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ジャズ喫茶にうってつけの日

こんにちは。採用Gの田中です。
突然ですが、皆さんジャズは好きでしょうか。音楽のジャンルの中でもちょっと高尚な、小難しいイメージを持っている人もいるかもしれません。

今日は、文化部の音楽担当鶴田裕介(つるた・ゆうすけ)記者の話を通じて、「ジャズ喫茶」の魅力についてお伝えしたいと思います。ジャズ喫茶というのは、その名の通り、ジャズを流す喫茶店のこと。1960年代から70年代に流行したそうですが、その後CDが普及するようになると、自宅で気軽に音楽をかけられるようになったこともあり、数が減っていきました。

ところが、最近になって、NHK連続テレビ小説にジャズ喫茶が登場したり、名店を取り上げたドキュメンタリー映画が海外で話題になったりしたことなどから、再び注目を集めているそうです。スマートフォンに接続されたイヤホンで音楽を聴くスタイルが一般的になった今、お店のスピーカーから、大きな音量でジャズを聴くという体験は新鮮に感じられるのかもしれません。CDのみならず、レコードをかけるお店もあります。

ミュージシャンから新聞記者へ


私と同期入社(2005年)の鶴田記者は、元ミュージシャン。大卒後、ベース奏者として2年活動してから新聞記者になりました。なぜまたそんな回り道を?

東京都文京区のジャズ喫茶『映画館』にて

「プロを目指していましたが、所属していたバンドが、売れなかったからです(笑)。昔から、政治記者に憧れていたので諦めて就活を始めました。でも、就職後に、バンド時代はきちんと録音をしてなかったなと思って。昔のメンバーで一度集まり、音源をしっかり完成させたこともありますよ」

まるで、漫画『ソラニン』の世界ですね。でも、文化部の音楽担当って、はまり役では?

「当初は、政治部を志望していたんだけど、支局時代に文化部から来ていた先輩が、とにかくあらゆるジャンルの原稿を書いていて。地方支局でも、文化財とか、その地域出身の作家の話題とか、たくさん書けるじゃないですか。それで、ああ、文化部って良いなと。実際、仕事はとても面白いですね」

文化部の特ダネ

 文芸や芸能、映画などの記事を担当しているイメージの文化部にも「特ダネ」があります。例えば詩人で童話作家の宮沢賢治(1896~1933年)にまつわる2017年12月のスクープがこちら。もちろん鶴田記者の取材によるものです。

 賢治の妹が、賢治や宮沢家にまつわる出来事をつづった回想録。それまで存在すら明らかになっていなかったのですが、その概要を初めて伝えた記事です。

「宮沢賢治には本当にファンが多いんですよ。賢治にまつわる連載を担当した時は、漫画家の松本零士さん始め、多くの著名人が快くインタビューに応じてくれました。それも、みんな熱く賢治への思いを語ってくれるんです」

ジャズの魅力

 話が少しそれてしまいましたが、ジャズ喫茶にはいつ頃から関心を持つようになったんでしょう。

「妻がジャズ好きだったので、少しずつ聞くようになりました。ライブにも行ったりしたけど、最初は、お勉強として聞くと。『Cool Struttin'』のような、名盤とされているものから順番に聞いていく、みたいな感じでしたね」


「難解なイメージもあるかもしれないけど、少し慣れてくると、ジャズって演者の感情が生で伝わってくるな、と思うようになって、そこから面白くなってきました。同じ曲でも、演奏のたびに伝わるものも全然違うな。あ、この人は、このときはこういう気持ちで演奏していたのかな、とか」

「好きになってくると、せっかくだから良い音で聞きたいけど、今の時代、自宅で大きな音で音楽を聴くのって難しいじゃない?家族がいるとなおさら。それで、ジャズ喫茶に足を運んで、聞くようになりました」

名盤を教えてくれる場所

「ジャズってもう発祥から100年以上と言われていて、膨大な歴史があるわけです。詳しいだろうと思われるかもしれませんが、年季の入ったファンの知識を追い越そうなんて、文化部の記者でもはっきり言って無理です。それだったら、良い曲やいいミュージシャンを先輩ファン(=店主)に教えてもらいたい、という気持ちで通っています。しばらくジャズ喫茶で過ごしていると、気になる曲がかかると思います。アルバムのジャケットが、プレイヤーの近くに飾ってあるから、それを見て、メモしておくと。ジャズが難しいと思っている人には、そういう聴き方を勧めたいですね。自分が良いな、と思ったものを素直に聞いていけばいいんです

