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続・シン・イルミネーション探訪

この間、シン・イルミネーション探訪というnoteを書いた。そこでの主眼は星空にあったが、そんなの書くなら最先端の街中のイルミネーションのこともちゃんと知っておかないとねと思ったので六本木・けやき坂まで見に行くことにした。場所が場所なだけに、きっとそれなりの予算が投じられた最新のイルミネーションになっているはずという期待をもって。こちらの紹介サイトでは関東のイルミネーションでアクセス数ランキング3位とのこと。

※いつもタイミングが悪くて申し訳ないですが、12/25で今年のイベントは終了しています

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現地到着は23時前と遅めの時間だったがそれなりの人数が集まっていた。この手の場所ではつい自分も写真家みたいに誰も映らない定番のアングルで映える写真を撮ろうとするが、結局こういう人で賑わってる様子だとかを記録しておくのが一番身の丈に合うというかいい思い出になるというか、見てその時の空気をよく思い出せる気がする。とはいえ今日はイルミネーションを知るためにいろいろやってみた。

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さきほどの六本木ヒルズ横の車道をまたぐ部分からの写真。ちょうど正面に東京タワーが見え、誰がやっても素敵に映るすばらしいロケーションである。イルミネーションに照らされる黄葉もまた美しい。横向きで、ソフトフィルターというのをつけて撮ってみたのが次の写真。

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ソフトフィルターには星のようにシャープな光源をふわっとぼかす効果がある。星にピントを完璧に合わせて撮ると、明るい星も暗めの星も点状に写り明るさの違いがわかりにくくなる。ソフトフィルターを使って星空を撮ると星々の明るさの違いがふわっとする効果によって明るい部分の面積の違いに変換されて肉眼で見たときの印象に近づく(と私は理解している)。例えば以下の2枚で、どちらがソフトフィルターあり/なしで撮ったものかわかるだろうか。上級者は写っている星座もあててみてほしい。

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どちらもハワイ島のすばる望遠鏡(1枚めの右側にはケック望遠鏡も)を写したものだ。画角等の条件も違うかもしれないので公平な比較ではないかもしれないが、ある程度星座がわかる自分でも1枚めに写る星座の同定にはしばらくかかった(ヒントは北向きであること)。一方2枚めはどうだろう。ハワイで撮っているので日本で見る星空に詳しい人からすると逆に違和感があるかもしれないが、左手に有名な夏の星座が写っている。

答えは1枚めがソフトフィルターなし、2枚めがソフトフィルターありである。1枚めはすばる望遠鏡の左ちょい上にある明るめの星が北極星で、そこから左上にこぐま座が伸びている。あとはザコ星座ばかりなので余計難しかったかもしれない。右上の明るい星はデネブ。2枚めは左側にさそり座が縦に走り、しっぽのあたりを天の川の中心部が横切っている。濃い塵の帯の形までよくわかる、さすがのハワイ島の星空である。さそり座がけっこう縦だし右側にあるのは日本からほぼ見えないケンタウルス座なので、日本の星空に詳しい人は逆に頭を悩ませてしまったかもしれない。望遠鏡から出ているレーザービームにはちゃんと天文学的意義があるのだが、それはまた別の機会にお話しようと思う。

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さて、話をイルミネーションに戻して今度はクロスフィルターというもので撮ってみた。クロスフィルターの効果は明るいもののまわりに十字の光条ができるというもの。華やかでとてもよいのだが、ちょっとこれはゴテゴテしすぎかもしれない。クロス効果弱めのフィルターも発売されているので、その道の人(?)ならイルミにはそちらを使うのだろうか。十字に出るはずの光条が、画面端のほうでは90度ではなくなっているところがおもしろい。レンズの収差の影響だろうか。以下にもうひとつキラキラな写真を置いておく。右側のビルに反射してキラキラ二倍。さらにおまけでクロスフィルターで撮った天の川もあげちゃおう。

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さきほどソフトフィルターで明るさの違いがわかりやすくなると書いたが、もっとわかりやすくするにはピンぼけで撮るのがいい。

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こうして見るとイルミネーションにも多少明るさにばらつきがあるように見える。前の記事では光源の明るさが画一的なところがキミの限界なのだと言ってしまった手前でこれはどういうことなのか、近づいてよく見てみる。

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やはり光源は同じものが連なっているように見える。よく見てほしいのだが、光源のLEDには実はかなりの指向性がある。真正面から見ると明るく、側面から見るとちょっと暗い。裏から見ればもちろん直接光は見えない。さきほど遠くから見て明るさが違うように見えたのはこの見込む角度の違いによるのだろうと私は結論した。大学の天文部でプラネタリウムを作っていたとき、スクリーン内の夕焼けを再現する光を単純にLEDで作ろうとしたところ、この指向性問題のためにふわっとドームを照らすことができずうまくいかなかったのでよくわかる。逆に、光源のカバーを砕いたり削ったり向きをばらばらに配置したりして指向性を利用すれば同じ光源でも多少は明るさに差をつけられる。とはいえ現状のLEDでは夜空の星々ほどの明るさの差は作れないし、やはり明るいものが多数派というイルミネーション光度関数(前記事参照)は星空とは全く異なる印象を与えてくるなと感じた。

「あえてピンぼけさせる(デフォーカス)」という手法は、天文学分野でも立派に使われているテクニックだ。昔どこかで読んだ子ども向けの星座の本で、あえてピンぼけさせると星の色がよくわかる!と冬の星座の写真とともに紹介されていて感動した記憶がある。たとえば下の写真のように。

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これまたハワイ島マウナケア山で撮った写真で、右側にあるのはジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(JCMT)という、前面がカバーで覆われた不思議な望遠鏡である。左側ちょい下にみなみじゅうじ座がある。頭の星(ガクルックス)がちょっとオレンジ色なのがよくわかるだろう。そして南十字星の左下の空間が黒く塗られたようになっているが、これが『銀河鉄道の夜』の旅の終わりにも登場する天の川の石炭袋(コールサック)と呼ばれる部分である。左下のふたつがケンタウルス座の2つの一等星。真ん中下あたり、南十字から右に進んだところにちょっとピンク色に染まった部分が見えるのも天文学者的には激アツである。これはおそらくイータ・カリーナ星雲として知られる星形成領域(新しい星が生まれているところ)で、銀河系で最も明るい星を含むとされている。星の色の違いは実は表面温度が……という話もきっとまたどこかで。

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↑もっとピントをずらすと輪っか状に。リング状星雲だらけの星空になる

他にも、星の明るさを測るときにもあえてデフォーカスすることがある。研究用のカメラで星を撮るとき、星からの光はCCDとよばれる素子に貯められる。一つ一つのピクセルには正確に光の量を測れる限界があり、明るすぎる星が相手だとその限界に簡単に達してしまいうまく測定ができなくなる。そのためあえてボケさせて光を分散させるのだ。ボケさせても光の総量は変わらないのでこれでオッケーなのである。巨人の体重を測るのに、1つの体重計に乗せると壊れてしまうがたくさん並べて乗ってもらえばいいのときっと同じ。

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また星の話が多くなってしまったが、こんなことを考えながら見るイルミネーションも良いものである。見上げたイルミネーションは、文明によって森の中で見た原風景からはずいぶん遠いところまで連れてこられた。またまたKAGAYAさんの写真をお借りしつつ、やっぱりどっちもいいよねーと無難に着地してお話を終わろうと思う。星空もイルミネーションもまだまだ見頃が続くので、いろいろ気をつけつつ新年のお出かけにいかがでしょうか。みなさんあけましておめでとうございます。

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