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第4章 開業前の具体的な準備と知識武装

「月商100万円は、通過点」
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ポイントを絞って経営と営業のスキルを身に付けること

さて、ここからは開業までにすべきことを中心に解説します。すでに開業している方は、この章に書いてあることをできる限り早く実践してください。多くの行政書士が、十分な準備をせずに開業して後悔しています。もちろん完璧な準備はありえませんが、できる限りの準備はしておきましょう。

まずは経営、営業の勉強は絶対に開業前に行っておくべきです。「開業してから同時に経営を勉強する」というのでは遅すぎます。これは車の運転方法を知らないのに、「運転しながら操作方法を学ぶ」のと同じことです。ビジネスを学ぶということは極めて重要なのです。

何をどう学べばいいのかというと、もちろん理論からすべて学ぶのがベストです。そうはいっても、すべてを短期間で学ぶことは不可能です。特に行政書士を目指すような人には真面目な方が多いので、「経営を学ぶ必要がある」と聞くと、隅から隅まで学ぼうとする傾向にあります。

そうではなく、行政書士事務所として年商1000万円を目標にするなら、高度な経営理論までは必要ありません。ポイントだけおさえておけばいいのです。

そこで、行政書士事務所の経営に必要な経営と営業のエッセンスを解説します。「ひとり事務所」として必要なことはそれほど多くありません。では、具体的に解説していきましょう。

行政書士にとって必要な「最適営業」を身に付ける

「経営とはなんぞや?」と大上段に構えずに、「大胆にシンプルに考える」ようにしてください。実際、行政書士事務所を経営することは、それほど難しいことではありません。

行政書士にとって必要な経営の知識とは、次の3つです。

 ①行政書士としてのあなたをひとりでも多くの人に知ってもらうこと
 ②行政書士として探された場合、見付けられるようにしておくこと
 ③依頼があった場合に、きちんと成約を取ること

たったこの3つなのです。ですから、あなたがこれから最低限、行政書士として成功するために必要なことは、次の3点になります。

 ①一人でも多くの人に会う
 ②ホームページを作成して、ネット広告を打つ
 ③商談のコミュニケーション能力を上げる

本書ではこの3つの方法をまとめて、「最適営業」と呼びます。

チラシ、ダイレクトメール、小冊子など、さまざまな営業方法がありますが、行政書士として生計を立て、売上を1000万円にまで伸ばすには、この3つを実践するだけで十分です。ほかの営業方法もありますが、優先順位は低くして問題ありません。

なぜ、こう断定できるのか。それは、行政書士の仕事は突発的に起きるからです。

行政書士の仕事は、お客様が必要としたときに発生します。必要がなければ依頼しません。「相続の手続きが必要になった」「建設業の許可を新しく取りたい」などと必要に迫られたときに。その仕事ができる人を探して依頼します。このときお客様は、身近な知り合いに頼む(または紹介してもらう)か、インターネットで自ら探すかの2つの方法にほぼ集約されます。

例えば、集合住宅などにポスティングをして、「たまたまタイミングが合った」ということで仕事がくることはありますが、確率としてはとても低く、砂漠で一粒のダイヤを探すような確率です。

それよりは「いざという時に頼める人」になるということがポイントになってきます。そのため、会ったことのない人よりは会ったことがある人に相談するのが自然ですし、またそういった専門家を探すのにインターネットを使うことは当たり前になっているのです。

「こういった専門的な仕事は、身近な人に頼むはずだ」と考えた私は、開業1年目、1000名以上の方にお会いしました。最初の1年は散々な結果でしたが、2年目は400万円の売上、3年目は1000万円に届く勢いにまで売上を伸ばすことができました。

2年目の400万円は、厳密に言えばセミナーや教材販売などいろいろなことを試しだした年でもありますので、すべてそうだとは言えませんが、行政書士の仕事については、ほぼ人に会うだけで取った仕事です。言い換えれば、「人に会えば会うだけ仕事がきます」。

シンプルな法則なのですが、面倒だからとやらない方が圧倒的に多いのが現実です。ですから、やった人が勝つのです。

そして、インターネットの併用です。当時、東京都の調布市というところで仕事をしていたのですが、「調布市 行政書士」のキーワードで検索すると、誰も出てきません。つまり、ライバルがゼロだったのです。そこで、ホームページを作成し、「調布市」のキーワードに検索がヒットするようなつくりにすることで、行政書士業務を獲得していきました。

