見出し画像

奥歯


本当にあたらしいことというのは、古いこととのつながりが切れているので、あたらしいのかどうかさえわからない。なのでどんなあたらしいことも、古いことのなかの、なにか、を多少は継承しなければならない。
それをこの小説のキーワードに従って、奥歯、と名づけてもよい。
古い道から進む、ざくざく進んでいく、その鍬の先端のきしみを感じながら一気読みした。読んでいる身も鍬を振るっている気になる。奥歯の一点に何かを継承しながら、何かを封じ込めながら、鍬は進む。しびれるほどかっこよく、みじめなほどにぶざまでみっともない。
関西弁ネイティブでない人には、ちょっとすんなり世界に没入できないかもしれないかも? という本筋とは離れた心配をしつつ、文学、というものが昔から遠回しに希求してきた柱を一本、どまんなかにおっ立ててしまったな、という痛快感の残る小説でありました。柱自体はちょっと曲がってるんだけどね(笑)。

・・・・・・

後日の追記。
後半、主人公が昔受けた仕打ち、みたいなとこが余計だったかも、とは思いました。あれがあると個人的な人格の歪み、みたいなとこにテーマが蛇行しちゃう。あんなのなしで、あくまでも直球勝負な「わたくし」論で世界を覆ってほしかった。

(シミルボン 2016.9)

『わたくし率イン歯ー、または世界』
川上未映子
講談社


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?