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伝統文化を守り、未来に繋いでいきたい!

 こんにちは。2018年入社で事業局出身の細田ひかりです。「いま、何の仕事をしてるの?」と問われると、私はここ1年、「とにかく『伝統文化』!」と答えています。読売新聞グループ本社社長室には文化芸術企画部という部署があり、そこで「Action!伝統文化」というプロジェクトに携わっているのです。今回は、読売新聞が一企業ながらも、この国の伝統文化を守ろうという趣旨に賛同してくれる仲間を増やし、未来に繋ごうとしている活動の一端をお伝えできればと思います!

仕事としてお座敷遊びを体験する筆者(左、東京都内で)

Action1:生まれ立てのプロジェクト

 「Action!伝統文化」は23年6月に始まったばかりのプロジェクトです。「新聞社が伝統文化の振興をするのはなぜ?」――そう思う方もいらっしゃると思います。
 読売新聞社は報道機関でありながら、創刊150年の歴史のなかで、日本の伝統文化に関わる様々な取り組みを行ってきました。将棋の竜王戦や囲碁の棋聖戦、落語会(私も事業で担当していました)、書法展、そして正倉院展への特別協力や、日本美術の特別展などなど。読売新聞の伝統文化振興の歩みについて詳しく知りたい方は、こちらの動画をぜひご覧ください。

 伝統文化に関わる事業としては、5年前に開始した「紡ぐプロジェクト」という画期的な取り組みはぜひとも知っていただきたいです。「紡ぐ」は、文化庁、宮内庁、読売新聞社が官民連携で進める事業で、企業から協賛金をいただきながら、貴重な文化財を修理し、展覧会や紙面で公開していくことで、「保存・修理・公開」のサイクルを確立し、後世に伝える取り組みです。
 読売新聞では日本文化の魅力をさらに発信していこうと、22年9月にグループ本社社長室に文化芸術企画部を発足させ、そこに私も加わることになったのです。部員は編集局、ビジネス局、事業局など様々な局の出身者からなります。メンバーで議論を重ね、伝統文化や伝統工芸は継承者が不足していたり、さらにはいなかったりして危機に瀕している。それを守ることこそが「社会の公器」とも言われる新聞社のやるべきことではないか――という考えでまとまりました。各企業・自治体と連携して、全国にある伝統文化の振興の輪を広げる活動を「Action!伝統文化」と銘打ち、推進していくことが決まりました。

「Action!伝統文化」のロゴからも世界に向けて発信していこうという考えが見て取れる


Action2:「君たちはメディチ家になるんだね?」

 部の発足、そして、「Action!~」の推進が決まり、私は大げさな表現ですが、霧が晴れ渡るような感動を覚えました。もちろん、読売新聞ではこれまで紙面等の報道で、伝統工芸や伝統芸能の担い手や材料・道具が減少していることなどを取り上げてきました。しかしながら、今日の日本において国の貴重な文化資源であり、固有のソフトパワーである伝統文化が衰退の危機にあり、むしろ海外の方から高い評価を受けているという現状を歯がゆく感じていました。自分の勤務する会社が、主体的にこうした問題に関わることが決まり、社のことをとても誇らしく感じました。

 余談ですが、実家に帰った際、私が興奮気味に新しい仕事内容を伝えると、父からは「君たちはメディチ家になるのだね?」と言われました。ルネサンス期のフィレンツェで芸術や学問を支援したその立場とプロジェクトを重ねたのだと思います。もとより、「新聞社の事業局員」としては、誤りのない事実を報道するだけでなく、面白いもの・素晴らしいもの・知られるべきものに触れる体験を提供し、その経験でもって、人々がより良い社会を作ったりより良い人生を歩んだりすることに資したいと考えていました。
 
 少々大げさかもしれませんが、「社会全体にどんな影響があるのか」「意義があるのか」ということを当たり前に考えているということは、読売新聞社の特長ではないかと、最近になって思う様になりました。


Action3:日々の過ごし方

 さて、壮大な話はいったん脇に置き、次に入社6年目の私の1週間を紹介したいと思います。会社のデスクでの仕事がベースですが、打ち合わせなども平均して1日1~2件あり、社外へ赴くことも多々あります。会議だけでなく、伝統芸能の公演や、伝統工芸の展覧会の視察に出かけることもありますし、夜は会食や懇親会も珍しくありません。仕込んだイベントの本番があれば、土日に担当者として現場で働き、代わりに平日にお休みを取ります。
 
 事業局でもそんなに生活は変わらないですが、いまのプロジェクトではパートナー企業がいらっしゃるので、その要望を聞き取りながら企画を組み立てるクライアントワークの側面があり、また事業の収益性と同じくらい伝統文化そのものへの持続的な貢献を重視するという特徴もあります

 何気なく足を運んだイベントでご挨拶した方と、「何かご一緒できたら良いですね」と話していたところに、しばらくしてぴったりのお題が舞い込んできたり、情報交換をしているうちに一緒に公募の申し込みをすることになっていたり。日々、何がどことつながるか分からないわくわく感があります。