自分の人脈に該当する人がいない場合、ネットで探します。そして、近い人を探すものです。ですから、お客様の「探す」という行為にマッチするように、ホームページをつくっていく必要があります。

最後に、商談です。前述のとおり行政書士の仕事は面談を通じて始まることがほとんどです。相談からお客様の悩みを浮き彫りにして、解決策を提供する。いわばコンサルティング能力ともいうべき、「コミュニケーション能力」が重要です。お客様にわかりやすく説明をする、お客様の話をしっかりと聞く、お客様から依頼の成約を取るといったコミュニケーション能力を磨いていく必要があります。

主要広告媒体のメリットとデメリットを把握する

他の開業本や一般的な営業の本なども市販されているので、ここでは行政書士に応用する場合の注意点について、解説しておきます。

○ポスティング、チラシ配り
近隣の集合住宅などにチラシをポスティングする、あるいはオフィス街にポスティングをする。仕事がくる可能性はゼロではありませんが、行政書士という突発的な仕事の場合、よほど良いタイミングでポスティングされない限り、仕事がくることはありません。逆に言えば、多数仕事がくる可能性もありますが、ある程度の部数、そして継続が必要です。費用対効果から考えると、優先順位は決して高くないといえます。

私自身は、東京の調布駅から府中駅に向けて集合住宅や民家にポスティングをしたことがありますが、効果はゼロでした。今思えばとんでもない距離を歩いてポスティングしたと思いますが、効果は高いといえません。
○小冊子
小冊子ビジネスに関するノウハウも多いので、小冊子をつくる行政書士がいます。しかし、これも費用と効果を考えると、優先順位は低いといえます。

小冊子のメリットは、お客様に手渡しできるプレゼントになることと、捨てにくいので保管してもらえることでしょうか。しかし、たくさん配ればそれだけ仕事がくるものではありません。何もやらないよりは、手渡しできる小冊子は印象がいいのですが、印刷する手間や費用を考えると、初期の段階ではあえて採用しなくてもいい営業ツールといえます。

ただし、事務所が軌道に乗り、ある程度の予算が組めるのであれば、小冊子をある程度大量に配るのは有効と言えます。その場合、単に業務の解説ではなく、お客様に役立つ内容、自分自身のストーリー、お客様の声、業務の問い合わせ方法・依頼方法などを掲載しておくと良いでしょう。

私自身、セミナーで100冊以上の小冊子を配ったことがありますが、そこから仕事につながったのは2件程度です。その2件も、小冊子を入り口にして、私のメールマガジンやブログなどを見てもらってから依頼が来たので、小冊子が決め手だったとは断言できません。
○広告
新聞広告やタウン誌の広告などは、やってみる価値はあります。というのも、地域ごと・媒体ごとで反応が違うからです。ただし、開業初期にお金がない場合は、若干優先順位が落ちます。それよりは人に会いに行く方が、将来的には仕事がくる確率は高いからです。

もし、あなたが広告を出す場合には、一定の期間を試してみてください。例えば、新聞に1日だけ載せても効果は薄いといえます。ある程度の期間(1か月~2か月は最低)は掲載し、反応がなければストップする。反応があり、広告費よりも報酬が上回った場合には継続すると良いでしょう。

過去、私はタウン誌広告を行ったことがあります。地域限定のタウン誌でしたが、創刊間もないということもあって、毎月10件以上の問い合わせがありました。「10人未満の小さな会社の経理を安く代行します。今すぐお電話を」というものでしたが、想像以上にタウン誌を見ていた人が多かったと言えます。

広告は、出して反応を見るまでわかりません。「タウン誌広告は当たらないよ」とアドバイスする方もいらっしゃると思いますが、反応がないのは媒体が悪かったのか時期が悪かったのか、コピーが悪かったのか、原因がわからない場合は鵜呑みにすべきではありません。やってみて、反応がなかったら辞めればいいだけですので、試してみましょう。

広告出稿のポイントは、コピーです。詳細は専門書に譲るとして、「誰に」「どんなサービスを」「お客様にどんなメリットがあるのか」「自分の信頼性を表す情報」「お客様にしてほしいアクション」くらいは掲載したいところです。ただ単に業務を羅列しただけでは、お客様は反応できません。「10人未満の小さな会社の経理を安く代行します。今すぐお電話を」というくらいは掲載したいものです。
○飛び込み営業
この営業ほど私がノイローゼになった営業はありません。飛び込み営業は、向き不向きがある上に、行政書士の仕事を取るには馴染みません。私は自分の事務所の近隣100件ほど飛び込み営業をしましたが、成果はゼロでした。

