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ことりっぷとロッテの説明責任 - 『小さなチョコパイ 高知 カフェニールマーレの苺のレアチーズケーキ』の怪

先々週末から先週にかけて、ニールマーレ事件で新たな騒動が起きた。ことりっぷとロッテが提携して製造販売しているチョコ菓子の新製品をめぐるトラブルだ。商品の名前は『ことりっぷ 小さなチョコパイ 高知 カフェニールマーレの苺のレアチーズケーキ』。発端とその衝撃を示すタイムラインが残っているので、当時の状況をご確認いただきたい。6/3 に書き込まれている。ことりっぷというのは、昭文社の新しいブランド名だ。関係者が顔出しで事業を説明するサイトがあり、読むと分かりやすい。「旅好き女子のためのガイドブックの先駆けとして2008年に誕生した」と紹介がある。若い頃、昭文社のエリアガイドブックにお世話になった。「ニューヨーク」の本には表紙写真にツィンタワーがあり、それを手にマンハッタンの碁盤の目をの街を徘徊した。

旅好きな女子向きに、日本各地にあるオシャレなお店を紹介するガイドブックを出版し、HPでお店を読者に案内している(フィーを徴収しているのだろうか?)。写真のセンスが非常によく、構図とデザインが優れていて、クォリティの高さを求める働く女性から高く支持されている。ガイドブックは軽くコンパクトで、女性にやさしい装丁が配慮されており、女性に人気がある市場競争力がよく分かる。今の時代をグリップした、よく成功している企業(事業体)だ。そのことりっぷが、ロッテとコラボする形で、3年前から「チョコパイ」と「ふんわりケーキ」をセットで売り出すようになった。ことりっぷが企画提案し、ロッテが製造販売していて、6月にその9段目が発売される計画で動いていた。

20年10月に出た第1段は、札幌のチョコパイと神戸のプチケーキである。チョコパイは「札幌の人気店『森彦』のガトーフロマージュ」と銘打っている。プチケーキは「神戸の人気洋菓子店『パティスリー モンプリシュ』の『オペラ』の味わい」と謳われている。いかにも女性の触手が伸びそうな、女性の購買意欲を誘うキャッチコピーの訴求だ。地名を大きく押し出した意匠で、当地のオシャレなカフェのスィーツを模擬している。カフェを既に知っている女性もいれば、この新製品を見てカフェを知る消費者もいるだろう。こんな具合で、年3回のペースで、各地の有名店の人気スイーツを擬製し宣伝したところの、ロッテ製のチョコパイとプチケーキを次々と新発売し、3年かけて8弾目まで出荷してきた。

9段目のチョコパイが「ニールマーレの苺のレアチーズケーキ」だった。8段目まで順調に連発したということは、市場で確かな評価と実績を得ていたのだろう。ターゲットとする女性の心理を掴むマーケティングが奏功していたと言える。価格と実製品を見れば、パッケージの人気店の実物とはかなり違い、競合する明治や森永のコモディティと特に大差ないと思われるが、そこに「ことりっぷ」のコラボというキーの訴求要素が入り、ことりっぷ推薦の観光地名店の名物スイーツがプロモーションされると、上質で特別なイメージが醸成され、菓子好きの女性層の購買意欲が刺激される。そこに疑似的な付加価値が生まれ、競合製品との差別化ポイントとなる。その名店で著名スイーツを頬張る満足感を気分で味わう消費行動となる。

ロッテにとってもことりっぷにとっても、第8段目までの商品企画は成功だっただろう。問題は、この9段目のニールマーレだ。信じられない。これが定評あることりっぷのマーケティングなのかと唖然とする。なぜニールマーレを選んだのか。年3回の発売間隔だから、最低でも4か月の企画立案の期間がある。今回、製造はとっくにロッテ狭山工場で行われ、全国で販売する在庫が積み上がっていた。原料材料が揃えられ、ラインが稼働したのは、3月か4月だろうか。ニールマーレの最終的な退去期限が来た時期で、次に入る業者の入札と決定がされていた時期である。無論、その前の昨年11月には市から正式な退去要請(2度目)が届いていた。すでに三者(市・NPO・店)の間で弁護士が入って揉める紛争の事態になっていた。

このロッテとのコラボシリーズは、ニールマーレを含めて全体で18店舗の18スィーツが選定されている。まず信じられないのは、何故ことりっぷがニールマーレを採用したのかという問題だ。ことりっぷブランドである。ことりっぷが全国の店から厳選し推挙するカフェやスイーツもブランドだ。つまり、選び抜かれた優良店がシリーズでセレクトされ、消費マインドの高い女性のフェボライト・リストに入る..はずだった。その中に、なぜニールマーレが入るのだろう。確かに店の窓からの海の景観は抜群で、素敵なリゾートの絵にはなり、都会の女性の心をくすぐる写真の構図にはなる。だが、個性的な美味しいスィーツを提供し、景観にすぐれた店なら、高知県には他にも幾つもあり、全国を探せば限りなく多くあるだろう。

