ちょ、そこの元サブカル女子!~白川ユウコの平成サブカル青春記 第十一回/だいたい三十回くらい書きます


1993年 平成5年 17歳 高校2年生

☆9月 筒井康隆断筆宣言、内田春菊「ファザーファッカー」ドゥマゴ文学賞
☆10月 宮台真司「サブカルチャー神話解体」、フリッパーズ・ギター解散、The KLF解散、コーネリアス「太陽はぼくの敵」小沢健二「カローラⅡに乗って」月刊漫画ガロに村崎百郎登場

 静岡西高校では新聞部に所属、三年生が引退して私が部長になった。また、図書委員をしていたら図書館報も任され、雑誌文化華やかなりし時代、ライター気取りで嬉々として原稿を書いていた。原律子・松井雪子・まついなつき『環境でぷん!』を書架にみつけ、ブックレビューを書くなど。学級の読書会には筒井康隆『笑うな』を選択してクラス全員に読ませたり、委員会の読書会では石川啄木『一握の砂・悲しき玩具』の感想文を一人だけ二倍の文字数を書くように言われ、教科書に載らないようなダメダメな人格の見える短歌に感じ入ったり。「うすみどり飲めばからだが水のごと透きとほるてふ薬はなきか」。
 図書室の古い雑誌がたまり、ご自由にお持ち帰りくださいという機会が設けられた。「中央公論」のバックナンバーが大量に積まれ、背表紙に「新人類とオタクの世紀末を読み解く!」という特集が目に留まり、それをもらっていった。とても面白く、執筆者の略歴を読むと、憧れの鶴見済氏の先輩にあたる東京大学教養学部社会学科卒の宮台真司氏。写真もいけてる。市立図書館で著書を読むと、テレクラの研究!?この人はなにか知っている。注目しよう。
 それにしても、筒井康隆先生は差別表現と教科書掲載の揉め事で断筆してしまうし、フリッパーズ・ギターは解散してしまうし。
 二人と仲のよかった渡辺満里奈が小沢健二と付き合いだして、もともとの小沢と恋人同士だった小山田圭吾が激怒というBL目線の噂が立っていた。そして取材ということを隠して小沢にアクセスしてただの世間話に終わった会話を勝手に記事にしたi-D JAPANが謝罪文を出したりしていたがだれにも真相はわからない。
 ただ、渡辺満里奈は以前から、おニャン子クラブからとんねるずと懇意になって上手に抜け出し、小泉今日子や東京スカパラダイスオーケストラ、ピチカート・ファイヴ、スチャダラパーなどオシャレ界隈を上手に渡り歩いてきた(その交流は月刊カドカワで読めた)結果がこれということで、のちに電車の女性週刊誌の中吊り広告にオザケンとの仲の記事の見出し「プラダの靴が欲しいの~」という文句が躍るまでになり、その要領の良さ、世渡りの器用さ、嗅覚の鋭さが各方面からそうとう顰蹙を買っていた様子が各誌からうかがえた。姉と彼女を語り合うなかで「待って。満里奈、実はあげまんじゃね?」「満里奈と絡むと売れる!」という結論が出たのであるが。
 The KLFの解散も残念だった。イギリスの音楽祭の授賞式に羊の死骸を置いて帰って来ちゃったり、他人の麦畑を勝手に踏み荒らしてミステリーサークルを作って逮捕されたり(その写真は雑誌remixの表紙になった)奇行がいちいちカッコいいし、ムー大陸の末裔などというコンセプトは正直よくわからないけれどwhat time is loveはダサいディスコミュージックのなかで異彩を放っていた。
 当時、ジュリアナ東京のアルバムシリーズが出ていて、パラパラユーロビートがたくさん入っていたのだが、ネタが尽きてきたのか、制作者が飽きてきたのか、だんだんアナログシンセサイザーを使用したヨーロッパの「変な」音楽が混ざるようになってきた。KLFやPRODIGY。
 石野卓球さんがオールナイトニッポンのおすすめ曲のコーナーで「ロッテルダムのテクノがとんでもないことになってる!」というニュースとともに紹介したalles naar de klxxteやpoingという曲、衝撃的!かっこいい!欲しい!でも静岡じゃ手にはいんないよ!と嘆いていたらレンタル店のジュリアナCDのなかに見つかった。エイベックスからその後「ROTTERDAM TECHNO IS HARD HARD HARD!」というアルバムが出てこれは名盤である。

☆11月 映画「月はどっちに出ている」、「COMICアレ!」、「週刊金曜日」創刊

 秋のある日、私に宛てて郵便物が届いた。裏を返してみると、差出人はある漫画家…えええええ!
 「ガロ」誌上で、恋人募集の記事が掲載されていたことがあった。早速、静岡の女子高生です、ファンです、好きな匂いは夕方に道端で嗅ぐカレーの匂いです。ぜひお付き合いを!と手紙を書いた。そんなことをすっかり忘れたころ届いたのが、B5の直筆水彩画のイラストボード。こんなに貴重なものをいただいてよいのだろうか!
 小さな紙に、鉛筆でメッセージが書かれていた。「天気がよければ裏通りでも散歩してみましょうか」
 あの先生とお散歩!夢のようだわ!一人でシミュレーションしながら、学校帰りの安西通りの裏道を自転車でわざと迷子になってくねくねと走り、作品目線で楽しんだりした。古いホーロー看板や、形がいい感じの工場や、剥製屋の建物などを見つけた。一緒に歩くんだ。あの先生と。それってデートじゃん!うわーなに話そう!キャー!
 などとしばしもりあがっていたのだが、その後「ガロ」に「結婚しました」というご報告の記事が。なんだよー。ぷー。でもお相手もかなりのビッグネームの女性漫画家。わたしまけましたわ。お二人の漫画が大好きなので、すてきな夫婦の誕生が嬉しくもありましたとさ。


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