そもそも行政書士の仕事は、突発的に必要に迫られて仕事を頼むというもので、無理矢理に売るものではありません。ですから、飛び込んで「行政書士さんが来るの待ってたの!」というケースは極めてゼロに近いでしょう。お金がかからないというメリットもありますが、飛び込み営業はお勧めできません。

ただし、「飛び込みあいさつ」程度でしたら効果が期待できることもあります。1分程度、あいさつだけして変える。何かプレゼント(前述の小冊子など)があるとなお良いでしょう。

ただし、これも配ったからといって、すぐ仕事がくる、というわけではなく、行政書士の仕事を取るという点では即効性に欠けます。何より私は玄関口で追い払われ、罵倒されるのに耐えられなかったので、今後飛び込み営業は二度としないと心に誓いました。
○ダイレクトメール
ダイレクトメールが一般的なのは、税理士業界です。新しくつくられた会社(新設法人と呼びます)の名簿を集め、「税理士はお決まりですか?」と投函するお馴染みのパターン。これはニーズが合致しているので、効果が見込めます。

しかしながら、行政書士の仕事をプッシュするのは馴染みません。ダイレクトメールで「相続でお困りではありませんか?」と通知が来ても、まったく困ってなければ、ゴミ箱に捨てるだけです。

しかし、一点反応が取れる業務ジャンルとしては「融資」があります。お金の悩みがない経営者の方が少ないと言えるほど、お金は企業経営にとって重要なテーマです。ですから、融資の無料相談などをダイレクトメールでプッシュするのが良いでしょう。

私の場合、開業当時は本当に資金がなかったので、このダイレクトメールには手を出していません。どちらかというと、このダイレクトメールという手法はプッシュする手法なので、本書後半に出てくるセミナーの告知などに適していると言えます。
○ニュースレター
ニュースレターとは、事務所発行の独自新聞のようなもの。最近ではすっかり一般的になりました。「対面営業が出来ない人は、ニュースレターを使いなさい」という指南は世の中にたくさんあります。

ニュースレターを使えば、お客様が集まり、紹介も増える。これはある意味事実です。

しかし、何度もお伝えしているように、行政書士の仕事は突発的に必要に迫られてお願いする仕事。ニュースレターを出せば出すだけ仕事が極端に増えるか? というとそうではありません。一度お会いした人に「時々思い出してもらう」というツールとしては最適です。年に2回~4回程度出すだけでも、思い出して何かのときに仕事をお願いして下さるケースはあります。実践優先順位はほかのものに比べ、若干高いと言えます。お会いした人に、お客様のお役に立つ情報、自分の個人的な情報などを送ることによって、仕事が口コミで増えるケースはあります。

ニュースレターを行う場合には、あまりお金をかけずにやることが重要です。紙媒体でなく、メールでも構いません。「時々思い出してもらうこと」が重要です。

今はもう開催していないのですが、過去私はパートナーの税理士と異業種交流会を行っていました。異業種交流会のご案内も含めて、月に一度メールで私信のようなメールをお送りしていました。そこから広がった仕事はひとつふたつではなく、継続していくことで仕事は増えていきます。
○メールマガジン
「メルマガを出そう」と記述している開業本も多々あります。メルマガは効果があるのか?

結論から言えば、効果はあります。ただし、セミナーや教材販売など、こちら側から仕掛ける商品を持っている場合に限ります。これもプッシュする営業に向かない行政書士では、使い方を誤ると時間の無駄になってしまいます。

メルマガを始める場合、やってはいけないのが「手続きの解説」をするメルマガです。なぜ、この手続きの解説をしてしまうことがダメなのか。一見お客様の役に立ち、喜ばれそうです。

しかし、手続きの解説を知りたいお客様は、「手続きを自分でしたい人」なのです。例えば、私は2003年に「誰でもできる会社設立」という手続きの解説メルマガを発行していました。読者数は500名ほど。しかしこのメルマガ、仕事の依頼は皆無で「書類のチェックをお願いしたい」「この手続きの場合、どうしたらいいのですか?」という質問ばかりで、まったく業務には結びつきませんでした。徐々に発行するのに疲れ、結局は1年ほどで廃刊となってしまいました。