何と言っても、ニールマーレは入居した公共施設で管理人とトラブルを起こし、土佐市から退去要請を受けていた店だ。「南風」は国交省の補助金が入った行政財産の建物である。国交省が管轄の一端を握っていて、そのことは今回の国交省の文書にも記された。地元で、ニールマーレと指定管理人NPO法人との紛争を知らぬ者はない。ニールマーレ側に居残りを正当化する法的根拠はなく、4月以降、5月以降の営業継続は法令無視の強引な不法占拠だった。あの5/10の「マンガ告発」は、居座りのゴネ得を狙ってSNS拡散に出て、ひろゆきらが扇動した悪質な世論工作である。ことりっぷとニールマーレとの商談はいつ行われ、どの時点で契約が成立したのか。契約を締結・調印した場所はどこか。そのとき、ことりっぷがニールマーレの内情を知らなかったはずがない。知らなかったとは言わせない。

昭文社にはコンプライアンスの部署がある。あらためて強調するが、ことりっぷはブランドイメージの高い観光情報ベンダーだ。コンセプトがいい。発信と表現のセンスがよく、デザインの技術にすぐれ、働く女性から支持を受けている。その事実と実績をことりっぷも自認し、培ってきたブランドイクイティに自信を持ち、昭文社Gの企業競争力として位置づけている。私もそのセンスのよさを認める一人で、女性に徹底的に内在して商品開発する姿勢を評価する。そのことりっぷが、なぜニールマーレを..??..今回の事件と騒動は、ことりっぷの営業体質に即して考えたとき、あまりに不可解で、異常で、信じられない。結論的な仮説を言えば、ことりっぷは、ニールマーレの退去問題を事前に知り、地元との軋轢・紛争を承知しながら、敢えてニールマーレとの契約に及んだと断ぜざるを得ない。

何よりもブランドイメージを重要視し、意識の高い(したがって財布もぶ厚い)女性顧客からのコミットと信頼性を事業の命としてきたことりっぷが、何故このような不始末に至ったのか。世間から疑惑の目で見られ、ツイッターに批判を書き込まれるグレーな当事者となったのか。不思議だ。ことりっぷはロッテの信用も侵害している。今回のチョコパイの事件で、最も気の毒なのは、ロッテであり、面倒な混乱と迷惑を蒙った現場の小売スーパーだろう。おそらく、ロッテは何も知らなかったと推測する。ニールマーレがリスキーな店だとは知らなかっただろう。すべてことりっぷに任せ、ことりっぷを信用し、ことりっぷの企画書どおりに製品仕様を決定して製造に臨んだはずだ。大企業のロッテも結果責任は問われるが、コンプライアンス責任の中心に位置するのはことりっぷ(昭文社)である。

ニールマーレが実際にどんな店で、経営と運営を担っている人物がどのような素顔と正体か、今頃、昭文社Gは独自調査の作業に着手し - 特に最近浮かび上がった新事実を知って ー 驚いているのではないか。ことりっぷの企業イメージとあまりに縁遠い、正反対の、別世界と言うべき実態がそこにあるからだ。ことりっぷの商品ラインアップに入れるべきでない、選択から除外すべき店だったはずだ。退去をめぐる地元との悶着は何年も何年も醜く続き、時間を追って諍いは激しくなり、いずれ爆発することは不可避な状態だった。結局、市役所爆破予告、市長殺害予告、園児誘拐脅迫となり、全国注目の大事件となっている。「告発マンガ」から4日後、5/13からニールマーレは営業中止に追い込まれ、すでに1か月以上閉店状態にある。再開の目途は立っていない。普通に考えて再開は容易ではない。

ことりっぷは、なぜ6月出荷を中止しなかったのか。この問題は、明らかに、ことりっぷのイメージに影響する。店を事前に調査していなかったのかという問題になる。なぜ工場での製造を止めなかったのかという問題になる。結局、ロッテに大量製造させてしまい、商品をHPから削除しつつ、在庫の製品を小売に卸し、別会社の通販ルートで捌き、恰も不具合品処分に等しい後ろめたい商売を粛々と進めている。ロッテの担当者の困惑と不快は想像して余りある。が、この不祥事で生じる市場のリターンは、ことりっぷにとって打撃的なものかもしれない。つまり、これまで商品化して推挙してきた17店舗は、本当に間違いのないブランド店だったのかという疑念の発生だ。きちんと確かめた上で、ことりっぷが自信を持って商品化を決めた店だったのかという疑心暗鬼だ。誰だってそうした疑念を持つだろう。

