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雨音小夜曲

 目が覚めたとき、窓の外は明るかったが雨の気配が濃厚であった。実際、日が落ちるまでの間に数回ほど強く降ったりやんだりした。これはただでさえ外出したくない気持ちに、相応の言い訳を許すことになるな、と我が怠慢心が出張ってくるのに気づく。熱い湯を溜めて入浴するか、ヨガで身体をほぐすかを少し思案して、もうこの機を逃したら起き上がれない!という切実さでベッドから跳ねるように飛び起きてリビングに向かった。目の醒めるようなショッキングピンクのヨガマットをころころーんと伸ばして30分ほどゆっくりと全身を緩め伸ばしていく。

◇◇◇

 強い降りの雨音に耳をそばだてていると、途端に眠くなってくる。在宅時の雨音は実にヒーリング効果が高く、そのままヨガマットの上にゆっくりと横になった。ヨガマットは適度な厚みとスチロールのような温かさがあり、さあさあとささやく雨音を聞きながら深く呼吸に意識を向けていく。いつもならあっさりと眠りの旅に出てしまうところを、すんでのところで持ちこたえ、これまた跳ねるように飛び起きて二日分の新聞を読む覚悟を決めた。勢いが大事。

 以前と大きく変わったことのひとつに、土曜日に新聞を読むことがつらくなった。日頃活字に追われていることで、文字を追うことに辟易としてくる。けれど日曜に二日分読むのはこれもまた苦行。それでもいつもよりずいぶん早い時間なのだし、と窓の外の明るさに助けられ、ヴァイオリン曲のメドレーをAppleミュージックでか細く鳴らして、ごわごわと新聞紙を開いた。

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 いつも新聞を読みながら何かをする、というふうにして平日は時間の分散化をしているのだが、今日は久しぶりに新聞を読むだけに集中することができた。当たり前だが頭への活字の入り方がまったく違うことに感動。巧い書き手たちの練られた文章に出逢い、手垢まみれではない文章が放つ、シンプルでダイレクトな強さに唸ってしまう。とりわけ新聞の文章は文化欄以外では事実を伝える堅い文章になるものだが、この、装飾を取り払ったなかにある巧さみたいなものは専門家ならではだと思う。
 新聞に掲載されている書評や展覧会情報、さまざまの情報から気になったものをパシャパシャとスマホカメラで撮っておく。

 ふと窓の外を見遣ると、日曜の空が群青色に変わっている。今日はこのまま、1日が終わるまでを静かに過ごそう、とふと思った。大量のカフェインも不要、インスタントに集中力を発動する無理強いもやめよう。深い呼吸を保ったまま、擦り切れた神経の手入れをしてやるのだ。

 

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