行政書士の業務を取る、ということに関してはこのメルマガも優先順位は低いと言えます。それよりは本書推奨の最適営業をまずは実践してください。

以上の営業手法は、本書が示す営業手法を実践してからでも遅くはありません。本書では人に会う営業、ホームページからの集客、プラスアルファとしてのソーシャルメディア活用を解説します。具体的な解説は5章以降に譲りますが、余裕が出てきた場合などは、取り組んでみると良いでしょう。

「実務知識」を身に付ける3つの方法

さて、行政書士事務所経営のルールをできるだけわかりやすく解説してきました。売上1000万円までの事業規模であれば、この考えに則って仕事をしていけば維持できるでしょう。

しかし、組織を大きくし、事業化を考えてく上ではより深い知識が求められます。日々ビジネスを実践しながら、もっと大きな目標を目指す場合には、貪欲に自己投資していきましょう。

行政書士には「調査能力」「宿題能力」が重要ですが、実務の知識があるに越したことはありません。しかし、全部を抑えるのは難しいもの。では、一体どのように学べば良いのでしょうか。

答えは、「広く浅く」学ぶということです。例えば、「建設業なら500万円以上の工事には許可が必要」、「NPO法人なら10名以上の理事が必要」など、許可や設立要件についてのみ、広く浅く知っておけばいいのです。なぜなら、お客様に対面で聞かれる相談の多くが、「概略」を求めているからです。

「今度会社をつくりたいんだけど、資本金とか役員はどうすればいいのですか?」と聞かれたら、「今は資本金はいくらでも大丈夫です。役員もひとりで大丈夫です」とだけ答えられれば十分です。細かく印鑑証明書が何通いるかなどは、具体的な依頼になってから調べればいいのです。

このように概略だけ答えられるようになれば、お客様には「信頼できる人」として写ります。ですから、浅く広く、行政書士の業務に関する知識を身につけていけば十分です。

具体的には専門書というより、もう少しライトな感じのビジネス実用書を数冊読破します。専門書は専門家が読んでも一読ではわからないものも多いことと、法律に関するビジネス実用書などが多く出版されているので、そういったビジネス実用書のほうを読んでおくと良いでしょう。

そしてここまでは「本の知識レベル」です。行政書士として成功するなら、もうワンランク上の知識を入れておきたいものです。それが「実務知識」と呼ばれるもので、具体的な書類の作成方法を身に付けます。そのためには3つの方法があります。

1つ目の方法は、行政書士会の研修を受講することです。行政書士会に登録すると、毎月行政書士会から会報が届きます。この会報に研修の案内が載っていますので、その研修に参加して実務知識を得ること。これがひとつ目です。行政書士会の研修はとても充実しているので、受講して損することはありません。行政書士登録をしたらじっくりと研修を受けてから開業する、というのもひとつの方法です。行政書士登録=開業しなければならないということではありません。事実、開店休業状態の人も現実にはいるわけで、家計に余裕がある人は、じっくり研修を受けてから開業するのもひとつの手です。

2つ目の方法は、役所から「手続きをするための手引書」などをもらってきて、それを参考に書類を試作してみることです。

そもそも、各種の手続きは企業が自ら行うことが前提となっています(この手続きが大変なために、行政書士が求められているのです)。そのため、各役所には「手続きの手引き」が必ず置いてあります。これをもらってきましょう。

なお、都道府県ごとに無料であったり有料であったりしますので、各関係役所に問い合わせてください。そして手引きを集めながら、役所の位置を押さえておくのです。役所の位置をある程度把握していることも、行政書士として信頼を得る方法のひとつです。

そして、最後の3つ目の方法ですが、これは「実物を見る」ことです。例えば、建設業の許可では、誰でも副本を見ることができます。実際に自分の目で実物の書類を見て、どのような書類なのかを確認するのです。これがもっともリアルに感じられる方法です。すべての書類に対応できるわけではありませんので限界はありますが、やはり実物を見ることは一番の勉強になります。

ちなみに、イレギュラーな方法として、自分の手続きを自分でやってみるという方法があります。例えば、実際に融資を受けるための手続きをしたり、自分の会社を設立したり、知り合いや自分宛に内容証明郵便を出してみたりなどです。実際に自分自身で体験することは。やはりとても勉強になります。