それは、ことりっぷがネットやガイドブックで紹介した(している)店にまで及ぶ。ひょっとして、何か汚い裏事情があるのではないかという視線を持つ。まさに、ことりっぷのブランドイメージの失墜の問題だ。ロッテの商品パッケージを見て、あ、この店は景色がいいから行ってみようと思い立つ消費者もいるかもしれない。行ってみると、店は開いておらず、1か月以上前から閉まったままだとすると、消費者は、ロッテとことりっぷに騙されたと思うだろう。袋の裏か横に「注意書き」を添え、エクスキューズの処理をしているけれど、あまりに姑息で身勝手であり、消費者として納得できるはずがない。6月に初出荷された新製品なのである。詐欺同然の詭計商法だと憤慨し、消費者庁に抗議電話する者が出ておかしくないだろう。過去の17店舗で同じ例はまさかあるまい。あったら大変だ。

ロッテはニールマーレの商品を 6/13 に出すと案内、ネットで発覚してクレームが上がり、急遽、ネットから商品の広告宣伝を外し、第9弾は「軽井沢」のプチケーキだけという事故になった。地元の小売店では、6/8 から 6/11 頃にかけて、商品を棚から引き揚げたり、また揃えて掃いたりと、多忙で薄利の中、この商品の騒動のため大混乱を余儀なくされた。混乱したのは地元のスーパーだけではなく全国に及ぶだろう。明らかに、ことりっぷは流通に迷惑をかけている。不祥事を起こしている。果たして、ことりっぷの麹町のオフィスではこの件は問題に上がっているのだろうか。昭文社の法務に報告を上げているのだろうか。経営陣から対処の指示は出ているのだろうか。ことりっぷ(昭文社)に今回の事件で説明責任があると考えるのは、私だけではあるまい。

批判よりも不可解の念が先に立ち、好感を持っていたことりっぷのブランド保全を心配する。昭文社には確たる倫理綱領が制定され、公開されている。そこには、「法令を遵守することにとどまらず、社会的責任を有する企業として良識をもって行動することが必要となります。そのため、法令はもとより、社会的規範・良識に基づく行動を遵守するための具体的な行動指針を定めた倫理綱領を制定しました」とある。また、「倫理憲章」として「(社員は)会社の信用・名誉を毀損するような行為を一切行わない」、「ステークホルダーとの関係においては、社内論理によらず社会的規範に基づき、公平で公正な関係を維持し、健全な企業活動を維持する」とある。この「倫理憲章」に照らして、今回の『高知 カフェ ニールマーレの苺のレアチーズケーキ』の企画・発売・混乱の顛末はどう総括されるのか。

ロッテとのコラボのチョコ菓子に店の名前と写真が入ることは、その店の全国宣伝になる。原点に戻って何度も素朴な疑問を繰り返すが、どうしてことりっぷは今回の異常な選定をし、企画書を稟議して決済したのだろう。担当者は誰で、ニールマーレとの契約書に印鑑を押したのは誰だったのか。ニールマーレ事件(土佐市カフェ事件)がここまで大騒動になり、国民的重大事になると、今回のロッテ菓子をめぐるプロセスにも関心が向かざるを得ない。今、商品は、早く初期ロットを世の中から消してしまえとばかり、スーパーが大慌てで大量セールで掃いている。無かったことにしてしまおうという、ロッテとことりっぷの意図が透けて見える。説明責任もないまま空しい展開だ。「無責任の体系」の滑稽で噴飯なカリカチュアと言える。

最後に決定的に重要な問題をもう一つ。なぜスイーツの原材料が苺なのかという問題だ。不思議である。土佐市の特産品の果実といえば、小夏と文旦だろう。苺は特産品ではない。誰もが不自然に思ってネットで集合知の井戸端会議をしていたところ、とんでもない「真相情報」が飛び出し、当該暴露を聞いて腰を抜かし、意識朦朧の状態に陥ってしまった。信じられない話だ。が、この市、この事件、この人物群像ならあり得ておかしくない。本当に、松本清張原作の推理ドラマと化してしまった。誰か早く小説を書くべきだ。で、仮にその醜聞が、苺のスイーツが選ばれた真の理由であったとして、その「事実」をことりっぷの担当者は知っていたのだろうか。ことりっぷの担当者が女性であったとして、今、キャストの女優さんは誰がいいかなという想像が膨らむ。事実は小説より奇なりと言うが、どうやら真理だ。

天国の松本清張、瀬戸内寂聴と相談がしたい。アドバイスが欲しい。


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