みたかったが語学力(原文を軽妙に楽しめない語学力を今更のように悔やむ!)がおぼつかないので、日本版の発売を待った。手に取った瞬間「厚い!」と思ったけれど(約580ページ)、とりわけ前半は青春物語やラブストーリーかのように軽やかに話が進むため、そのままの勢いで、(途中、感極まりながらも苦笑)一気に読んでしまった。

辞典で調べると。

【becoming】相応しい。なりつつある。なる……etc.

意訳するなら。

【becoming】自分にふさわしい、なりたい自分になる

人は言葉でのみ概念を認識できる。新しい概念が生まれれば、言葉は必要となり、言葉が必ず生まれるということだ。

『マイ・ストーリー』という邦題がついたが、もし、今、日本の中にミシェル言うところの『becoming』の概念が根付いていたのなら、そのまま『becoming』というタイトルで出版されたのかもしれない、とふと思った。

日本語は外来語を会話や文章に取り入れやすい言語と言われている(たとえば中国語ではそれはありえないとロシア語通訳でありエッセイストの米原万理さんが著書に書いていて、外国語を操れない私は「ほぅ」と思ったっけ)。「私たちは何者で、どうありたいのか?」ということに自覚的になれば『becoming』という概念が生まれる。その概念を必要とする人が増えることで、それを共有する言葉が必要となり、『becoming』が日本語として定着する。そして、私たちの意識の中により浸透する。

他人軸より自分軸で。そう語られるようになってきた日本社会だが、この概念を表す端的な言葉を必要とする時代はくるだろうか。

ミシェルの目指す「BICOMING MORE」

アイデンティティ - 「私になる」 。 目標を達成し、それから「あなたがどこから来たのか、そしてどこへ行きたいのかをあなたと一緒にすることの普遍的な挑戦」として表現したものを引き受けることから生まれました。
58歳で自分たちの生活が最も有意義だと感じた人たちは、ミシェル・オバマ氏が著書で詳述した道をたどりました。 彼らは自分自身を創造し、この自己を他の人と深く共有し、彼らが他人の幸福を促進するために自分自身を提供することによって「BECOMING MORE=もっとなる」ことができることを発見しました。

全米での発売時に書かれたフィールディング大学院大学の心理学教授Ruthellen Josselson氏の記事。本を一読した後に読み返すとかなり深く実感できる部分が多い。

「現状把握」の次は「一歩前へ」

平凡な主人公に、まわりの知人女性が乗り移るという症状が起こる。その奇妙な症状を精神科医に話していくスタイルで小説は進んでいき、小説の主人公になりえることがなかったであろう平凡とされている女性たちの日常があぶり出されていきます。男女の賃金格差の統計などの実際の数字も多く盛り込まれ、社会学の文献を読んでいるような気分にも!?  フィクションとノンフィクションを行き来しながら、「韓国の現在」を体験できる一冊です。

話は少し変わるが、少し前に、韓国でベストセラーになった『82年生まれ、キム・ジヨン』が、韓国と状況が似ている日本でも好調な売れ行きを続けていると聞く。「わかる、わかる!」という共感や「私たち、本当につらいよね!」という共闘意識が日本でも伝播しているのだと思う。この著書で自分たちの現状を把握したら、次は『マイ・ストーリー』を読んで一歩前へ! それぞれが発売された順番も含め、この2冊が日本で生み落とされたタイミングは絶妙だな、と思っている。

まとめ

最後にミシェルの言葉を。

私にとって、何かになるということ(becoming)は、どこかにたどりつくことでも、目標を達成することでもない。それは前進する行為であり、進化の手段であり、よりよい自分になろうと歩みつづけることだ。

特別だと思っていた『ミシェルの物語』は『私の物語』だと気づく。そして、『BECOMING』しようとする、それぞれの『私』と『私』が絡み合っていくことで、『私たちの物語』へと発展を遂げる。

補足

ミシェルを育んだロビンソン家の教育術、オバマ氏とミシェル氏のラブストーリーとしてやオバマ家の家庭運営テクニック集、ファーストレディのお仕事全集……当時のミッシェルの心情や出来事が赤裸裸に書かれているのでどの角度から読んでもおもしろいです! 

↓いろいろの方の感想が読めます。





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