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開いている、と聞いた(千字戦②)
がん、がん、がん。
雷鳴のような音が店の正面から響き渡った。何者かがシャッターを叩いている。
鳴るはずのない音だった。壁掛け時計の短針はすでに午前零時を通過している。閉店時間はとうに過ぎていた。
黄川田はレジの奥に突っ込んでいた手を引っ込め、消灯した店内を見渡す。
大小さまざまな酒瓶が、コンビニ風の狭い空間に何百と並び、その表面に何百もの小男の顔をおぼろげに浮かび上がらせている。自分の顔
モールへ、光(千字戦①)
そのショッピングモールはどこからも遠い場所にあり、買い物客の来訪をみずから拒んでいるようだった。
最寄り駅から徒歩30分かかり、二番目に近い駅から徒歩50分かかる。バスはない。周囲にある国道から流れ込んでくる乗用車のみに門戸を開く、直方体の堅牢な砦。
私はそのモールで、ある映画が見たかった。なんの映画だったかは重要ではない。見てどうなるわけでもない。それでも、私はそのモールで、ある映画が見た