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ディズニーのキャストは、ポジティブな言葉を生み出すプロだった

先日、ディズニーランドへ行ってきました。何度も行ったことがある夢の国ですが、改めてすごいなーと思う瞬間がありました。

リピーターを絶やさないディズニーですが、その人気の理由の1つに「キャストの高い接客力」が挙げられます。中でも、言葉遣いは接客の質を左右する重要な要素です。キャストの言葉遣いが丁寧なのはもちろんですが、そこで止まらないのがディズニー。

たとえネガティブな状況でも、ポジティブに言い換えてくれる!と思ったのです。




ディズニーキャラクターたちの去り際で

入園して間もなく、キャラクターたちが勢ぞろいしているところに遭遇しました。ドナルドダックなどの人気キャラクターたちが、お客さんに囲まれながら、写真撮影などに対応しています。ファンサタイムでしょうか。

ポーズを決めてファンサするドナルド

人の間からドナルドをのぞいているうちにファンサタイムが終了。「全然写真とか一緒に撮れなかった!」と思っていたら、案内役のキャストの方がこう言いました。

「これからみんなが出勤するので、がんばれ~と見送ってあげてくださいね」

ドナルドの隣で待機するキャストの方

うろ覚えなので少し言い回しが違うかもしれませんが、こんな感じのことを言ってました。

それを聞いて、「そうか、お仕事がんばってね」という気持ちに切り替わりました。

みんなに手を振って見送られながら退散していくキャラクターたち。大好きなキャラクターに会えたら興奮して後をつけたくなるような気もするのですが、お客さんたちはスムーズに道を空けていました。

この光景、とても治安が良くて、なんだか不思議と感心していました。

ここで注目したいのは、キャストの方が「写真撮影を終了します。みんな(キャラクター)が通るので道を空けてください」というような言い方をしていないことです。

キャラクターたちがいなくなるのはちょっと寂しい。でも、みんなで見送りましょうと言われると協力したくなる。言葉遣いからネガティブな状況をポジティブな状況に変換して、誘導をスムーズにしています。

「写真撮影を終了します。みんなが通るので道を空けてください」
→見る人への注意(ネガティブ)

「これからみんなが出勤するので、がんばれ~と見送ってあげてくださいね」
→見送る・応援する(ポジティブ)

楽しい雰囲気を壊さずに、お客さんとキャラクターたちの誘導をしっかりサポートする。うまいな〜。


グリーティングの待ち時間で

続いて、園内の他の場所でも似たような体験をしました。

ディズニーではグリーティングといって、特定のキャラクターと写真撮影ができるスポットがあります。私のグループはドナルドと写真を撮るために40分ほど列に並んでいました。

いよいよドナルドの姿が見えてきて、私のグループが待ち列の先頭に!

するとここで、キャストの方が目の前に現れました。

あー、運悪く止まってしまったと思いました。ドナルドが休憩タイムに入ってしまったのです。

しかし、ここでもキャストの方はネガティブな状況をポジティブにします。

「ドナルドがこれからかっこよくなるために準備するので、少しお待ちください!」

さらに続けてこう言います。「今のうちに鏡とかを見て、ドナルドに会う準備を整えてくださいね」

一般的な案内と比較してみましょう。

「申し訳ありません。ドナルドが休憩するのでしばらくお待ちください」
→待ち時間が増えてストレスを感じる(ネガティブ)

「かっこよくなるために準備する」「今のうちにドナルドに会う準備を整えてくださいね」
→ドナルドに会うのが楽しみになる、身だしなみを整える時間になる(ポジティブ)

待ち時間が増えたとしても、後者のほうがドナルドに会うのが楽しみになりませんか?これもポジティブな言い換えですね。


ディズニーではスタッフのことを「キャスト」と呼ぶことで一人一人の働くモチベーションを上げていたり、言葉というものをとても大事にしていると思います。そういった意識がキャストの素敵な行動につながり、日々の接客にも表れているのだと思います。まさに、ポジティブな言葉を生み出すプロと言えます。

同時に、夢の国に来てまでこのようなことを考えるのは、コピーライターの職業病だなと思いました(笑)


日常のシーンでもある、ネガからポジへの変換

夢の国に限らず、日常でもこのようなポジティブな言い換えは見られます。いくつか例を挙げてみます。

・飛行機のアナウンス

飛行機が着陸して、乗客が機体から降りるとき。

「後方のお客さま、前のお客さまが出られるまで、お席でお待ちください」
→待ってる間が退屈(ネガティブ)

「後方のお客さま、お時間がかかってしまうので、ごゆっくり、お仕度ください」
→ゆっくり準備ができる(ポジティブ)

先ほど挙げたディズニーの例と同様、「待ち時間」を「ゆっくり支度できる」というメリットに変えています。

飛行機から降りるときってなぜか焦って荷物を準備してしまうので、このようなアナウンスはそういった気持ちもなだめてくれます。


・トイレの張り紙

もう少し身近な例で言うと、だれもが見たことのあるトイレの張り紙。

「トイレはきれいに使いましょう」
→指示(見方によっては上から目線に感じてネガティブ)


「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」
→利用者のマナーを肯定(ポジティブ)

後者の言い回しは、トイレを使う側の気分や意識をあげています。調べてみると、ピグマリオン効果(他者から期待されると、期待に沿った成果を出す傾向にある現象)やナッジ理論(選択肢を制限することなく、本人が無意識に良い選択をするように誘導すること)というワードが出てきて、学術的にも理論があるようです。

逆に、禁止表現のように「~しないでください」と言われたり、命令口調で「~してください」と言われると、言ってることが正しくてもちょっと素直に聞きたくないなぁと思ったりしませんか?


・JR東海の広告コピー

最後に広告コピーの紹介です。1992年、JR東海のポスターに使われた名作コピーです。

広告事典【編集部】

距離にためされて、ふたりは強くなる。

今まで紹介した例の中でも、圧倒的な言葉の重みがあります。

常に不安がつきまとう遠距離恋愛。「会えない時間」=「愛が育まれる時間」だと考えれば乗り越えられる。当事者からすればとても勇気づけられる言葉でしょう。


言い方ひとつで、聞き手の印象は変わる

一見ネガティブに思える状況も、ポジティブな言葉で言い換えれば、相手とのコミュニケーションをスムーズにしたり、聞き手の行動を良い方向へと変えたり、気分やモチベーションを高める効果があります。

仕事やプライベートでも、ちょっと言いにくいことはポジティブに言い換えられないか?考えてみると、相手とより良い関係がつくれるのではないでしょうか。



文:ハギ

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