見出し画像

ヨンゴトナキオク52 2022.7.4

7月4日に『7月4日に生まれて』を観て

まぁ、なんと3ヵ月も放置していた。我ながら反省。また、ゆっくりボチボチ書いていこうと思う。オオカミ少年もとい、オオカミおばさんにならない程度には…。

BSプレミアムシアターで『7月4日に生まれて』を観た。タイトルと同じ日にぴったり合わせて放映するNHKのセンスは褒めてつかわそう。とはいえ、私は戦争映画が苦手だ。というか殺し合うような怖い場面を観るのが嫌い。だから、NHKの大河ドラマも、戦のシーンは気が重い。結局途中でリタイアしてしまう。戦国時代の国取り合戦だって、殺し殺されの世界だもの。でも、この映画をこの日に観るというのは何かしらの意味があるのではないかと意を決した。このnoteを再開する上でも、これは観た感想を書き残しておくべきだろうと。しかし、なかなかしんどかった。でも観てしまったからには、やはり書かねばならない。深堀りすることはできないので、頓珍漢な感想になることはお許し願いたい。

7月4日とは、アメリカが1776年に植民地化されていたイギリスからの独立を果たした日。南部テキサス州での奴隷制度も廃止され、すべてのアメリカ人が自由を勝ち取った日だと定められている。しかし、なんと皮肉な歴史だろう。1947年7月4日に生まれた主人公ロンは、祖国アメリカを共産主義から守らなければという社会の空気、政治家のプロパガンダに共鳴し、ベトナムへの志願兵となる。ところが、2万キロも離れたベトナムで兵士として無辜の民間人や自分の上官を殺してしまう。しかも、自分も撃たれて下半身麻痺の身に。兵隊に行く前に見聞きしていた大義名分とはあまりにもかけ離れた壮絶な体験。つらい治療も、ベトナム戦争に予算をかけたために医療費の予算が削減され、ひどい扱い。しかも故郷に戻ると、英雄視されるどころか世間ではベトナム戦争に反旗を翻す動きが生まれていた。

祖国を守るぞと熱弁をふるう息子はまさに一家の自慢だった。父親は「もっと近い赴任地だったら」なんて呟くが、そんなわがまま、許されるはずもないのに、父には勝って復員した経験しかないわけで。そのあたり、平和ボケならぬアメリカ人の戦争ボケなのだろうか。自国ではなく他国を攻めることにもう慣れっこになり、自分たちは経済的富を得ている。だから、あんなに派手なパレードして、復員兵をお気楽にお祝いできたんだろう。そのお気楽さを象徴するように、映画は子どもたちの戦争ごっこのシーンから始まっている。日本だって、チャンバラごっこは子どもの特許みたいなものだった。

高校卒業記念のプロムでは、ロンは好きな女の子が別の男子に誘われたことに失望して、入隊準備で忙しいから行けないと強がりを言ってしまう。それでもふとよぎる不安。自分が選んだ道は正しかったのだろうかと神様に問うのだ。そして、土砂降りの中プロム会場に向かって家を飛び出し、彼女とのチークダンスを叶える。それが人生最良の日になるとは思いもよらず。

画面は華やかなプロム会場からいきなり凄惨な戦地へ変わる。同じオリバー・ストーン作品の『プラトーン』に比べると、戦場のシーンはこれでも短いそうだ。どちらかといえば、その後の荒んだ病院のシーンが痛々しい。髪の毛も薄くなってしまったロンは、人間扱いしてくれと叫ぶ。やっとの思いで帰郷するものの、車椅子の姿では家族も近所の人たちもどこかよそよそしい。「元気で良かったなぁ」なんておためごかしの挨拶。しかし、誰も国の戦った来たことを称賛してくれはしない。弟に至っては、自分で勝手に行ったんだろうと言わんばかりだ。耐えられなくなったロンは心を病み、家族に悪態の限りをつく。ここでさらにつらいのは、誰よりも息子の理解者であったはずの母から「出ていけ」と言われてしまうことだった。母にとっては、独立記念日に生まれ、英雄になるべき長男が車椅子の身となったことにマジで失望しているという残酷なシーン。そしてロンはさらに自堕落な生活へと落ちてゆく。そして彼はようやく気づくのだ。自分がバカだったことに。彼は自分が撃った上官の家族のもとに会いにゆき、心から懺悔するのだった。

ロシアとウクライナの戦争を見ていてつくづく思う。そんなに権力と国土が欲しいなら、大統領同士が武器を持って、一対一で決闘したらいいのだ。若者を焚きつけて、戦地に送り込むなんて、それはもはや殺戮と同じ。自分たちは手を汚さず、安全な場所で美味しいものを食べ、少なくともベッドで寝ているだろう。なぜ「国のため」という正義感だけで、大義のない戦いに駆り出されなければならないのか。あれほど悲惨なコロナで人の命の尊さを叫びながら、大人たちは戦争をやめようとしない。あれだけ街と市民の暮らしを破壊しておきながら、犯罪と糾弾することはそこそこに、復興を話し合うための国際会議が華麗に行われている。なんという矛盾。この矛盾に誰も異を唱えず、ロシアをただ悪者扱いする。悪いのはロシア人じゃない。権力を持った者なのに。

映画は、戦争反対派となったロンがスピーチのために晴れ晴れとした笑顔で登壇するところで終わる。

ロンを演じた若きトム・クルーズが素晴らしい。好戦的だった少年が戦地で地獄を体験し、身体の自由を奪われてから、ようやく平和の尊さを知る人間の愚かさを、肉体で体現していた。そんな彼の誕生日は独立記念日の7月3日だとか。そして奇しくも今、『トップガン マーヴェリック』で空軍のエリートパイロットを演じ、大ヒットを飛ばしている。う~ん、娯楽大作としての価値は認めるけど、戦争映画であることには違いない。『7月4日に生まれて』は原作があり、役名と同じロン・コーヴィックさんの自伝に基づいている。彼こそがベトナムで下半身の自由を奪われ、反戦運動に身を投じたご本人。またご反戦活動家としてご活躍だという。7月4日は彼の75歳の誕生日だった。本当におめでとうございます。「自由の国、アメリカ」なんて簡単に言うけれど、決してすべての人が自由を勝ち取っているわけではない。ブラックマター問題しかり、この7月4日も、シカゴ近郊で独立記念日のパレードの最中に22歳の若者が銃を乱射し死者を出す事件が起きている。ついでに言うのも何だけど、大谷翔平君はその翌日の7月5日が誕生日だったそうだ。彼の活躍が自由と民主主義を象徴する明るいニュースだとしても、真の平和には、道のりははるかに遠い。

写真は7月4日の誕生花ストケシア。花言葉は「追想」。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?