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いとこのお姉ちゃん〜大どろぼうホッツェンプロッツ

突然のお別れ

2020年12月。バレーボールの練習から帰って家の玄関でスマホをチェックすると、母から不在着信が入っている。いい知らせではないと直感的に確信し、深呼吸してから折り返しの電話を入れる。

「ナオミがね…亡くなったって…」

母の兄の娘、つまり母の姪、私にとってはいとこのお姉ちゃんのことだ。あまりに突然のことで、言葉が出なかった。亡くなったのは9月のことだったらしいが、コロナ禍につき事後報告となったとのこと。

それにしても、水くさい。母と、母の兄である私の伯父は8歳離れていて、第一子のナオミ姉ちゃんが産まれた時には母は未成年でまだ実家にいたため、数年間同じ屋根の下で暮らし、ナオミ姉ちゃんは私の母のことを「ねえちゃん」と呼んで慕っていた。そんな「ねえちゃん」が結婚してすぐに産まれた私を、ナオミ姉ちゃんは妹のようにかわいがってくれていた。

2020年が始まった頃、ごはんを食べられないのだと伯母に漏らしていたらしいが、その後すい臓に異常が見つかった時にはすでに手遅れの状態だったという。

最近流行りの家族葬だが、私の個人的な意見としてはこのやり方には賛成しない。お葬式とは、故人との今生のお別れをする大切な儀式なのだと思う。その儀式をもって、この方とは現世ではもう二度とお会いすることはないのだと納得し、気持ちに区切りをつけることができるのだ。故人が生前に関わってきた人々のそれぞれが、どれほどに故人へ想いを抱いてきたかを、ご遺族が正確に推し量ることなど到底できるはずがない。それなのに、ご遺族が家族葬を理由に一様に参列をお断りしたり事後報告で済ませてしまうことが、今後は当たり前になってしまうのだろうか。

それはあまりにも寂しい…。

母の実家と憧れのナオミ姉ちゃんと本

小学生のころは夏休みに入ると、私は弟と一緒に母の実家であるおばあちゃんの家に毎年預けられていた。おばあちゃん家の玄関を入ると、仏壇のお線香のにおいの奥にバスクリンと本のにおいを感じる。これらすべてが、私の家にはなかったものだ。お仏壇はないし、父はバスクリンが嫌いだったし、本は特に買ってもらえなかった。私はこのにおいが大好きだった。

お仏壇に手を合わせるとすぐに階段をかけ上がり、廊下に鎮座しているスチール製の本棚を物色する。おもしろそうな本を取り出し、読みふける。子どものくせに不眠症だった私は、寝る前の布団の中でも手元にデスクライトを置き、眠くなるまで本を読んでいた。

「この子、本が好きなのね」

そう気付いた伯母は、クリスマスには本を選んでプレゼントしてくれた。伯母の好みだったのか、野口英世・ヘレンケラー・ナイチンゲール…と、伝記ものが多かったという記憶がある。

さて、ナオミ姉ちゃんは私の6歳上だったので、私が小学校に入る時にはちょうど中学生になる。クラブはバレーボール部に入ったらしい。夏休みにはクラブがあるので日中はそんなに遊んでもらった記憶がないが、私のことをとてもかわいがってくれた。

夏休みでなくても遊びに行くと、お古の服を持ってきてくれ、

「ようだい、これ着る?」

ナオミ姉ちゃんのセンスは私にとっては抜群だったので、一度も断ったことがない。

また、いつも少女漫画雑誌のふろくを全部取っておいてくれ、会えば大量のお土産とともに帰宅するのが本当にうれしかった。

ここで余談だが、私が中学校のクラブ活動としてバレーボールを選んだのは、間違いなくナオミ姉ちゃんの影響だ。憧れのナオミ姉ちゃんに少しでも近づきたくて始めたバレーボールが、今や私の生涯スポーツとなっていることは本当に感慨深い。

さて、ナオミ姉ちゃんも伯母と同様に私が本好きであることをわかってくれていたようで、自分が読んだ本でおもしろかったものを紹介してくれることもあった。なかでも一番記憶に残っているのが…

大どろぼうホッツェンプロッツ

これをナオミ姉ちゃんにもらったのか借りたのか、はたまたタイトルだけ聞いて自分で買ったのかを全く覚えていないのだが、とにかく夢中になって読み、続編として『~ふたたびあらわる』と『~みたびあらわる』があることを知ると、母にねだって買ってもらってまた読んだ。気に入って何度も読んだはずなのに恥ずかしながらあらすじはほとんど覚えていなくて、じゃがいもをむく場面だけがうっすらと記憶に残っている。

ナオミ姉ちゃんの訃報を聞いてから、自らの気持ちに区切りをつけるためにぼんやりとお姉ちゃんとの思い出を手繰っていたのだが、不思議なことに、黒いつばひろ帽子をかぶったひげもじゃのホッツェンプロッツのビジュアルが頭から離れない。たくさんの思い出の背景にいつも彼がいるのだ。

ナオミ姉ちゃんは嫁ぎ先で仏様になったので、残念ながらお線香をあげさせてもらう機会は持てそうにない。でも、すでに成人している子どもが2人いるので、将来はお姉ちゃんの孫が生まれることだって考えられる。もしもそんな知らせが来るようなことがあったら、この『大どろぼうホッツェンプロッツ』を贈ってみたいと思っている。



ナオミ姉ちゃん、どうか安らかにお眠りください。


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