そして、文化部を一時離れて、東北総局(仙台市、宮城県内を管轄)で2年間勤務する間、鶴田記者は東北地方のジャズ喫茶を巡る連載を始めます。喫茶巡りのガイドとなるだけでなく、店主のこだわりや人柄が伝わってくる内容です(元新聞記者の店主が登場する回も!)。特に「ジャズとの出会い」について語るエピソードは人それぞれで、各回とても印象に残ります。

「伊達なジャズ喫茶」(2021年5月、全5回)、「続・伊達なジャズ喫茶」(21年11~12月、全7回)の連載では、宮城県内の店を取材。さらに、22年4~5月の「みちのくのジャズ喫茶」(全7回)では、山形・福島・秋田など、東北全域に足を伸ばしています(下記リンクより記事をご覧いただけます)。

地方の名店にはファンも多く、総局には読者からの反響が寄せられました。

「直筆のお手紙を頂きました。よく行っていたお店で、記事で見て懐かしいとか、逆に『この店を取り上げるなら、ここも載ってないとおかしい』という指摘を受けることも(笑)。ファンの人たちのこだわりや思い入れを感じることができて、うれしかったです」

連載で取り上げた秋田市の名店『ロンド』

鶴田記者から見て、ジャズ喫茶の魅力は何でしょう。

「もちろんレコードのコレクションが素晴らしいとか、音がいいとか、お店の雰囲気がかっこいいとか、それぞれあるわけですけど、やっぱり店主の方が個性的というか・・・まあクセが強い、ですね。ジャズ喫茶って、一杯数百円のコーヒーで、何時間も粘る客もいるわけです。ハッキリ言って、そんなにもうからないと思うんですよね。オーディオ機器やレコードにも投資しなければいけない。それでもお店を続けるのは、よっぽど好きじゃないとできないことだろうと。そこはやっぱりお店の数だけ物語があります」

海外でも『ジャズ喫茶』ブーム


ところで、鶴田記者によると、日本のジャズ喫茶に影響を受けた「リスニングバー」が、最近、海外で流行しているのだそうです。きっかけは、2010年頃から、来日した海外ミュージシャンがジャズ喫茶を訪れ、その様子をSNSで発信するようになったこと。音楽に集中するため、客の会話が少ないスタイルが、コロナ禍の世相にもマッチしたこともあって、ここ10年では欧米やアジアなど世界各国で少なくとも50店のリスニングバーが開店したとか。

 この辺りの事情も、語学に堪能な若手記者の助けを借りて、鶴田記者が一度記事にまとめています。なかなか興味深いですよ。


米ニューヨークで昨年オープンしたリスニングバー「イーブスドロップ」(オーナー提供)。ジャズやファンクのレコードがかかる

増え続けるレコード

 最近は、音楽を配信サービスで聞くという人がほとんどです。配信では、アルゴリズムがその人が好きそうな曲をデータから割り出して「おすすめ」してくれる。一方、ジャズ喫茶では、その道に詳しい人がおすすめの曲や、アルバムをかけてくれる。それも、ジャズ喫茶が改めて注目されている理由のひとつかもしれませんね。

「昔はみんな音楽を聴くのにCDを借りたり買ったりしていたと思うんですが、今では、コレクターズアイテム。アイドルのファンが、応援のために買う『推し活』のためのアイテムという側面が強いですね。自分はいまだに聞くためにレコードやCDを集めているので、ちょっと寂しい気もします」

 鶴田記者の目下の悩みは、自宅で増え続けるレコードコレクション。同じアルバムでも、違うバージョンのものを買ってくると、家族からの視線は一層冷たく・・・。レコードが増えるたび、自分の居場所が狭くなっていくような感覚に襲われるのだそうです。

「いい音楽との出会いを常に探しています」と話す鶴田記者

 私も、学生時代は、渋谷の大型CDショップの試聴コーナーで良さそうなバンドを探したり、膨大なコレクションで有名だった神保町のレンタルCDショップを友人たちと覗いたりしていた経験があります。配信サービスでは聞くことのできないアーティストや楽曲もあるので、CDやレコードを集める鶴田記者の気持ちは良くわかります。

 ところで、鶴田記者の連載をまとめた電子書籍はこちらでご購入頂けます。また、ポッドキャスト「新聞記者ここだけの話」では、CDから誕生40年を期に、日本のポップスシーンを中心とした音楽業界の歴史を振り返りつつ、今後の展望について鶴田記者が語っています。ご関心のある方は併せてチェックしてみてください。



学生の皆さんも就活の息抜きに、お近くのジャズ喫茶に足を向けてはいかがでしょうか。新たな趣味が見つかるかもしれませんよ。

記者の現場 #2
  (取材・文 田中洋一郎)
※所属、肩書は公開当時のものです。