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本の読み方(短文バトル15)

最初、一行目を読んでわーってなって二行目を読んでこう来るかーって驚いて、一行目にもどり確認しさすが一行目ってほれぼれして二行目三行目に進み、で、こうくるのねってまた一行目にもどり二行目三行目四行目に読み進んでちらと景が観えてきたりしたらしみじみと染み入り、景が観えてこなければまだ景を見せないかと挑戦されたような気になって一行目にもどって効き具合を確かめながら読み進めるというふうに、最初のページはいきつもどりつしながら読むのが好きだ。
なので、最初の部分は何度も噛み締められる文章になってる本を愛す。ほとんど1ページ目フェチといってもいいぐらいに1ページ目が好きだ。全ページがありさえすれば1ページ目だけでいいと思うこともある。まだわけのわからない物語世界がじょじょに分かってくるその突端が好きなのだ。
本屋で買うかどうか決めるときも、裏の説明や巻末の解説を読むのではなく1ページ目がいいかどうかで決めることも多い。
そんな1ページ目フェチな俺が何度も何度も読み返したのが吉井由吉『蜩の声』に収録されている「蜩の声」の出だしだ。最初の一文を引用する。

朝、部屋から出てくると居間のテレビが、と言えば今からもう十何年前に世を騒がせた連続「通り魔」事件の、犯人の少年が逮捕されるしばらく前にどこぞへ送りつけた挑戦状の、まるで居間にはその事件を報道するテレビばかりが喋っていて人がいない、永遠に誰もいないような、唐突な出だしを思わせるが、この五月の下旬から私の場合、朝と言っても陽は高くなっているが、仕事部屋も兼ねた寝間から居間のほうへ起き出してくると、テラスの表は、霧の籬(まがき)である。



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