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【教科書掲載】柴田三吉「春―イラクの少女シャミラに」から、本当の反戦詩について考えた。

 高校の国語(文学国語)の教科書に、柴田三吉さんの詩「春―イラクの少女シャミラに」が載っています(第一学習社『高等学校 文学国語』)。

 2022年スタートの新学習指導要領からできた科目「文学国語」(必修ではなく、選択科目)の教科書です。

▼こちらの「学習メモ」から全文読めます。


 柴田さんの詩は、反戦の詩であっても、相手を怒らないし、憎まないし、決して強い言葉は使いません。

 この、「春―イラクの少女シャミラに」もそうです。ヤマモモ(この記事のサムネ参照)という優しくかわいいモチーフと、腕も家族も失くした少女シャミラとの対比が、読む人の胸を締め付けます。

 反戦の詩において、ひどい、むごい、恐ろしい描写を用いて、強い感情を起こさせて、「だから戦争はしてはいけない」と思わせることは、実はそれほど難しくはないと思います。でもそういう詩が、実際に戦争を抑止する行動力につながるかどうかは、少し微妙だと思っています。なぜなら、戦争がひどいもの・悲しいものということは、もうすでに多くの人が知っている(わかっている)からです。戦前の日本人の中にも、「戦争は恐ろしい」「してはいけない」とわかっている人はたくさんいました。しかし結局、戦争になってしまったし、戦争を止められませんでした。どうしてそのようなことになったのか、その部分まで考えないでただ戦争のむごさを訴えるだけの詩は、私は「本当の反戦詩」とは言えないように思うのです。

 単に過去を振り返って戦争のひどさを伝えるだけではなく、そのもう一歩先、「では今、私たちはどうしたらいいのか?」というところまで、じわじわと読む人の思考を開拓する詩。平和への行動を常にとり続けていく思考のベースを、その人の中に育てる詩。私はそのような詩が「本当の反戦詩」だと思います。

 そういう意味で柴田三吉さんの詩は、「本当の反戦詩」であると思います。「春ーイラクの少女シャミラに」一編だけではなく、ぜひ柴田さんの詩集を読んでいただいて、多角的な視点を受け取っていただきたいです。


 私は柴田三吉さんの詩を読むと、いつも、対立する構造の外側を強く意識させられます。

…私たちに、争う理由などあるのだろうか?
(例えば、ウクライナが可哀そうで、ロシアは憎いのか? そう思ってしまったら、自らも戦争を煽った・戦争の構図に乗ったと同じではないだろうか?)

…争う理由などないとわかっていても、なぜ戦争は起こるのだろうか?
(目先の利益や便利の裏に、何があり、誰がいるのだろうか? 自分の無思考な行動が、まわりまわって戦争の加担になっていないだろうか?)

…そんなことを考えたくなります。
柴田さんの詩に、そういうことが具体的に書いてあるわけではないですけどね。


 そんな柴田三吉さんの名作詩集を、以下に3冊をご紹介します。


(1)『さかさの木』(壺井繫治賞、日本詩人クラブ新人賞受賞)
▼高校生が読むなら、これが一番いいかも。


(2)『旅の文法』(小熊秀雄賞)
▼福島、沖縄、アジアから、争う意味を考える。



(3)『ティダのしおり』
▼沖縄、福島、その他戦跡の地。これらに共通する根を考える。

ぜひご一読を!

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