この方法もすべての業務に使えるわけではありませんので、「○○するつもり」で書類を作成してみるのもひとつの方法です。

最低限知っておきたい「会社」の仕組み

業務に関連する基本的な内容の実用書を読んでおけば、それだけでもかなりの範囲を押さえられると思います。もちろん、それが全てではありませんので、役所の手引きなどと合わせて、普段から少しずつ業務知識を増やすようにしてください。

ここで紹介しておきたい1冊の書籍があります。それが『誰も教えなかった登記簿』(総合法令)という本です。この本のタイトルにある「登記簿」を知ることが、行政書士という専門家の第一歩になると、私は考えています。
 なぜなら、「会社の仕組み」を知らないと、手続きはできないからです。そして、その会社の仕組みの基本となるのが「登記簿」なのです。登記簿の知識は、行政書士として活動する上で絶対に必要な知識なので、ここで解説をしておきます。

登記簿とは、簡単にいってしまえば会社版の「戸籍」です。つまり、会社の情報が掲載されています。この登記簿は、個人の戸籍と違い、誰でも見ることができます。つまり、あなたが私の会社「株式会社パワーコンテンツジャパン」の情報(会社の名称、住所、資本金、事業目的など)を手に入れることができるのです。

会社は、法務局に登記することで成立します。そうすることで登記簿に記載され、会社として成立します。この知識を知らないと、他の許認可でも困ってしまいます。

事例で学んでみましょう。ある不動産屋さんが、「今度引っ越すことになったんだけど、何か手続きが要る?」と聞かれました。どうしたらいいでしょうか?

回答は、まずは会社の変更登記をすることになります。住所を変更する「本店移転変更登記」というものです。この登記をすることによって、登記簿上の住所が変更されます。その次に不動産の免許である「宅建杲の変更届」を提出することになります。

このように、会社実務の中心になるのは登記なのです。その登記に変更が生じたので、免許や許可も変更しなければならないのです。

さらに会社の登記に変更が出た場合、税務関係や社会保険関係の変更手続きも必要になります。税務署や社会保険事務所などへ、変更の届出を出します。会社と許認可、届け出はこのような仕組みになっているのです。

登記を中心にして、許認可や届出の手続きが発生してくるのです。そのため、登記簿の仕組みがどうなっているかを知っておくことが重要なのです。本来、行政書士試験の試験科目にしてもらいたいくらいの知識ですが、これを知っておくと今後の事務所運営などもスムーズにいくでしょう。

ちなみに、この事例は私が最初に受けた許認可の仕事です。この仕事を受けることによって会社の仕組みを知ることができました。最初はわかりにくいかもしれませんが、体験することでわかってくるようになるでしょう。

独立オフィスにするのは、スタッフを採用するとき

結論から言えば、場所による影響度は低いといえます。なぜなら、あなたにどうしても依頼したいと思ったら、お客様はそれほど事務所の場所を気にしないからです。

実際に、私は東京都調布市の木造アパートで開業しました。東京ではありますが、23区ではないので都内よりも「地名ブランド」は落ちます。それでも私を気に入ってくれて仕事を依頼して下さる方は、「調布市だから断る」ということはありませんでした。お客様をお招きできない自宅兼事務所であるならば、お客様のところに出向けばいいだけの話です。

実際に「お客様の指定してくださった場所に行きます」というのは与える印象がいいものです。なかには、「どうしても伺いたい」というお客様もいらっしゃいますが、その場合は「お迎えできる応接スペースがまだないので、ぜひ○○さんのお近くまで行かせてください」とお伝えすればいいでしょう。

では、いつ独立事務所にすればいいのかというと、スタッフを採用する段階で十分でしょう。最初から巨額の設備投資をすることはありません。最初にお金を投資して、背水の陣で臨むという方法もありますが、経営の経験がない場合はあまり賢明な選択とはいえません。

私自身、自宅から独立オフィスに切り替えたのが、2006年の4月、開業から2年半ほど経ってからです。2006年の4月に初めてスタッフを採用し、そのときにオフィスを構えました。

その間、本を出版したり、上場企業で講演をさせていただいたり、雑誌に掲載させていただいたりしましたが、独立したオフィスを持つ必要がなかったので、自宅兼事務所のまま仕事をしていました。何度も出てくる6畳一間のアパートです。

