ちょ、そこの元サブカル女子!~白川ユウコの平成サブカル青春記 第二十四回/だいたい三十回くらい書きます

1997年 平成9年 21歳 大学三年生

☆1月 柳美里『家族シネマ』芥川賞受賞
☆2月 園子温「桂子ですけど」、テレビ版「新世紀エヴァンゲリオン」深夜26時に再放送
☆3月 東電OL殺人事件、「新世紀エヴァンゲリオン シト新生」、町田康『くっすん大黒』

 土曜日深夜1時から、エヴァンゲリオン再放送が開始。雑誌などでは大変な話題となっているのだが、作品そのものはまだ視ていなかった。第一回から、真夜中に待つ。おお!これは!
 綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー、葛城ミサト、赤木リツコ…女性キャラクターたちがみんな魅力的なのだ。主人公碇シンジをはじめ、恋しちゃうような男性キャラクターは出てこないのだが。大きな謎が隠されたストーリー、メカ・建築デザイン、映像のリズム、色彩、科白の決まり方、新しい!こんなアニメなかった!
 〈特報〉と銘打たれた劇場版のコマーシャルは、ベートーヴェンの交響曲第九番に合わせてハイスピードで名場面が切り替わる。これはもう鳥肌ものだ。毎週二話ずつ。夢中になった。テレ東では「エヴァ待ち」の時間帯に、佐伯日菜子主演の「エコエコアザラク」が始まり、仮眠をとったりそれを視たり。
 深夜の東京ローカルのコマーシャルは、「いちにいサンガリア、にいにいサンガリア」の、千秋のジュースや、「あなたのために綺麗になりたいの」「男前だが、金は無い」、高知東急の、たかの由梨エステティックサロン。石庭、というのもあったが、下りの高速バスでいつも見える「エリザベス石庭」というラブホテルの会社なのか。あとは第一興商。
 独立夜間学校ライターズ・デンでもエヴァは人気で、新宿ロフトプラスワンでの土曜日の授業が深夜になってしまい、受講生たちは視たい。しかし、店内のテレビは、放送電波が入らない。すると、「僕、VHS持ってますよ」とオタクの男子。店長の平野悠さんも視てみたいといい、その日の放送分のビデオをみんなで鑑賞したりした。エヴァンゲリオンは共通の話題と言語をもたらした。
 ライターズ・デンの受講生のなかに、週刊誌の取材の手伝いを募集している人がいた。どんなのですか?と訊きに行くと、「東電OL殺人事件」の犯人がまだ捕まっていない、渋谷円山町で警察が聞き込み捜査をしている、自分は記者だとばれているので近づけない、そこの取材だという。おもしろそうだ。
 夜9時ごろ、週刊誌の記者と円山町で待ち合わせ。夜のお姉さん風の格好をしていく。駅から、現場の道を歩く。男性二人組がいる。声をかけてくる。刑事だ。「この前の事件のことなんですが」「あ、はい」「この人見たことある?」被害者女性の写真。あまり記憶に残らないタイプの、さえない女の顔。「ないです」ここで、もう一枚、男性の顔写真を見せられたらそれを覚えて特徴を教えて欲しい、という依頼。しかし、「ありがとう。このへん物騒だから気をつけてくださいね」「はい。ご苦労様です」まっすぐ歩いて、ぐるっと迂回、記者の待っている居酒屋へ。
 「男の写真なかったですー」「あー、やっぱり。なかなか見せないんだねえ」「すみませんお役に立てなくて」「いやー、ありがとう。ギャラ無いけど、代わりにお寿司食べて」「いいんですか!いただきます!」居酒屋の安くてちっちゃいお寿司だけど、お腹がすいていたし、初めての、犯罪捜査の取材。とてもおいしくいただいた。茹で海老のしっぽまで残さず。
 そんなわけで夜の東京のかなり危ない場所にも警戒心はゼロ。daily anの「ワクワク!ナイトワーキング」の欄を見て、新宿歌舞伎町のクラブホステス募集の面接を受ける。時給3000円、日払い可という好条件。
 実際には、衣装代のほか、「厚生費」なる謎のお金をとられ、手取りは少なくなる。たくさんの店舗を、一箇所の事務所が管理しており、ロッカーも給料手渡しもそこ。
 お店には、私の他に、かなりキャリアの長そうな、人生諦めきったような灰色っぽい印象の美人のお姉さん(パイソン革のハイヒールを履いていた)のほか、私のような垢抜けない水商売初めて女子大生が数人。一日二人ぐらいしかホステスはいない。お客さんもほとんど来なくて、店内では音声を消した「エイリアン3」がエンドレスで毎日流れている。
 勤務して間もない日、女子大生らしき女の子から、ここはお客さんには一時間十万円とかを払うように脅しているみたい、と聞いた。こういう店はそれが当たり前なのかなあ、と思っていたら、ある日。帰りに事務所に寄り、一日の給料を受け取ろうとすると、シンナー歯のショートヘアの女性事務員が「300円です」「え?なんでですか」「今日、靴を貸したので、靴レンタル代1時間2000円です」「はあ!?」事務所のソファで寝転がってるヤクザが「今日はそれ以上でないよー」とか煙草を吸いながら言っている。小銭3枚受け取って「今日で辞めます」。
 ロッカーで着替えていると、事務所から「え、なんで?」みたいな同じようなやりとりが聞こえた。他の店舗の子だろう。ロッカー室にそのギャル系の子が入ってきたので、「私も今日300円でしたよ」というと「5分遅刻したからって給料出なかった!ムカつくー!!」ぼったくりというのは、客だけではなく女の子からもぼったくるんだなあ、と、ためにならない学習をした。

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