文楽の人形遣いさんに操り方を体験をさせてもらっている筆者

 また、海外の友人が日本に関して発した何気ないコメント、旅先でのギャップを感じた体験、推している俳優さんが出ているお芝居に関するSNSでの反応など、自分が好きで自然と接しているコンテンツから、アイデアの種や疑問のきっかけが出てくることも、人生を充足させてくれます。

 上記が「Action!~」としての当面の部内の目標ですが、実際にここへ導いてくれる鍵は何なのか、決まった答えはないと思います。五里霧中、暗中模索――固まった事業形態がないことから、異動当初は社内ベンチャーの様だとも感じました。しかし時間が経つうち、全くの新規事業というよりは知恵を絞ってグループリソースの相乗効果を狙う、経営企画に近い性質だと感じるようになりました。


Action4:具体的なイベント

 さて、話は直近の業務のことに戻ります。
 プロジェクトが発足してすぐの23年夏、私が携わったのは日本テレビの人気番組「笑点」を国立演芸場(東京・半蔵門)で収録するという試みでした。国立演芸場は建て替えのため、隣接する国立劇場と共に10月末で閉場することが決まっていました。劇場を運営する日本芸術文化振興会では、その最後の1年を盛り上げたいと考えており、担当者とともに知恵を絞り、「Action!~」の実践として提案したのが、「笑点×国立演芸場」でした。
 
 事業局にいた頃は、同じグループとはいえ、日本テレビの看板番組にコラボを依頼することはハードルが高いと感じていました。ですが、今回は、国立演芸場の最後ということのほか、▽日本の伝統文化を守りましょう▽笑点メンバーにも思い出を作っていただきましょう▽お客さん、視聴者にも最高の思い出を作ってもらいましょう――という大きなメッセージを掲げ、実現にこぎつけることができました。経営幹部が日本テレビ側にかけあってくれたことも大きかったと考えています。
 細かい調整を重ね、実現したコラボレーションはまさに“最初で最後の試み”であり、広報効果が高かったことはもちろん、出演者、裏方さん、国立演芸場のスタッフさん、そしてお客さんにとっても、きっと思い出深い特別な回になったと思います。

国立演芸場の最後の1年を彩った「笑点」の収録は笑点メンバーの思いのほか、ゆかりの人々にも取材し、紙面で大きく紹介された(23年8月6日朝刊紙面より)

 季節は進み、暮れも近づく11月。富山県高岡市が誇る国宝「勝興寺」で開催されたのは、人間国宝・桐竹勘十郎さんを迎えて行う人形浄瑠璃文楽の公演です。これは観光庁の「観光再始動事業」に応募し採択された事業の一環で、文楽の上演機会が少ない地域において「国宝×国宝」というキャッチーなフックで地元を中心とした約100名のお客様に文楽をご覧いただきました。

 JR高岡駅集合・解散の昼食付き鑑賞ツアーを組んだのは読売旅行、プロモーションや当日の運営を担当したのは読売エージェンシー中日本、高岡市との窓口および補助金の申請まわりを担当したのは読売新聞北陸支社で、文楽公演の企画制作が私たち文化芸術企画部というように、4つのグループ内の組織が協力して成立した連携の事例でした。

 伝統文化をコンテンツにしたイベントは集客や予算の規模が巨大にはなりませんが、こうしてすでにグループが持っているリソースを活用したり、公金を活用したりしながら、伝統文化の振興に資する事業を多数行っています。これまで行ってきた事業は「Action!伝統文化」サイトのお知らせでも随時更新しています。


Action5:「伝統文化」は身近にあります!

 文化芸術企画部に来てから、なんだか前よりも、「Action!~」プロジェクトのマークに使っている「麻の葉模様」が身の回りにもあるのだと気付くようになりました。日本史や古典文学に由来する地名なども近所にたくさんあるのだと感じるようにもなりました。しかしそれは恐らく、ただ私が気が付くようになったからで、きっと前から変わらずそこにあったのだと思います。
 このように、入社して以降、担当するテーマが増えることで見える世界が広がり続けています。特別展「昆虫」を担当した頃も、通勤路に急に昆虫が増えたように感じたほどでした(笑)。ある業界の第一人者の方に会うと、それにまつわる会話に俄然、興味が湧くようになりました。裏側で携わる人の苦労を知ったサービスがあれば、それを使うときの気持ちも変わってきます。第一線で活躍するプロフェッショナルの方に沢山会えるこの仕事では、そうした発見によってどんどん自分の認知が変わっていくのが楽しいです。
 
 これからも、グループリソースをうまく活かして、国内外へ伝統文化の魅力をもっと知ってもらうような発信をして、「Action!伝統文化」が大きなムーブメントになればと願っています。

「実はカエルが好きです」

文・細田ひかり