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第4章 夫婦仲がいいと子どもにいい影響を与える?【5/12】

親の夫婦仲

わたしの両親は、基本的には仲の良い夫婦だったと思う。過去形になっているのは、父が今から12年前に他界したからだ。病床でわたし達家族に見守られながら父が息絶えた時の母の声かけから、二人きりの時に母が父のことをどう呼んでいたのかを初めて知った。

毎夜、両親の寝室からは二人で長い間何かを話している声が漏れ聞こえてきていた。共働きだったので、わたし達子どものことや職場での出来事などを話す、大切な時間だったのだろう。

父は賭け事全般が好きで(借金することはなく、わきまえたギャンブラーだった)、他にも釣りやスポーツなどの趣味が多く、休みの日には家を空けるのが常だった。そのため、家族揃ってどこかへ行くことはめったになく、それに対して母はいつも怒ってわたし達子どもに愚痴をこぼしていた。たまにする夫婦喧嘩の原因のほとんどはそこにあったのだが、父のご機嫌のとり方が上手かったのだろうか、すぐに仲直りしていた。

そして今までの章で書いてきたように、夫婦揃って世間体が最重要事項だったので、そういった問題にはタッグを組んで立ち向かっていた。

総じて、わたしの両親の夫婦仲はいい、ということになる。とここで、この章のタイトルにした問いに立ち戻る。
『夫婦仲がいいと子どもにいい影響を与える?』


「お父さんには言わないで」と頼んだのに…

一般的な答えはYESのようだが、仲がいい夫婦の下に育ったはずのわたしについては、答えはNOだ。実はこれには例外があるようだ。

まず、仮面夫婦であるケースだが、これは本当の意味では夫婦仲は悪いと言えそうなので、例外として挙げるのはふさわしくないかも知れない。そして、夫婦の仲はいいが二人ばかりが楽しんで子どもにしっかりと目を向けないケース。これはまさにわたしが育った家庭のことであり、本当によろしくない。

小学生の時、わたしの体に変化が表れた。あれ?まだ子どものつもりなのにこれは早すぎるのかも、としばらく悩み、思い切って母にそのことを伝えた。母は自分自身のことしか知らない、いわばn数1で判断し、「え?もう?」と驚いていたので、やはりわたしはおかしいのだと思った。そして、母には「お父さんには絶対に言わないでね」と頼んだ。

ところがだ。翌朝、おはようのあいさつよろしく父が放った言葉は、
「おう。○○毛!」
「…。」

怒りと悲しみで頭がどうにかなりそうだった。仲がいいにも程がある。裏切る母と、口が軽く精神的に未熟な父。

まだパソコンも普及していない、ネット社会になる前の時代。今ならちょっとググれば「わたし、おかしくないんだ」と即解決できるようなことなのに、わたしはくせ毛と受け口に加わる新たな悩みを抱えることとなった。相変わらず不眠は続いたし、みんなでお風呂に入る行事などには決して参加できないと思い込み、林間学校は欠席した。学年で行かなかったのは、わたしを含めて2~3名だったと思う。

今考えても、くだらない理由で子どもの頃の思い出となるようなことを一つ体験し損なったと思う。


母の事情

専業主婦が大半を占めていたわたしの子ども時代。しかも田舎だったので、母のようにフルタイムで働く女性は珍しかった。それでも家事は女性が担うものとされ、電子レンジなどの家事家電の普及率もまだ低い時代なのに完璧を求められる。母には時間にも心にもいつも余裕がなかった。そしてその中で母なりに優先順位をつけているのが、わたしには見えていた。

第1位 仕事
第2位 家事
第3位 父
第4位 弟
第5位 わたし

だから、母は平気で私の悩みを父に早速話したし、子どもの発育について周囲の人に訊いたり調べたりしてくれることもなく、私は無用の悩みを抱え続け学校行事への参加を断念したりと、なんだかおかしなことになっていたのだとわたしは考えている。


問いに対する結論(持論)

子育てや教育については、この章のタイトルにあることや『三歳児神話』など、まことしやかに囁かれている定説のようなものが存在するが、ここで持論を展開すると、大切なのはその定説を守ることではなく、『いかに子どもに心を寄せて本人の意思を尊重するか』なのだと思う。ここで挙げた例で言うと、どんなに夫婦仲が良くても、そして子どもが3歳になるまで母親が家庭で育児に専念したとしても、子どもにきちんと目を向けられていなければ、まるでこれらは成立しえないと思う。


外から見れば一般的な普通の幸せな家庭

夫婦仲がよく、何の問題もなく幸せな家庭。世間にはそう映っていただろう。実際に夫婦仲はよかったから、それは間違いない。けれども、父も母も世間体を守るのに必死で、起こった問題は外部に漏れないようにひた隠した。そしてそこに労力を注ぐためには、わたし達子どものことをしっかりと見る余裕なんか全くなかったのだと思う。後に続く章に書くが、私の発したSOSは何度も見過ごされた。

きっと、わたしと同じような家庭に育った方は沢山いらっしゃるのではないかと思う。だって、うちがそうだったから。家庭の中の事情を隠して幸せぶるなんて、たやすいことだ。


やっぱり仲良きことはよいこと

それでも、たまに両親が喧嘩すると子どもなりに気を遣ったもので、思春期真っ只中の弟が母の味方をして父を怒鳴りつけたこともあり、そうなると家庭内の雰囲気は最悪だ。そんな記憶が数えるほどしかないことは、いいことだとはっきりと言える。






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