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今宵この曲、フォックスチェイス

Fox Chase、フォックスチェイスとは、17世紀に英国で行われていたキツネ狩りのことである。
貴族などのお偉方が猟犬でキツネを追い立てて遊ぶ遊猟、いや狩猟。
その狩猟に下働きとして使われていたのが、奴隷貿易でアフリカから連れてこられた黒人だった。
馬に乗った貴族たちが猟犬に掛け声で指示を出し、キツネを追い立てる。
その様子を黒人がハーモニカで模した。
それが「フォックスチェイス」である。
戦前のいろいろなハーモニカプレイヤーが演奏しているようであった。

私がレコードで聴いたのは、40年以上前だろう。
そのハーモニカプレイヤーは、デフォード・ベイリー。
軽快でリズミカルで、すぐに気に入った。
しかし首を傾げた。
「それで、この掛け声は誰が出しているのだろう?」と。
つまり、二人組の演奏だと思ったのだ。
ハープ奏者と合いの手を入れる人の。
ロバート・ジョンソンを初めて聴いたキース・リチャーズが、「で、もう一人のギターは誰なんだい?」と言ったらしいが、それと同じ疑問だと思う。
そしていろいろと調べ、キースと同じように私は驚いた。
なんと、ひとりで演奏しているのである。

つまりハーモニカで音を出しながら、発声もしている。
そんなの物理的に無理だろ、と私は混乱したものだ。
息継ぎする間がないのだから。
でも吹けるようになりたい。フォックスチェイスを。
そこから私の、長い長い旅が始まった。

今はよい時代で、私が初めて聴いた音源の動画を見つけることができた。
デフォード・ベイリーのフォックスチェイスである。
これをレコードで聴いたのだ、もう一人いると思うのが普通だろう。

どうしたらこのように吹けるのだろう……。
それからは試行錯誤の繰り返しだった。
師匠もいないし、いたとしてもハープを教わるのは難しいのだ。
ギターのように見て学ぶことができない。
息遣いや舌の動きなど、曲を聴いて想像するしかないのである。
ともかく自己流で数年、いや十年は試した。

するとある日、私のハーモニカから、それっぽい音が出た。
けれどこれをリズミカルに、しかも連続して出せなければ。
とにかく私は練習を重ねた。そこから何年も。
私流のフォックスチェイスを作りたかったのである。

そうして自分なりにアレンジを加え、こんな感じかな、と思える演奏ができるようになった。
初めて聴いた時から数十年が経っていた。

それで試しにコンテストに出て吹くと、賞を貰ってしまった。
その時の審査員の、今は亡き妹尾隆一郎氏から、「君は今までどこにいたんだ?」と言われたのが、とても嬉しかった。

ということで、次の「すべてのブルースにブルースを 4」で、拙い演奏ですが披露いたします。


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