特に行政書士の開業が初めての起業の場合、見栄を張ることはありません。着実にステップアップし、最後に理想的な状況を作り出せば十分なのです。

業務ソフトは業務に応じて導入すればいい

業務ソフトを導入するかどうかも、開業当初に頭を悩ます問題です。なぜなら、行政書士の会報などで紹介される業務ソフトは、比較的高額だからです。

しかも、どの仕事がどれだけ取れるかは、正直やってみないとわかりません。

ですから、最初から全てそろえる必要はないでしょう。

もちろんサイトでの営業戦略や自分の仕事の絞り込み方によって、ある程度必要な業務ソフトが見えているのであれば、最低限のものは揃えるべきですが、それ以外は業務を受けながら、必要に応じて購入していけば問題ありません。

ただし、会社設立手続きの「電子定款」のような、お客様にとって明らかにメリットがあるものは、その業務を取り扱うならば導入しておきたいものです。電子定款であれば、収入印紙代が4万円安くなるというメリットがあります。そのため、こういったソフトなどは準備しておくと良いでしょう。

私も最初のうちはお金がなく、業務ソフトは買えませんでした。そのため、最初の頃の許認可は手書きで行うこともありました。お客様には「許認可をきちんと取ること」と「少し安くすること」で納得していただいていましたが、書類は行政書士の「商品」です。できるだけ見栄えも良くするようにしましょう。

「備品」をおざなりにしない

ここでは、もう少し事務的な準備について解説します。まず備品です。

最低限用意しておきたいものとしては、名刺、事務所案内、パソコン、プリンタ、電話、FAX、携帯電話などです。

名刺ですが、営業ツールとして極めて重要なものです。名刺は絶対に手を抜かずに作り込んでください。

次に事務所案内。これも作成されない方が多いのですが、普通の会社は必ず持っています。ですから、この事務所案内も必ず作ってください。具体的な解説はのちほど行います。

そして、パソコンやプリンタ、電話とFAXの4つは必須です。特に自宅兼事務所の場合は、家の電話とは別回線を必ず引いてください。

あなたのご両親やお子様が電話に出て、行政書士事務所でない対応をしてしまうと、お客様を逃してしまいます。ですから、自宅兼事務所の場合、別回線は必須です。

そして、FAXもできれば電話と回線を分けてください。行政書士の取り扱う建設業や運輸業などは、まだまだFAXを活用する業界ですから、FAXも別回線にしてください。そして細かいですが、FAXのコール数はゼロに設定すること。FAXを何度もコールする意味はありません。細かいことでもお客様のことを考えて設定してください。

最後に携帯電話です。これは通話に強い機種を選びましょう。行政書士の仕事は突発的にやってきます。そのため、携帯電話にはできるだけ出ることがとても重要です。最初のうちは名刺にも携帯電話の番号を記載し、お客様からの連絡にはすぐに対応できるようにしておきましょう。

また、ひとり事務所ではじめる場合、事務所にかかってきた電話に出られないことがあります。その場合、秘書代行サービスなどを勧めている開業本もありますが、それよりも転送サービスのほうがいいでしょう。最初の電話にあなたが出ることが、仕事を取る最大のポイントです。何度もわざわざかけ直してくれるお客様はそうはいらっしゃいません。チャンスはすぐに逃げてしまいます。ですから、常にいつでも電話を取れる状態でいましょう。

請求書と領収書をきちんと用意する

請求書、領収書などは行政書士会が発行しているものがあります。最初のうちはそれを使用しても構いませんが、特に請求書、領収証などはこれを使わなければいけない、というルールはありません。私は最初のうちは規定のものを使っていましたが、カーボン用紙なのに加え、B5サイズだったので、途中から模倣して自作のものをつくりました。請求書も領収証もビジネス上では必ず必要になるものですので、求められた場合にしっかりしたものを出せるようにしましょう。

※掲載されている内容は、作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、書籍販売当時のまま掲載しています。

本書「行列のできる行政書士事務所の作り方」は、当初「Marketing Grip」と改題し、POWERCONTENTSPUBLISHINGより加筆編集の上再出版される予定でしたが、現在の刊行が未定となったため、現在は横須賀輝尚オンラインサロン四谷会議でその改変原稿を読むことが可能になっております。

四谷会議:横須賀輝尚"無料"オンラインサロン

四谷会議は横須賀輝尚が考えていることの公開と実践と結果、検証、問題勃発などを一番近くで見られるところです。リアルタイムの舞台裏とでもいいましょうか。そのうえで考える力を身に付けてもらえるよう、毎日記事を投稿しています。コンセプトはGet "Think more."です。


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