”しみわたり”のこと

雪国で暮らしはじめて、もう随分たちますが、よそ者の私にとって、雪はいまだに珍しい自然現象です。

雪で苦労する人も多いので申し訳ないのですが、降り始めた雪を見るとわくわくした気持ちになり、もっと降れと心に願ってしまいます。

特に風がない深夜の、雪が降る風景の中では、すべての音が雪に吸い込まれていくようで、不思議な静けさにつつまれます。

眺めていると、雪が音と一緒に煩わしい事々も吸いとってくれるような、静かな気持ちになります。

朝日に輝く雪景色も美しくはありますが、私は真夜中の音のない雪景色がとても好きです。


そして、雪解けの季節を迎え、それでも寒さがもどり厳しく冷え込んだ朝には、「しみわたり」という現象がおきます。

日中溶けた雪の表面が深夜に凍り付き固まることをいうのですが、雪原を埋もれずに、普通に歩いたり走ったりすることができるようになります。

かんじきも、スノーシューも必要ありません。

側溝には気をつけなくてはいけませんが、普段歩くことができない場所を歩いたり、積雪の分視線が高くなった風景を眺めることができます。

まっしろな雪原をサクサクと軽快な音を立てながら走ると、空を飛んでいるような爽快感を体験できます。

おじさんが、雪の上を嬉々として走る姿は、決して美しくはないかもしれませんが。